高齢者との賃貸借契約には死後事務契約が必要な理由

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高齢化社会が進む現代、日本における賃貸市場でも高齢者向けの住居が重要なテーマとなっています。しかし、多くの不動産オーナーや管理会社が、高齢者に対する賃貸契約を躊躇する理由の一つに、入居者が死亡した場合に契約を終了させて、残置物を処分する事が難しいと考えていることが挙げられます。このようなリスクを軽減するために、国土交通省では「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を作成しています。

この記事では、このモデル契約条項による高齢者賃貸における残置物リスクの対策や死後事務契約の意義について解説していきます。

高齢者賃貸の現状と課題

日本の高齢化は急速に進んでおり、65歳以上の人口が増加しています。これに伴い、高齢者向けの賃貸物件の需要も高まっています。しかし、高齢者に賃貸物件を提供することにはいくつかの課題があります。

残置物リスク

残置物リスクとは、賃借人が死亡した場合に、物件内に残された動産(家具や家電、日用品など)の処理に関するリスクです。このリスクを管理しないと、賃貸物件の所有者や管理者がトラブルに巻き込まれる可能性があります。

具体的には、以下のような問題が発生することがあります。

  • 残置物の所有権問題: 入居者が死亡した場合には、残置物の所有権は相続人に移ります。その為、残置物を勝手に処分すると違法行為として責任を負う可能性があります。
  • 処分費用の問題: 残置物の処分には費用がかかり、その負担を誰がするかが問題となることがあります。相続人を探しても相続放棄をされると、その費用を賃貸物件の所有者が負担することになってしまいます。
  • 賃貸物件の空室リスク: 残置物の処理が遅れると、次の入居者を募集するまでの期間が長くなり、賃貸収入が減少します。
相続の熟慮期間との関係

相続人が、相続をするか、放棄するかの判断には3か月間の熟慮期間がおかれています。この3か月の間に相続人としての立場で意思表示を行うと、相続することを承認したとみなされることがあります。このため、3か月を待たずに、相続放棄を検討している相続人の一人に契約の終了事務や残置物の処分を依頼するとトラブルのもとになります。

相続人が分からない場合

高齢者が死亡した場合に相続人が不明であれば、残置物の処理はさらに困難になります。相続人が見つからない場合、裁判上の手続きを経るので、時間がさらに多く掛かり、賃貸借契約の終了手続きや残置物の処理が遅延することになります。

このような状況を避けるためにも、事前に死後事務契約を締結しておくことが重要です。

死後事務契約とは

死後事務契約の概要

死後事務委任契約は、死後に行う事務や整理を生前に第三者に依頼する契約です。死後事務契約には、親族への連絡、行政への届出、葬儀の手配、インフラの解約・サブスクの解約、賃貸借契約の解除残置物の処理等があります。

高齢者が賃貸物件に住む場合、この契約を事前に締結しておくことで、賃貸借契約の継続中に賃借人が死亡した場合でも、残置物を円滑に処理することが可能になります。これにより、賃貸物件の所有者や管理者の不安を軽減することができます。

死後事務契約の必要性

高齢者が賃貸物件に住む際に死後事務契約が重要な理由には以下のようなものがあります。

  • 法的トラブルの防止:相続人が不明な場合でも、受任者が代理権を持つことで賃貸借契約の終了手続きが迅速に進められます。
  • 残置物リスクの軽減:賃借人が死亡した後に残された物品が適切に処理されないと、賃貸物件の新しい入居者を迎えるために多大な時間と費用がかかることがあります。
  • 所有者の安心感:死後事務契約を締結することで、賃貸物件の所有者は高齢者に対する賃貸契約を安心して行うことができます。

死後事務契約の実務

モデル契約条項

モデル契約条項が入った死後事務契約書には、大きく以下のようなものが含まれます。

解除に関する事務: 賃借人が死亡した場合に、受任者が賃貸借契約を解除させるための代理権についての条項。家賃を滞納している場合の、賃貸人からの契約解除通知を受領する代理権も規定されます。

相続人への通知: 賃借人の死亡後、受任者は相続人または指定された通知先に対して死亡の事実を通知する条項。先に述べた3か月の相続の熟慮期間は、相続が開始したのを知ってから3か月なので、この死亡の通知は速やかに行わなければなりません。

残置物の処分に関する事務: 賃借人が死亡した場合の残置物の処分に関する権利を受任するための条項。残置物の処分の仕方や特定の残置物を送付することなどの決まりを規定します。

まとめ

高齢者向け賃貸物件の管理には、賃借人の死亡後の残置物処理が大きな課題となります。死後事務契約を導入することで、残置物リスクを軽減し、相続人不明の場合でも円滑に処理を進めることが可能です。高齢者向け賃貸住宅の需要はこれから増していきますので、高齢者が安心して住める環境を提供するためにも、建物単貸借契約には死後事務契約の付帯が重要になってくると思われます。

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