剰余金の違法配当
以前の記事で、分配可能額は、剰余金を基に算出されることを説明してきました。「分配可能な額」というからには、その額を超えることは違法な行為になります。
純資産から資本金、準備金等を控除した額から剰余金を算出して、配当可能額を決めることが法定されているからこそ、対外的な信用を担保しているとも言えます。それを超えて配当をしてしまったらやはりこれは責任問題になってしまいます。
今回は違法配当にはどのような責任があるのかを説明していきたいと思います。
違法配当を行った者の責任
違法配当に関する責任は会社法462条に規定されていますが、かなり複雑な条文です。そこまで深くやることもありませんので、表面的な部分のみ説明します。条文を簡略化して掲載しますので、元の条文にも触れていおて下さい。
- 株式会社が剰余金の違法配当をした場合には、違法配当を受けた者並びに違法配当に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役や執行役など)及び違法配当が次の各号に掲げるものである場合の当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。
※ここでいう各号に定めるものとは、違法配当にあたる行為の決定を行った株式総会や取締役会があった場合の、「株式総会議案提案取締役」「取締役会議案提案取締役」を指します。
- 前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。
- 第1項の規定により業務執行者及び同項各号に定める者の負う義務は、免除することができない。ただし、前条第1項各号に掲げる行為の時における分配可能額を限度として当該義務を免除することについて総株主の同意がある場合は、この限りでない。
責任を負う者は次の通りです。
(1)違法配当による金銭等の交付を受けた株主
(2)違法配当に関する職務を行った業務執行者
(3)株主総会や取締役会で違法配当に関する議案を提案した取締役
(1)(2)(3)は、(1)の株主が受け取った金銭等の帳簿価格に相当する金銭を支払う義務を負います。この義務は(1)(2)(3)の連帯責任になります。
なぜ「株主が受け取った金銭等の帳簿価格に相当する金銭を支払う義務」なんてややっこしい言い回しをするかというと、配当が現金ではない可能性もあるからです。(だから「金銭等」と表現されています。)
現物配当は可能であるということが分かっていれば、この言い回しは無視してかまいません。
「交付された金銭を会社に返す義務がある。」と考えても良いと思います。
(2)(3)の責任は、無過失を証明することが出来ればその義務を負いません。
また、この義務は原則的に免除することが出来ず、株主の総同意で、分配可能額を限度として免除することができるにとどまります。
違法配当で不利益を受ける者として、債権者がいますので、株主だけの意思で免除は出来ないのです。
例えば、上図のように、株主に対して250の違法な配当をしてその内50が分配可能額を超えた状態だとします。
(2)(3)の者が連帯責任を負う者である場合に、総株主の同意があっても、免除されるのは200のみです。
というのも、もともと分配可能額であった200の部分の責任を免除しても債権者を害することにはならないからです。
これは何を意味するかというと、株主が会社に返す義務の範囲は、分配可能額を超えた配当の部分だけではなく、配当全部を返さなくてはならないということです。(250全部を返すということです。)
株主に対する求償
本来なら、違法配当で利益を得た株主が、会社にお金を返さなければならないのがスジです。
そこで、連帯責任を果たした取締役等は、違法な配当であると知っていた株主に対して求償をすることができます。
しかし、違法だとは知らずに配当を受け取った株主には求償をすることは出来ません。
求償が発生するということは取締役等が無過失を証明できなかったということですから、例えば取締役のミスで分配可能額を見誤った結果、株主がそうと知らずに違法な配当を受け取ったとしたら、その株主は求償に応じなくても良いのです。
これは第463条に規定しています。
- 前条第1項に規定する場合において、株式会社が第461条第1項各号に掲げる行為により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額が当該行為がその効力を生じた日における分配可能額を超えることにつき善意の株主は、当該株主が交付を受けた金銭等について、前条第1項の金銭を支払った業務執行者及び同項各号に定める者からの求償の請求に応ずる義務を負わない。
