監査役の役割
会計監査と業務監査
監査役は、取締役や会計参与の職務の執行を監査します。その内容としては、大きく「会計監査」と「業務監査」に分けられます。
会計監査では、取締役と会計参与が作成した計算書類に不正が無いかなどをチェックします。
※会社法を勉強していると計算書類や会計帳簿などと、似た言葉が出てきます。
計算書類とは、貸借対照表や損益計算書などを指し、会計帳簿とは、総勘定元帳、仕訳帳や現金出納帳などを指します。
- 公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第381第1項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。
- 前項の規定による定款の定めがある株式会社の監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。
- 前項の監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。
- 第2項の監査役は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる。一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの
- 第2項の監査役は、その職務を行うため必要があるときは、株式会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は株式会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
- 前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の規定による報告又は調査を拒むことができる。
- 第381条から第386条までの規定は、第1項の規定による定款の定めがある株式会社については、適用しない。
第389条は、「会計監査に限定された監査役」についての規定です。原則的に取締役会設置会社では、監査役を設置しなければなりません。しかし、非公開会社では、監査役の監査内容を会計監査に限定することを定款で定めても良いことになっています。
これは、株主が限定的な非公開会社であれば、取締役会設置会社といえども厳格な規制を適用させるより定款自治を優先させようという会社法の趣旨であると思われます。
ちなみに会計監査に限定された監査役しかいない会社は、会社法上「監査役設置会社」とはいいません
会社法2条9条(監査役設置会社の定義)
監査役設置会社 監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)又はこの法律の規定により監査役を置かなければならない株式会社をいう。
第389条第7項に規定してあるように、会計監査に限定された監査役については、通常の監査役について書かれてある第381条から第386条までの規定を適用しません。
第381条から第386条までの内容は次の通り。(各条項の詳細は以下に続く説明に譲ります)
- 会社法第381条(監査役の権限)
- 会社法第382条(取締役への報告義務)
- 会社法第383条(取締役会への出席義務等)
- 会社法第384条(株主総会に対する報告義務)
- 会社法第385条(監査役による取締役の行為の差止め)
- 会社法第386条(監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表)
一方で第389条では「会計監査限定の監査役」についての権利義務を規定しています。
- 監査報告書の作成義務
- 会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものの調査
- 調査結果を株主総会へ報告する義務
- 会計に関する報告の求め
- 業務及び財産状況調査権
これらを比較すると、「会計監査に限定された監査役」の役割が分かりやすくなると思います。
監査役 | 会計監査限定の監査役 | |
---|---|---|
取締役会への出席義務等 | 義務 | 任意 |
取締役への報告義務 | 義務 | 適用除外 |
株主総会への報告 | 議案、書類その他法務省令で定めるものの調査結果を報告 | 会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものの調査結果を報告 |
監査役による取締役の行為の差止め | 権限あり | 権限なし(株主が行う) |
会社と取締役間の訴訟における会社の代表 | 監査役 | 代表取締役 株主総会 取締役会が定める代表者 |
監査役の監査手段
監査役の権限
- 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。
- 監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
- 監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
- 前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。
監査役は、取締役と会計参与の職務の執行を監査し、監査報告書を作成しなければなりません。また、監査役はいつでも取締役、会計参与、支配人および使用人に対して事業の報告を求め、業務及び財産の状況調査をすることが出来ます。
監査役は子会社に対して事業の報告や業務、財産状況の調査を求めることが出来ますが、子会社は正当な理由があるときは拒むことが出来ます。
監査役の義務
監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。
監査役は、取締役の以下の①~⑤の行為について、遅滞なく取締役・取締役会に報告しなければなりません。
①取締役の不正行為 |
②取締役が不正行為をするおそれ |
③法令違反の事実 |
④定款違反の事実 |
⑤著しく不当な事実 |
これらの事実を知りながら報告義務を怠った結果、会社に損害を与えた場合は、損害賠償の責任を負います。
- 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。ただし、監査役が二人以上ある場合において、第373条第1項の規定による特別取締役による議決の定めがあるときは、監査役の互選によって、監査役の中から特に同条第二項の取締役会に出席する監査役を定めることができる。
- 監査役は、前条に規定する場合において、必要があると認めるときは、取締役(第366条第1項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の招集を請求することができる。
- 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監査役は、取締役会を招集することができる。
- 前二項の規定は、第373条第2項の取締役会については、適用しない。
監査役は取締役会に出席し、必要があると認める場合は意見を述べなければなりません。意見を述べるために必要がある場合は、取締役会の招集権者に対し取締役会の招集を請求することが出来ます。(監査役がいきなり直接招集出来るわけでは無いことに注意してください。)
一旦取締役に取締役会の招集を請求した上で、しばらくなにもアクションがなかった場合に初めて監査役が取締役会を招集できるのです。
招集権がある取締役に、監査役が取締役会の招集を請求。
請求から5日以内に、「請求があった日から2週間以内の日」を取締役会の日とする、取締役会の招集通知が発せられない。
監査役は自ら取締役会を招集することが出来る。
たとえば監査役が、1月10日に召集権者の取締役に対して取締役会の招集を請求した場合、
