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株券発行会社とは

株券不発行の原則

株式会社は株式にかかる株券を発行する旨を定款に定める事が出来ます。

会社法第214条(株券を発行する旨の定款の定め)

株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる。

つまり、株券を発行しないのが原則です。例外的に定款に株券を発行するという定めを置いている会社を株券発行会社といいます。

会社法第215条2項3項は、それぞれ株式の併合、分割に合わせて株券を発行しなければならない旨の規定です。
(株式の併合、分割は別の機会に説明します。)

株券発行会社は株式を発行したら遅滞なく株券を発行しなければなりませんが(会社法215条1項)、非公開会社については株主から請求があるまで発行しなくてもかまいません。(会社法215条4項)

会社法第215条2項3項は、それぞれ株式の併合、分割に合わせて株券を発行しなければならない旨の規定です。
(株式の併合、分割は別の機会に説明します。)

株券の記載事項

会社法第216条(株券の記載事項)

株券には、次に掲げる事項及びその番号を記載し、株券発行会社の代表取締役(指名委員会等設置会社にあっては、代表執行役)がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。

一 株券発行会社の商号
二 当該株券に係る株式の数
三 譲渡による当該株券に係る株式の取得について株式会社の承認を要することを定めたときは、その旨
四 種類株式発行会社にあっては、当該株券に係る株式の種類及びその内容

発行する株券には会社法第216条1項各号に掲げる内容を記載しなければなりません。

会社名株券に対する株式数譲渡制限の有無種類株式の場合はその種類と内容

上記4項目のほかに、「その番号」を見落としそうなのでご注意ください。株券には株券番号も記載しなければなりません。

この会社法第216条に関して、株券がいつ有効になるかについて争いがあります。

・代表取締役が署名(記名)押印したとき。
・株主に株券を交付したとき。

最高裁判例は「株主に交付したとき」としています。

最判昭和40年11月16日 裁判要旨
会社法第215条にいう株券の発行とは、会社が同法第216条所定の形式を具備した文書を株主に交付することをいい、株主に交付したときはじめて該文書が株券となるものと解すべきである。

なぜ、「いつ有効な株券になるか」に争いがあるか?

判例通り、株主に交付されたときに有効になる場合、株式会社から株主のもとへ郵送される途中に紛失し、株主の元に届く前に善意の第三者が取得したときに、その株券が無効であるなら善意の第三者を害し、取引の安全を保てないという批判があるからです。

株券の善意取得については次に図解を入れて説明します。

株券紛失のリスク

会社法第131条(権利の推定等)
  1. 株券の占有者は、当該株券に係る株式についての権利を適法に有するものと推定する。
  2. 株券の交付を受けた者は、当該株券に係る株式についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。

会社法第131条は株券を持っているものは、株式について権利を持っているものと推定するとしています。そして、株券を交付された者が善意無重過失であれば、交付したものが株主でなくても、株式についての権利を善意取得するとしています。

株券の善意取得をするためには、本来、元の株主が所持すべき株券を、株券の紛失等、何らかの理由で株券を持つに至った株主ではない株券の占有者が株券の売主となり、その売主から取得した第三者が、株券の売主を真の株主ではないと知らない事に重大な過失がなかったことが必要になります。

ちょっと言い回しがややこしいですが、民法上の善意取得の違いとしては、

民法の善意取得→善意無過失
株券の善意取得→善意無重過失

という違いがある所に注意しましょう。

株券を発行すると、紛失や盗難のリスクが生じます。そのようなリスクを避ける為次のような制度が認められます。

株券不所持制度

会社法第217条(株券不所持の申出)
  1. 株券発行会社の株主は、当該株券発行会社に対し、当該株主の有する株式に係る株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる。
  2. 前項の規定による申出は、その申出に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。この場合において、当該株式に係る株券が発行されているときは、当該株主は、当該株券を株券発行会社に提出しなければならない。
  3. 第1項の規定による申出を受けた株券発行会社は、遅滞なく、前項前段の株式に係る株券を発行しない旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
  4. 株券発行会社は、前項の規定による記載又は記録をしたときは、第2項前段の株式に係る株券を発行することができない。
  5. 第2項後段の規定により提出された株券は、第3項の規定による記載又は記録をした時において、無効となる。
  6. 第1項の規定による申出をした株主は、いつでも、株券発行会社に対し、第2項前段の株式に係る株券を発行することを請求することができる。この場合において、第2項後段の規定により提出された株券があるときは、株券の発行に要する費用は、当該株主の負担とする。

株主は株券の発行に先立ち、株券の所持を希望しない旨を会社に申し出、または、所持している株券を会社に提出することで、株券を保持せずに株主の権利を行使することが出来るようになります。

一度株券を提出して株主名簿に「株券を発行しない旨」を記載されると、その提出した株券は無効となります。

株券を所持していなくても株主の権利は行使できますが、株券発行会社においては、株式を譲渡するために株券も併せて譲渡しなければなりません。譲渡するためには、株主が申し出、株券を再発行してから行う事になります。

株券失効制度

株券失効制度は、紛失した株券について第三者の善意取得を防止するために、紛失した株券を無効にするための手続きです。

会社に対して株券の喪失登録を請求しますが、この場合株券喪失登録の請求者と株式の名義人が同じ場合と別の場合で手続きが異なりますので、2パターンに分けて図解します。

株券喪失登録を請求し、登録された者を「株券喪失登録者」と言います

株券喪失登録者と株式名義人が同一の場合

株券喪失登録の請求
会社法第223条(株券喪失登録の請求)