- 前条第1項に規定する場合には、株式会社の債権者は、同項の規定により義務を負う株主に対し、その交付を受けた金銭等の帳簿価額(当該額が当該債権者の株式会社に対して有する債権額を超える場合にあっては、当該債権額)に相当する金銭を支払わせることができる。
債権者の回収手段
違法な配当を受け取った株主に対して、債権者はその株主が受け取った配当と同等の金銭支払うように請求することが出来ます。
例えは、経営難のオーナー会社が、会社財産を株主に流出させた場合、債権者は直接その株主に相当の金銭を支払うように請求できます。(もちろん債権者の債権を超えて請求できるわけではありません。)
民法の債権者代位権に似ていますが、こちらは無資力要件がありませんし、保全の目的ではなく、弁済として直接自己に支払を要求できる点が異なります。
自己株式の取得
自己株式の取得
自己株式の取得は、自社の株主から株を買い取るという行為です。
本来の会社法のルールでは株主は株式を一旦引き受けると、会社の存続中は自分が出資した財産の払い戻しを請求することは出来ませんでした。
しかし、既存の自社株を買い取るということは、株主に対して出資の払い戻しをしていることと同じです。
そこで会社法は、株主間の公平維持や債権者保護の立場から、自己株式の取得には規制を置いています。
株主間の公平
株主間公平の立場から、取引の内容によって決定の仕方が異なります。
◆すべての株主に、申し込みの機会を与える場合。
この場合は、株式総会の決議を以て取締役会に授権し自己株式の取得について決定することが出来ます。
◆特定の株主から自己株式を取得する場合。
この場合、特定の株主に有利な条件で自己株式の売買が行われる恐れがあり、そうなれば株主間の公平を害しますので、自己株式取得の決定は株主総会の特別決議で決定されます。
この株主総会では、自己株式の譲渡人となる特定の株主は議決権を行使できません。
◆子会社が持っている自己株式を買い取る場合。
この場合の自己株式取得は、取締役会で決定することが出来ます。
子会社は親会社の株式を原則的に保有することが出来ず、やむを得ず保有するに至った場合もあるので、取締役会の決議で速やかに決定することが可能になっています。
債権者保護
自己株式の取得は株主への配当の側面も持ちますので、債権者保護のため分配可能額の範囲で行わなければなりません。
分配可能額を超えて自己株式の取得をした場合には、自己株式の譲渡人である株主、自己株式取得の決定に関わった取締役等に、違法配当と同様の責任が課されます。
但し、単元未満株式を買い取る場合や組織再編の反対株主への株式買取請求権による買い取りについては規制がないので、分配可能額を超えて行うことが出来ると言えます。
反対株主の株式買取請求権が生じるケースは以下の通りです。
(1)株式の譲渡制限をする場合(会社法116条1項1号2号) |
(2)株式に全部取得条項を付す場合(会社法116条1項2号) |
(3)種類株式の内容として、種類株主総会の決議を要しないと定められた種類株主に損害を及ぼすとき(会社法116条1項3号) |
(4)株式併合により単元未満を生じる株主(会社法182条の4) |
(5)会社が事業譲渡を行う場合(469) |
(6)合併・会社分割・株式交換・株式移転をする場合(785)(797)(806) |
この中で、(1)(2)(3)(4)に当たる株式買取請求権に対しては、次の規定があります。
- 株式会社が第116条第1項又は第182条の4第1項の規定による請求に応じて株式を取得する場合において、当該請求をした株主に対して支払った金銭の額が当該支払の日における分配可能額を超えるときは、当該株式の取得に関する職務を行った業務執行者は、株式会社に対し、連帯して、その超過額を支払う義務を負う。ただし、その者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
- 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
会社法116条1項又は第182条の4第1項の規定による株式買取請求権(上の表の(1)(2)(3)(4))による金銭の支払いが分配可能額を超えた場合は、違法配当と同様の責任が生じます。
第462条と第464条を比較するとわかりますが、業務執行者(取締役等)の責任についてはその責任を規定していますが、株主には会社に対する支払いの責任がありません。