見せ金の例
ある会社の社長が別事業を起こすために会社を作ることを考えました。
新会社への出資
ここでは佐藤一男が代表取締役を務める株式会社佐藤商事、新たに作る会社をワンマン建設株式会社とします。
新しい会社の資本金は500万円が必要です。そのため佐藤一男はその資本金を佐藤商事が持つ財産から出すことにしました。
ここで分岐点です。「(株)佐藤商事」と「佐藤一男」どちらが発起人となるのか?
(株)佐藤商事が発起人となる場合
佐藤商事が発起人となってワンマン建設が出来ました。ワンマン建設の開始貸借対照表は次の通りになります。
このようにワンマン建設の帳簿に、ワンマン建設の財産として500万円が記載されました。
一方、佐藤商事が出資金として帳簿処理しているなら良いのですが、見せ金として500万円を出資したとするなら、おそらく佐藤商事側の出金理由は立替金とか貸付金、あるいは何も帳簿の記載をしていないなどと想定されます。どちらにせよ500万円を佐藤商事に送金しなければ帳簿がおかしくなります。
佐藤商事のお金の動き
佐藤商事側から見れば次の通り立替金や貸付金の回収とすれば帳簿上は問題ありません。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
立替金 | 5,000,000 | 普通預金 | 5,000,000 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 5,000,000 | 立替金 | 5,000,000 |
ワンマン建設のお金の動き
ワンマン建設から見ると、現預金を佐藤商事に移す理由がありません。なにを根拠にお金の移動をするのでしょうか。ここに矛盾が発生します。
仮に佐藤商事への貸付金や立替金で対応するとしても、いつかは回収しなければならず、回収するつもりがないなら初めから不良債権です。
また現実に金銭を移動しているのに帳簿を操作しないと粉飾となります。
佐藤一男が発起人となる場合
発起人が出資をするには、自らの名前で振り込みを行わなければなりません。佐藤商事から資本金を工面するとしても、佐藤一男名義で振り込まなくてはならないので、一度佐藤商事から佐藤一男への送金が行われます。見せ金ですので、佐藤商事からすれば後で返ってくる貸付金として処理されるでしょう。
借入金を資本金としてはいけない?
ところで見せ金を説明するときに「借入金を資本金としてはダメだ」と解説するサイトがいくつかありますが、その説明は誤解を与えます。発起人が借金して株主となったとしても、その借入と新会社の関連がなく、あくまで発起人の借入であるというのであれば全く問題ありません。
ワンマン建設が設立し、開始貸借対照表はこのようになります。
ワンマン建設のお金の動き
代表取締役として佐藤一男が就任し、見せ金を元に戻そうとします。
佐藤一男は佐藤商事からお金を借りて出資しましたので、佐藤商事への返金は佐藤一男の名義で行わなくては辻褄が合いません。そのため、ワンマン建設から佐藤商事へ直接入金できずに、一旦佐藤一男を経由することになります。
先ほどと同じ問題が発生するのですが、佐藤一男へはどのような名目で送金すれば良いのでしょうか。
刑事罰の可能性
どのような名目にせよ佐藤一男への出金は代表取締役である佐藤一男が行います。これは業務上横領罪に当たらないでしょうか。
仮に佐藤一男への送金を貸付金として帳簿へ反映すると、債権は500万円ありますが現金等はゼロになります。しかしこの債券は回収の当てのない不良債権ですから、実際に事業を進めるとなると借り入れによる資金調達をするしかありませんので、いきなり債務超過に陥ります。
こうなると特別背任罪となる可能性も見えてきます。
また最初から実体のない資本金を登記することによって、公正証書原本不実記載の罪を問われる可能性もあります。
株式会社というものは株主と経営者は別人であると前提があります。しかし今回仮定した佐藤商事やワンマン建設のように、株主と代表取締役が同じ人物であるというパターンは多く存在します。そのため、背任とはならないのではないかと思っている方は多いかもしれません。
確かに損害賠償の理屈でしたら、株主が佐藤一男だけであれば、総株主の同意によって免除することが出来ます。
しかしこの理屈は刑罰に当てはまりません。株主と経営者が同一人物であっても要件に当てはまれば処罰されてしまいます。
このように仮想の払い込みは、会社財産を害し、信用も失いかねない行為です。下手すると刑事罰も適用されますので会社設立、増資について、安易に見せ金を考えることなく、出資金は株式引受人から拠出される財産で行うことを前提に進めることが重要です。