株券を喪失した者は、法務省令で定めるところにより、株券発行会社に対し、当該株券についての株券喪失登録簿記載事項を株券喪失登録簿に記載し、又は記録すること(以下「株券喪失登録」という。)を請求することができる。

株券喪失登録
会社法第221条(株券喪失登録簿)

株券発行会社(株式会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした日の翌日から起算して一年を経過していない場合における当該株式会社を含む。以下この款(第223条、第227条及び第228条第2項を除く。)において同じ。)は、株券喪失登録簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下この款において「株券喪失登録簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。

一 第223条の規定による請求に係る株券(第218条第2項又は第219条第3項の規定により無効となった株券及び株式の発行又は自己株式の処分の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合における当該株式に係る株券を含む。以下この款(第228条を除く。)において同じ。)の番号
二 前号の株券を喪失した者の氏名又は名称及び住所
三 第一号の株券に係る株式の株主又は登録株式質権者として株主名簿に記載され、又は記録されている者(以下この款において「名義人」という。)の氏名又は名称及び住所
四 第一号の株券につき前三号に掲げる事項を記載し、又は記録した日(以下この款において「株券喪失登録日」という。)

株券喪失登録簿には
(1)株券番号
(2)株券を失くした者(請求者)の氏名(名称)、住所
(3)株式の名義人
(4)株券喪失登録の日付
以上4項目を記載します。

株券の無効と再発行
会社法第228条(株券の無効)
  1. 株券喪失登録(抹消されたものを除く。)がされた株券は、株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過した日に無効となる。
  2. 前項の規定により株券が無効となった場合には、株券発行会社は、当該株券についての株券喪失登録者に対し、株券を再発行しなければならない。

株券喪失登録日から1年を経過すると、失くした株券は無効になり、株券喪失登録者に株券を再発行しなければなりません。

失くした株券が見つかった場合(株券喪失登録の抹消請求)

会社法第226条(株券喪失登録者による抹消の申請)
  1. 株券喪失登録者は、法務省令で定めるところにより、株券発行会社に対し、株券喪失登録(その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合にあっては、前条第2項の規定により提出された株券についての株券喪失登録を除く。)の抹消を申請することができる。
  2. 前項の規定による申請を受けた株券発行会社は、当該申請を受けた日に、当該申請に係る株券喪失登録を抹消しなければならない。

カッコ書きはとりあえず飛ばして読んで大丈夫です。
株券喪失登録者が、抹消の請求をした場合は即日に喪失登録は抹消されます。(ただし、登録から1年が経つと株券は無効になりますので、1年以内に抹消請求しなければなりません。)

株券喪失登録者と株式名義人が別の場合

株式の名義人ではない者で、株券を所持すべき正当な理由が無い者が、勝手に株券喪失の申し出をすると、本来株式を所持すべき名義人は困ってしまいます。

知らないうちに株券を無効にされないように、株券喪失登録者と株式名義人が異なる場合は、次のような手続きが発生します。

名義人等に対する通知
会社法第224条(名義人等に対する通知)
  1. 株券発行会社が前条の規定による請求に応じて株券喪失登録をした場合において、当該請求に係る株券を喪失した者として株券喪失登録簿に記載され、又は記録された者(以下この款において「株券喪失登録者」という。)当該株券に係る株式の名義人でないときは、株券発行会社は、遅滞なく、当該名義人に対し、当該株券について株券喪失登録をした旨並びに第221条第一号第二号及び第四号に掲げる事項を通知しなければならない。
  2. 株式についての権利を行使するために株券が株券発行会社に提出された場合において、当該株券について株券喪失登録がされているときは、株券発行会社は、遅滞なく、当該株券を提出した者に対し、当該株券について株券喪失登録がされている旨を通知しなければならない。

このように、株券喪失登録者と株式名義人が異なる場合は、

・株券喪失登録がされた旨
・株券番号
・株券喪失登録者
・株券喪失登録日

以上のことを株式の名義人に通知しなければなりません。

また、株券喪失登録がされている場合に、その株券を以って権利を行使しようとした者がいた場合は、その株券について喪失登録がされている旨を通知しなければなりません。(2項)

株券を所持している者による抹消の申請
会社法第225条(株券を所持する者による抹消の申請)
  1. 株券喪失登録がされた株券を所持する者(その株券についての株券喪失登録者を除く。)は、法務省令で定めるところにより、株券発行会社に対し、当該株券喪失登録の抹消を申請することができる。ただし、株券喪失登録日の翌日から起算して一年を経過したときは、この限りでない。
  2. 前項の規定による申請をしようとする者は、株券発行会社に対し、同項の株券を提出しなければならない。
  3. 第1項の規定による申請を受けた株券発行会社は、遅滞なく、同項の株券喪失登録者に対し、同項の規定による申請をした者の氏名又は名称及び住所並びに同項の株券の番号通知しなければならない。
  4. 株券発行会社は、前項の規定による通知の日から二週間を経過した日に、第2項の規定により提出された株券に係る株券喪失登録を抹消しなければならない。この場合においては、株券発行会社は、当該株券を第1項の規定による申請をした者に返還しなければならない。

株券を所持するものは、株券喪失登録の抹消を申請する事が出来ます。そのときは所持している株券を会社に提出しなければなりません。
抹消申請がなされると、株券喪失登録者へ通知されます。

通知した日から2週間が経過すると、株券喪失登録は抹消され、会社へ提出されていた株券は、抹消申請者のもとに戻ります。

ちょっと長くなりましたが、マーカーの部分だけ読んで、株券発行のリスク回避の手続きについて流れが掴めれば大丈夫だと思います。