不動産取引の諸費用説明

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不動産取引において、売買契約の諸条件は極めて重要です。本体価格以外にも諸費用の詳細な説明は欠かせません。本記事では、新築マンションの分譲における諸費用の説明義務を巡る紛争事例を通して、不動産取引のリスク管理と契約義務について考察します。

東京高裁判決平成27年7月30日の紛争事例

マンション購入と諸費用説明の経緯

  • マンション購入の契約
    • Y(買主)は平成24年2月26日に、新築分譲マンションの一室を宅建業者Xから3,690万円で購入する契約を締結しました。手付金は360万円、引渡予定日および残代金支払日は平成25年5月中旬、違約金は売買代金の20%相当額、原状回復義務が契約に含まれていました。
  • 諸費用の概算提示
    • 宅建業者Xは平成25年2月15日ころに、買主Yに対して諸費用概算書を提示し、火災保険料2万8,370円、地震保険料8,210円、所有権の保存移転登記費用概算26万円、登記関係費用(表示登記等)12万6,000円等を通知しました。また、残代金および諸費用を同年5月2日までに銀行振込みで送金するよう求めました。
  • 引渡説明会と追加費用の提示
    • 平成25年4月30日、Yは宅建業者X本社での引渡説明会に赴きました。その際、宅建業者Xから諸費用概算書に記載されていないローン手数料が必要である旨の説明を受けました。
  • 費用明細の要求と拒否
    • Yは、宅建業者Xが提示する登記関係費用が適正金額より高額ではないかと疑念を抱き、宅建業者Xに対して明細を求めましたが、宅建業者Xは明細を出すことはできないと回答しました。
  • 弁護士を通じた交渉と決済日の経過
    • その後、双方は弁護士を立て、Y側は登記関係費用の明細や保険料およびローン手数料の請求根拠の説明を求め、宅建業者X側はYが決済に応じなければ売買契約を解除すると主張し、平行線をたどったまま、宅建業者Xの指定した決済日である平成25年5月31日を経過しました。宅建業者Xの代理人弁護士は、Yの代理人弁護士に対し、本件売買契約が解除された旨を通知しました。
  • マンション区分所有者への照会
    • 平成25年7月ころ、Yの代理人弁護士が、本件マンションの区分所有者らに対し、「ご照会」と題する文書で登記関係費用について宅建業者Xとの間で資料の提示や精算がされたか否かを照会しました。
  • 損害賠償請求と訴訟
    • 宅建業者Xは、Yの売買残代金および諸費用の不払いを理由に売買契約を解除し、債務不履行に基づき約定違約金(1,031万1,600円から受領済み手付金360万円を控除した671万1,600円)の支払いを求めました。また、Yが本件マンションの区分所有者に対し、Xの社会的評価を低下させる内容の手紙を出したとして、不法行為に基づき慰謝料相当額(100万円)の損害賠償を求めました。

当事者の言い分

宅建業者Xの言い分

  • 諸費用支払いの合意
    • 宅建業者XとYの間には、諸費用を支払うことについて合意が成立していた。
  • ローン手数料の説明と承諾
    • ローン手数料についても説明した際に、Yはこれを承諾していた。
  • 債務不履行
    • 残代金および諸費用を期限までに支払わなかったことはYの債務不履行であり、宅建業者Xの解除は有効である。
  • 不法行為
    • Yが区分所有者に手紙を差し出し、宅建業者Xの社会的評価を低下させた行為は不法行為に該当する。

買主Yの言い分

  • 諸費用の説明不足
    • Yは宅建業者Xに対し、諸費用やローン手数料の説明と根拠資料の開示を求めており、支払いの合意はなかった。
  • 信義則上の説明義務
    • 宅建業者XはYの求めに応じて諸費用の説明をすべき義務があった。
  • 債務不履行の不存在
    • 残代金等の支払日や支払方法を宅建業者Xが一方的に指定したため、Yが従わなかったとしても債務不履行にはならず、解除も無効である。
  • 不法行為の不存在
    • 区分所有者に照会文書を差し出したのは、登記関係費用に関する情報を求めただけであり、不法行為には該当しない。

本事例の裁判所の判断

原審(東京地裁)は、Yに債務不履行はなく、不法行為も成立しないとして、宅建業者Xの請求を全面的に棄却しました。宅建業者Xは控訴しましたが、控訴審(東京高裁)は以下の通り判示し、控訴を棄却しました。

  • 諸費用支払いの合意の不存在
    • 本件売買契約は不動産の売買契約であり、残代金の決済までには相当程度の期間と手続を要する契約であるため、宅建業者Xが諸費用概算書を示しただけではYの承諾があったとは認められない。また、他の証拠からも諸費用支払いの合意が成立していたとは認められない。
  • 諸費用説明義務の存在
    • 認定事実によれば、Yは平成25年4月30日以降、諸費用の説明と根拠資料の開示を求めており、Xはこれに応じる義務があった。しかし、宅建業者Xは本件解除時までにこの義務を履行しなかったため、Yが支払期日までに残代金等を支払わなかったとしても、債務不履行とは認められない。
  • 区分所有者への照会文書が不法行為に当たらない
    • Yが区分所有者に差し出した文書は、諸費用について疑問を持ち、資料の提示や精算がなされたかを照会する内容であり、宅建業者Xの社会的評価を低下させるものではなく、不法行為には該当しない。

まとめ

宅建業者が諸費用に関する買主の質問に対して誠実な説明を行わない場合、契約解除の違約金請求が認められないことがあります。契約を急ぐあまり、諸費用に関する説明を軽視することは、このような事態につながるリスクがあることを認識すべきでしょう。

  1. 詳細な費用明細の提供:費用明細や精算書を発行し、買主が納得する誠実な説明することは結果として、透明性を確保し信頼関係の向上に繋がります。
  2. 信義則の遵守:契約者間の信義則を守ることが重要です。今回の事例では、宅建業者Xが信義則に反してYの要求に応じなかったために紛争が深刻化しました。
  3. コミュニケーションの重要性:誠実な対応とオープンなコミュニケーションは、不動産取引におけるリスク管理にもなります。

本事例は、宅建業者が誠実に説明義務を果たさなかったことで不利な立場に陥った典型的なケースです。詳細な説明と透明性の確保が、円滑な取引の鍵であることを改めて認識する必要があります。