請求から5日以内(1月15日)に取締役は召集の通知を出すべきなのですが、その召集の内容は、招集請求日から2週間以内の日を取締役会とする通知でなければなりません。(招集請求日から2週間以内なので、1月25日までの日を設定しなければなりません。)
例えば「1月23日を取締役会とする」という様な招集通知を1月15日までに出さなかった場合、招集請求をした監査役が直接取締役会を招集できることになります。
監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。
監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案や書類等を調査し、法令もしくは定款に違反し又は著しく不当な事項があると認めるときは、この調査の結果を株主総会に報告しなければなりません。
- 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。
- 前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。
監査役は取締役の行為の差止をすることが出来ます。前に株主からの差止請求について書きましたが、それぞれの規定の絡み合いがとても面白作りになっています。
非取締役会設置会社 取締役会+会計監査限定の監査役 取締役会+会計参与 | 株主による差止請求 (著しい損害のおそれ) |
監査役設置会社 監査等委員設置会社 指名委員会等設置会社 | 監査役による差止請求 (著しい損害のおそれ)株主による差止請求 (回復できない損害のおそれ) |
上記のように非監査役設置会社では著しい損害の恐れがあるときに株主による差止請求の仕組みがあります。
また監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社では、著しい損害の恐れがあるだけでは株主による差止請求は出来ないようになっています。
監査役による差止請求と、株主による差止請求はそれぞれの条文を個別に読むと理解しにくいのですが、双方をあわせて読むと、なぜ「著しい損害」を「回復できない損害」に読み替える必要があるのかが解かりやすくなります。
監査役の権限と義務まとめ
①監査報告書の作成 | 第381条 |
②事業報告請求権 | |
③業務及び財産状況調査権 | |
④取締役への報告義務 | 第382条 |
⑤取締役会への出席、意見陳述、取締役会招集請求 | 第383条 |
⑥株主総会に対する報告義務 | 第384条 |
⑦違法行為の差止め請求権 | 第385条 |
※③④の権限は子会社に対しても及びます。
以上のような権利義務を以って監査を行いますが、原則的に監査役の監査対象は取締役の業務執行が適法であるかの監査にとどまり、ビジネスとして妥当であるかという監査は及ばないと言われています。これは経営者ではない監査役に、ビジネス面で妥当であるかどうかの判断を求めるのは難しいからです。
後の記事でも説明しますが、「会計監査に限定された監査役」と「監査役の監査は、妥当性の監査には及ばない」ということは、頭の片隅に置いておいてください。
監査役の独立性
独立性の保障
監査役は取締役を監督する立場であることから、会社法上で独立性が保障されています。
任期
監査役の任期は4年間です。正確には選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までですが、4年間と覚えてしまって構わないと思います。
通常の取締役の任期が2年であるのに対して、監査役の任期は、独立性の保障として4年間にしています。
それを定款や株主総会決議で任期を短縮できては意味がありませんので、条文では以下のような違いがあります。
取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
監査役の任期は、選任後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
監査役の任期の規定には、取締役の任期の規定のようなただし書きがありません。
また、非公開会社の監査役は任期を10年とする定款規定を置いて良いことになっています。
選任・終任
選任
監査役は取締役と同様に株主総会の普通決議で選任されます。
その株主総会に議案を提出するのは取締役(取締役会)です。
取締役が、監査役の候補を決める議案を提出できるなら、取締役に都合のよい監査役が選出されてしまいそうです。
これでは監査役に正常な役目は期待できません。
そこで会社法は、監査役の選任議案を株主総会に提出するには、監査役の同意を必要とする規定を置いています。
取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。
終任
監査役の終任については、取締役と同様の規定があるものの、株主総会による解任は特別決議によるものとしています。
また、監査役は、監査役の選任、終任について株主総会で意見を述べることができ、辞任した後も辞任後最初の株主総会で辞任した理由などを述べることができます。
取締役 | 監査役 | |
---|---|---|
会社との関係 | 委任(終了事由は民法第653条) | 取締役と同様 |
欠員を生じた場合 | 新たに役員が選任されるまでは引き続き権利義務を負う | 取締役と同様 |
解任の訴え | 少数株主による解任の訴え | 取締役と同様 |
株主総会による解任 | 普通決議 | 特別決議 |
監査役の報酬
監査役の報酬は、定款または株主総会決議で定められます。取締役の報酬規定とは異なり、監査役は株主総会において報酬についての意見を述べることが出来ます。これも監査役の独立性を保障する趣旨によるものです。
監査役の資格
監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることができない。
監査役は取締役の職務を監査しなければならないので、監査役が監査対象の取締役と同僚であっては意味が無いし、ましてや、権力で支配されやすい子会社の取締役や使用人などでは監査役としての期待ができません。
実際に監査役に対して、取締役の力が及ばないかどうかは別として、建前としてはこのような制度で監査役の独立性は保たれています。
監査役会
監査役会の構成
監査役会は3人以上で構成されます。その中の半数以上は「社外監査役」にしなければなりません。社外監査役は、過去に当該株式会社と子会社の取締役・執行役・会計参与・使用人ではなかったことが必要です。
たとえば監査役会3人なら、その内2人、4人なら2人以上は社外監査役でなければなりません。
外部から監査役として選任することで、取締役からの影響に左右されない監査が期待されます。
監査役会の権限
監査役会はすべての監査役で組織されます。
監査役会は次の職務を行います。
監査役会の職務 |
---|
監査報告の作成 |
常勤の監査役の選定及び解職 |
監査の方針、監査役会設置会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定 |
監査役会の決議は監査役の過半数をもって行われます。
監査役会の監査役は一人一人が監査の権限を持っていますが、これは取締役会の取締役が、取締役会という決定機関の構成員にすぎない事と対照的です。
公開会社で、かつ大会社の場合は、委員会設置会社を除いて監査役会を設置しなければなりません。
公開会社のような不特定多数の株主が存在する会社にあっては、監査役が多ければ良いというものではなく、取締役から影響を受けにくい社外監査役を導入させることが「監査役会」の設置を義務付ける意味があるのだと思います。
ですから「監査役会=監査役3人以上」というイメージだけでは少し物足りず、「社外監査役の影響が強い監査機関」というイメージの方が機関設計を理解するためには良いかもしれません。