ローン特約条項による解除権行使と媒介業者の助言義務違反

不動産/不動産紛争・判例//////
  1. ホーム
  2. 不動産
  3. ローン特約条項による解除権行使と媒介業者の助言義務違反

東京地裁判決平成24年11月7日の紛争事例

ローン特約条項は、住宅購入において非常に重要な役割を果たします。特に、買主がローンの承認を得られなかった場合に契約を解除できる権利を持つことが多く、この条項は買主のリスクを軽減するためのものです。しかし、ローン特約条項が適切に行使されない場合、買主に多大な損害が発生する可能性があります。今回の事例は、媒介業者が買主に対して適切な助言を怠ったために発生した紛争です。

事件の概要

  1. 契約の締結と手付金の支払い:
    • 買主X1、X2は、2008年9月に売主宅建業者A社との間で土地建物を4500万円で購入する契約を締結し、手付金225万円を支払った。
    • 本件売買契約には、相手方が契約上の債務を履行しない場合、書面による催告の後に契約を解除し、売買代金の10%相当額の違約金を請求できる旨の特約が含まれていた。
  2. 住宅ローン特約:
    • Xらは、契約締結後、金融機関に対して住宅ローンの借入れを申込み、2008年10月2日までに承認を受けられない場合、同月13日までに契約を解除し、既払金の返還を受けることができる特約があった。
  3. 媒介契約と報酬の支払い:
    • Xらは、媒介業者Y1と媒介契約を締結し、売買契約の締結時に約定報酬の半額の75万円を支払った。
  4. 住宅ローンの申込みとその結果:
    • Xらは、媒介業者Y1から紹介された銀行Y2に対し住宅ローンの借入れを申請したが、ローンの承認を得られず、契約解除権行使の期限を過ぎてしまった。
    • 結果として、Xらは残代金の支払いに遅延し、最終的には売主宅建業者A社が契約を解除した。
  5. 訴訟の展開:
    • 売主宅建業者A社は、Xらに対して売買契約に基づく違約金225万円の支払いを求めて訴訟を提起。
    • Xらは反訴し、住宅ローン特約に基づく解除権行使を主張して手付金の返還を求めたが、一審では敗訴。控訴審では和解が成立し、200万円を売主宅建業者A社に支払うこととなった。
  6. 媒介業者および銀行に対する訴訟:
    • Xらは、A社への支払いに関連して、媒介業者Y1に対しては債務不履行、銀行Y2に対しては不法行為による損害賠償を求める訴訟を提起。

当事者の主張

買主Xらの主張

  1. 媒介業者Y1の義務:
    • 媒介業者Y1はXらが住宅ローンを借入れるための手続きを進める義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、住宅ローン特約による契約解除の機会を失わせた。これにより、媒介業者Y1は債務不履行責任を負うべきである。
  2. 銀行Y2の義務:
    • 銀行Y2は、事前審査の申込みを受けていたため、特約の期限を確認し、適時に借入手続きを行うようXらに促すべきであった。しかし、これを怠ったため、不法行為責任がある。

媒介業者Y1の主張

  1. 義務の履行:
    • 媒介業者Y1は、銀行Y2の指示に従って借入手続きを代行しており、義務を全うしていたと主張。
  2. 手続の進行:
    • 媒介業者Y1は、事前審査の申込書を銀行に提出し、その後も義務を怠っていないと主張。

銀行Y2の主張

  1. 義務の不存在:
    • 銀行Y2は、Xらの主張するような義務を負っていないと主張。

判決の結末

媒介業者Y1の責任

  • 判決では、媒介業者Y1の債務不履行責任が認められ、売主宅建業者A社に支払済みの手付金や解決金、及び媒介報酬等、合計500万円余りの賠償が命じられた。

銀行Y2の責任

  • 銀行Y2については、不法行為責任が否定され、Xらの請求は棄却された。

まとめ

媒介業者の助言義務:

媒介業者が買主に対して住宅ローン借入れの可否の判断や、住宅ローン特約に基づく解除権行使の判断について助言を行うべき義務を負うか。

  1. 媒介業者の責任:
    • 本事例では、媒介業者が具体的に住宅ローンの借入れに関する交渉窓口として行動していたことが、債務不履行責任が認められた理由の一つとされている。ローン特約条項に基づく解除権行使に関し、買主への助言義務を認めた例として実務上参考になる。
  2. ローン特約条項の重要性:
    • ローン特約条項は、買主保護、消費者保護を目的とする規定であり、買主が解除権を行使する機会を失わないよう媒介業者は十分な配慮が必要である。契約締結後には迅速に住宅ローン申込み手続きを進め、必要に応じて買主に解除権行使の助言を行うことが重要である。

この事例から、不動産取引において媒介業者が果たすべき責任の重さが浮き彫りになります。媒介業者は、買主がローン特約条項に基づく解除権を適切に行使できるよう、タイムリーな助言を提供する義務を負っています。適切な助言が行われなかった場合、媒介業者は重大な責任を問われることになります。本事例は、実務における媒介業者の役割と責任を再確認する上で重要な教訓を提供しています。