ワンルームマンション投資の勧誘における説明義務違反

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東京地裁判決平成31年4月17日
東京高裁判決令和元年9月26日

ワンルームマンション投資の勧誘における説明義務違反について、宅建業者に対する損害賠償請求が認められた事例を紹介します。本事例は、東京地裁判決平成31年4月17日および東京高裁判決令和元年9月26日に基づいています。

紛争の内容

背景

高校教師のXは、不動産の購入や投資の経験が全くありませんでした。宅建業者Yの営業担当社員Bからワンルームマンション投資の勧誘を受け、平成23年6月30日に本物件1を代金2,210万円、同年8月26日に本物件2を代金2,160万円で購入しました。

勧誘の内容

Bは勧誘に際して、書面に記載した計算例をXに示し、「ローンを利用して本物件を購入しても、毎月の手取家賃額とローン返済額、管理費との差額は1万円弱であり、確定申告をすればその節税効果も高い」とマンション投資のメリットを強調しました。しかし、空室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスク等の具体的な説明はありませんでした。

問題発生と損害賠償請求

Xは、購入後しばらくはBの説明通りに収支が合っていましたが、平成26年に入居者が突然退去し、新たな入居者が見つかるまで約1か月の間家賃収入が途絶えたことを経験しました。これを契機にXはリスクを認識し、平成29年3月3日にYに対して損害賠償を求め、同年9月1日にYを被告として損害賠償請求訴訟を提起しました。

各当事者の言い分

Xの言い分

Xは、Yの営業担当社員Bの勧誘には不利益事実の不告知、詐欺的な勧誘、断定的判断の提供、説明義務違反があり、そのために本物件1および本物件2を購入し、損害を被ったと主張しました。具体的には本物件1について795万5,033円、本物件2について354万6,613円の損害を被ったとし、Yには不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償義務があると訴えました。

Yの言い分

一方で、YはBの勧誘行為には違法な点はなく、仮に使用者責任が認められるとしても、X主張の損害との間に相当因果関係は認められないと主張しました。

裁判所の判断

Bの勧誘行為の違法性

裁判所は、Bの勧誘行為において不利益事実の不告知、詐欺的な勧誘、断定的判断の提供に当たる行為があったとは認めませんでした。しかし、Xは不動産投資の経験がなく、投資に充てることのできる自己資金も僅か150万円程度であったことから、Bはマンション投資のリスクについてわかりやすく説明する義務があったと判断しました。Bは投資のメリットのみを強調し、リスクについて具体的な説明をせず、リスクを無視したシミュレーションを示してXを誤信させていました。よって、Yの事業の執行についてされたBの勧誘には違法行為(説明義務違反)があったとされました。

Xの損害額

裁判所は、XがBの勧誘により本物件1および本物件2を購入した際、購入代金と諸費用および不動産取得税を出捐し、所有権を取得したことから、その差額が損害と認定されました。本物件1については400万1,615円、本物件2については330万8,520円の損害があるとされました。

過失相殺

裁判所は、Xにも過失があるとして4割の過失相殺を適用しました。Xは高校教師としての社会経験があり、投資用マンション購入に伴うリスクを認識する機会が十分にあったとされました。その他、本件に現れた諸般の事情を考慮し、過失相殺後の損害額として、本物件1について271万4,116円、本物件2について225万2,882円が認められました。

まとめ

  • 説明義務の重要性
    宅建業者は一般消費者にマンション投資を勧誘する際、マンション投資のリスクについてわかりやすく説明する義務を負っています。空室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスクなど、具体的なリスクについてしっかりと説明することが求められます。
  • 書面の交付と説明の一貫性
    本件では、売主である宅建業者Yが「不動産価格が変動すること、賃料収入は保証されないこと、計算例の値も保証されないこと」などが記載された「告知書兼確認書」をXに交付し、Xの署名捺印を得ていました。しかし、裁判所は契約締結時における告知書兼確認書の説明だけでは不十分であり、勧誘段階からリスクについて書面等に基づきわかりやすく説明することが重要であると指摘しました。

この事例から、不動産投資に関する勧誘においては、リスクを詳細に説明する義務があることが明確になりました。宅建業者は、契約締結時だけでなく、勧誘段階からリスクについて正確かつ具体的に説明しなければなりません。消費者としても、リスクを十分に理解した上で投資判断を行うことが重要です。

この事例では、不動産投資に関するリスクについて書面で交付し署名捺印を得ていましたが、これでも説明責任を果たしていないと認定されることは、なかなか酷なことです。不安を煽りまで説明する必要はありませんが、一般的な投資に対するリスクは説明しておくべきだと思います。