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特別支配株主による株式等売渡請求

株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を保有する株主のことを特別支配株主といいます。

特別支配株主としての要件を満たす割合の算定する場合には、特別支配株主完全子会社の保有議決権を合算できます。

B社は、A社の総株主の議決権を7割保有しています。

また、B社の完全子会社であるC社は、A社の議決権の2割を保有しています。

この場合、B社とC社を合算してA社の9割の議決権を保有していますので、B社はA社の特別支配株主となります。

特別支配株主は、当該株式会社の株主の全員に対し、その有する当該株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができます。(会社法179条1項)

この制度は9割以上の議決権を有する株主が少数株主を排除するときに株主総会決議を経ずに売渡請求が出来る制度で、平成26年の会社法改正によって新設された制度となっています。
特別支配株主であれば株主総会の意思決定を支配できるので、結果が分かっているような株主総会を省略できるように法制化されたものです。

特別支配株主による売渡請求の方法

 株式売渡請求をしようとする特別支配株主は、株式売渡請求に係る株式を発行している対象会社に対し、株式売渡請求をする旨および対価として交付する金銭の額や売渡株式を取得する日等の一定の事項について通知し、当該対象会社の取締役会の承認を受けなければなりません。

 株式売渡請求をした特別支配株主は、株式売渡請求において定めた取得日に、株式売渡請求に係る株式を発行している対象会社の株主が有する売渡株式の全部を取得します。

このように対象株式会社が保有する株式全部に対して売渡請求をするのが原則ですが、完全子会社が持つ株式については請求しないことが出来ます。そのため、この売渡請求の通知には、完全子会社が持つ株式について請求しない旨と、その完全子会社の名称を通知する必要があります。

株主への通知

特別支配株主による売渡請求を取締役会が承認したときは、取得日の20日前までに、売渡株主等(売渡株主、売渡新株予約権者)登録株式質権者に通知または公告をしなければなりません。

この手続きは売渡株主の権利を株主総会を経ずに決定されるため、売渡株主に対しては公告で済ませることは出来ません。必ず通知することが必要となります。

売渡株主等の保護

売買価格の決定の申立て

売渡株主等は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます。

この申立制度は、売渡株主が知らないうちに決められた対価で株式を売り渡すことになることから、そのような対価の額に不服がある売渡株主に対し、適正な対価を得る機会を与えるという趣旨があります。ですので、通知や公告を受けた後に譲渡された株主がこの申立をすることは出来ないとされています。(最高裁平成29年8月30日決定)

売渡株主等の差し止め請求

次に掲げる場合において、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は、特別支配株主に対し、株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができます。

①株式売渡請求が法令に違反する場合
②売渡株主に対する通知の規定や事前開示の規定に違反した場合
③売渡請求の対価として交付する金銭等が著しく不当である場合

売渡株式等の全部の取得の無効

株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得の無効は、取得日から6ヵ月以内に、訴えをもってのみ主張することができます。
ただし対象会社が公開会社でない場合は、当該取得日から1年以内となります。

被告は特別支配株主

原告は以下の者です。

  • 取得日において売渡株主、売渡新株予約権者であった者
  • 取得日において対象会社の取締役、監査役、執行役であった者又は対象会社の取締役若しくは清算人

以上のように特別支配株主による売渡請求は、少数株主にとって強引とも取れる方法で株式を買い取る制度となっています。そのため少数株主との紛争が生じるリスクがあるほか、売渡請求を承認する取締役会も責任追及される恐れが生じます。