私道の通行掘削に関する説明義務違反

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東京地裁判決平成29年5月11日の紛争の内容

本件は、土地売買契約において、前面道路の通行や掘削に関するトラブルの可能性について、売主および媒介業者が適切な説明を行わなかったために損害賠償が認められた事例です。以下に、紛争の詳細を説明します。

物件購入と説明義務違反の経緯

  1. 土地購入の経緯 買主Xは、平成26年3月21日、宅建業者の売主Y1から、媒介業者Y2の仲介によって土地を売買代金4,980万円で購入しました。本件土地の前面道路は位置指定道路です。
  2. 前面道路の通行・掘削権に関する背景 本件土地はもともとDが所有していましたが、平成26年2月20日に宅建業者Y1がDから購入しました。隣地所有者Aは前面道路の所有権を有しており、DとAの間で前面道路の通行と掘削の権利について争いがありました(別件訴訟)。その結果、Dに対して通行権と掘削権を認める判決が出されましたが、判決文からはAが判決に従わない可能性や妨害行為を行う可能性が読み取れました。
  3. 重要事項説明と判決書の非開示 Xは媒介業者Y2に対して私道のトラブルについて質問しましたが、Y2は裁判でDが全面的に勝訴しているため問題ないと答えました。また、重要事項説明書には「判決により無償の通行権と掘削権を確認(取得)しております」と記載されていましたが、判決書自体は提示されませんでした。Y1とY2の間では、判決書を提示するとXが購入を控える可能性があるため、Xには見せないことが合意されていました。
  4. 建築工事と妨害行為 Xは土地購入後、建設会社M社に依頼して自宅の建築工事を開始しましたが、隣地所有者Aによる妨害行為(工事へのクレームや駐車の妨害)により建築工事を断念し、平成27年4月26日に本件土地をN社に売却しました。売却価格は4,020万円で、購入価格との差額は大きな損害となりました。
  5. 損害賠償請求 Xは宅建業者Y1および媒介業者Y2に対して、隣地所有者からの通行・掘削の妨害がなされる可能性について説明を怠ったとして、購入価格と売却価格の差額や工事中止に伴う違約金などの損害賠償を請求しました。

当事者の言い分

買主Xの言い分

  • 重要事項説明の欠如 Y1とY2は、土地を購入しようとするXに対し、購入するかどうかの意思決定に影響を及ぼす重要な情報を説明する義務があったが、隣地所有者Aが前面道路の使用を妨害する可能性について説明しなかったため、説明義務違反により損害賠償義務を負うべき。

売主Y1の言い分

  • 媒介業者への委託 売主が宅建業者に媒介を委託する場合、重要事項の説明は委託した宅建業者が行うものとされており、売主本人には説明義務がないと主張しました。

媒介業者Y2の言い分

  • 宅建業法の範囲内 宅建業法第35条には隣地所有者の氏名や人柄、性格などの記載義務はなく、判決書の交付義務もありません。判決書を交付しなかったのはXから要求されなかったためであり、通行権および掘削権は判決によって明確に認められているため、これについてはXに説明しています。

本事例の裁判所の判断

裁判所は以下の通り判断し、Y1およびY2の説明義務違反を認めました。

  1. 宅建業者の売主Y1の説明義務 売主は買主から説明を求められ、かつその事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがある場合には、信義則上、その事項について仲介業者を介して説明する義務がある。法的にはXの通行権や掘削権が確保されているとしても、Aが判決に従わない可能性があり、その場合にはさらなる訴訟などにより時間や費用がかかり、自宅建築工事に影響を受ける可能性があるため、Y1は判決書を交付するなどしてAの言動について説明する義務がある。
  2. 媒介業者Y2の説明義務 宅建業者には、宅建業法第35条第1項の所定事項に限らず、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがある事項についても説明義務がある。Aとのトラブルの可能性は契約締結の判断に影響を及ぼす重大な事項であるため、Y2は説明義務違反による責任がある。

まとめ

本事例からは、不動産を購入しようとする者の不利益を隠して売買を成立させれば必ずトラブルが生じることが明らかです。以下の点に学ぶべきことがあります。

  1. 正確な情報提供の重要性 宅建業者の売主Y1と媒介業者Y2は、判決書を提示するとXが購入を控える可能性があるため見せなかったが、購入後に隣地所有者とのトラブルが発生する可能性を考慮すれば、この対応は不適切です。重要な情報を隠すことなく、正確に提供することが求められます。
  2. 誠意ある回答 Xは売買前に私道のトラブルについて質問していましたが、Y2は誠意ある回答をしていませんでした。宅建業者は買主にとって不利益となる事項について特に丁寧に説明する義務があります。

本事例は、不動産売買における説明義務の重要性を示し、適切な情報提供と誠実な対応が不可欠であることを教えています。