浸水被害の調査説明責任に関する事例

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中古住宅の浸水履歴に関する詳細な調査と情報提供を怠ったとして、売主業者および仲介業者に対する損害賠償請求が認められた事例

東京地方裁判所・判決平成29年2月7日、東京高等裁判所・判決平成29年7月19日

本件は、中古住宅の浸水履歴に関する詳細な調査と情報提供を怠ったとして、売主業者および仲介業者に対する損害賠償請求が認められた事例です。以下に紛争の詳細を述べます。

物件購入と浸水履歴調査の経緯

  1. 物件の内見と調査依頼
    買主X(非宅建業者・個人)は、平成25年12月7日に地下1階が駐車場となっている戸建ての中古住宅(以下「本件不動産」)が売りに出されていることを知り、本件不動産の仲介業務を行っていたY1(宅建業者)に依頼して内見を行いました。内見時、Xは地下駐車場への浸水を懸念し、翌日Y1に対して駐車場内の排水状況の調査を依頼しました。
  2. 仲介業者Y1の調査
    Y1は、市役所で本件不動産の浸水履歴を問い合わせたところ、「本件不動産が所在する街区には浸水履歴がある」との回答を得ました。さらに、Y1は本件不動産の所有者であるY2(宅建業者)にも問い合わせ、Y2は前所有者から「平成17年の大雨の際にも浸水はなかった」との説明を受けたとの回答を得ました。Y1は地下駐車場の入口に設置された排水ポンプの動作確認も行い、正常に作動することを確認しました。
  3. Xへの報告
    平成25年12月9日、Y1はXに対して「平成17年の集中豪雨の際には駐車場内に雨水の浸水はなかった」、「ポンプの動作確認も問題なく正常に動いた」、「記録的豪雨のあった平成17年以降、浸水した場合に建物内部への水の浸入を防ぐために前所有者が駐車場と建物内出入口の間に仕切りを設けた」と報告しました。しかし、Y2が作成した本件不動産の物件情報確認書(告知書)には、浸水等の被害の有無について「知らない」と記載されていました。
  4. 売買契約の締結
    平成25年12月11日、XはY1から重要事項説明書の読み上げを受け、本件不動産の売買契約書に署名押印し、契約を締結しました。Y2はその際、浸水被害について「今まで浸水被害に遭っていない」と説明しました。
  5. 浸水被害の発生
    契約の翌年、少なくとも2回、地下駐車場に雨水が流入する浸水事故が発生しました。そのため、Xは駐車していた自動車の修理費用や、自動式止水板を設置するための工事費用を支出しました。
  6. 浸水履歴の判明
    その後、Xが市役所に浸水履歴に関する個人情報開示請求を行ったところ、平成17年9月に地下駐車場で浸水事故が発生していたことが判明しました。
  7. 訴訟提起
    Xは、Y1およびY2(以下、併せて「Yら」という)が不動産の売買契約および仲介契約上、浸水被害に関する調査を怠り、事実に反する説明を行ったために浸水被害を認識せずに本件不動産を購入し、損害を被ったとして損害賠償を求める訴訟を提起しました。

当事者の言い分

買主Xの言い分

  • 調査義務の懈怠
    Yらは地下駐車場と地下玄関との間に高さ約90cmの仕切りが設置されていることから浸水が懸念される事情が明らかであったにもかかわらず、過去の浸水履歴を含めて可能な調査を行わず、その結果をXに説明する義務を怠り、本件地下駐車場の浸水について説明しなかった。
  • 事実に反する説明
    YらはXからの浸水調査依頼を受けたにもかかわらず、調査を尽くさず、浸水の事実を否定し、明らかに事実に反する説明を行った。

売主業者Y2および仲介業者Y1の言い分

  • 適切な調査の実施
    Y1は、内見翌日に地下駐車場の排水状況の調査を行い、市役所で本件不動産の浸水履歴の確認を行なった。市役所からは街区内での浸水履歴があるとの回答を得たが、個別物件の浸水履歴は拒まれた。Y2にも問い合わせ、前所有者からは「過去に本件不動産が浸水被害に遭ったことは一度もない」との回答を得た。また、排水ポンプの動作確認も行い、正常に作動することを確認した。
  • 正確な説明の提供
    Y1は、可能な調査を行った上で地下駐車場に浸水したことはなく、排水状況も問題ない旨を正確に説明したと主張しました。

本事例の問題点

  • 浸水履歴に関する説明義務の有無
    本件不動産の浸水履歴に関し、売主および仲介業者に説明義務があるかどうかが問題となります。

本事例の結末

第1審判決(東京地裁平成29年2月7日判決)

裁判所は以下のように判示し、Xの請求を一部認め、Yらに損害賠償を命じました。

  1. 土地の性状と価格形成
    浸水事故が発生するような土地の性状は、地域の一般的な特性としてその土地の価格形成の要因に織り込まれている場合が多い。しかし、浸水履歴について説明義務があるかどうかは、説明義務を基礎づける法令上の根拠や具体的事情があり、仲介業者が情報を入手することが可能であることが必要。
  2. Xの懸念とY1の認識
    Xは内見翌日に地下駐車場への雨水の流入について懸念を示し、Y1はXの懸念を理解していた。市役所の回答から街区に浸水履歴があることを認識していたため、本件不動産についても浸水事故発生の可能性を認識し得た。
  3. Y2の情報開示義務
    Y2は所有者として情報開示制度を利用して個別の浸水履歴を容易に入手できた。
  4. 説明義務違反
    これらの事実関係から、Yらには浸水履歴につきさらなる調査を行い、正確な情報をXに説明する義務があり、説明義務違反が認められました。

控訴審判決(東京高裁平成29年7月19日判決)

控訴審では、第1審判決と同様にYらの調査・説明義務違反を認めましたが、本件不動産の評価額低下に係る損害については、浸水防止対策がされれば地下駐車場への浸水は防げるとしてこれを認めませんでした。また、自動車修理費用の一部については、機器の取替等が行われたことや必要性の立証がないとして棄却しました。

まとめ

本事例は、土地売買における売主および仲介業者の説明義務の重要性を強調しています。特に、以下の点に学ぶことができます。

  • 法令上の説明義務
    宅建業者が説明義務を負うというためには、説明義務を基礎づける法令上の根拠や具体的事情等があり、また、説明するための情報を入手できることが可能であることが必要である。
  • 事前調査の徹底
    売主および仲介業者は、土地の過去の利用状況や周辺環境に関する詳細な調査を行い、その結果を購入者に適切に説明する必要があります。特に、過去に浸水被害があった場合、そのリスクを十分に考慮すべきです。
  • 購入者の懸念への対応
    購入希望者が特に関心を示した事項については、十分な調査を行った上で慎重に回答する必要があります。本件は、特に浸水履歴に関する調査や説明義務について、参考となる事例です。
  • 法令改正への対応
    宅地建物取引業法施行規則の改正(令和2年8月28日施行)により、重要事項として水害リスクに関する説明が求められることとなりました。宅地建物取引業者は、水害ハザードマップを用いて当該宅地または建物の所在地を示し、購入者に説明する義務があります。

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