株主名簿
これから株主名簿について説明していきます。
株主名簿についての規定は会社法第121条から第126条までありますので、分けて説明していきたいと思います。
株主名簿記載事項
株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
一 株主の氏名又は名称及び住所
二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
三 第一号の株主が株式を取得した日
四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号
会社法第121条が定める、株主名簿に記載する「株主名簿記載事項」には
- 株主の氏名(名称)、住所
- 株式の数(種類株式はその種類とその数)
- 株式取得日
- 株券番号(株券発行会社のみ)
以上の内容を記載します。
株主名簿記載事項証明書
- 前条第一号の株主は、株式会社に対し、当該株主についての株主名簿に記載され、若しくは記録された株主名簿記載事項を記載した書面の交付又は当該株主名簿記載事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。
- 前項の書面には、株式会社の代表取締役(委員会設置会社にあっては、代表執行役。次項において同じ。)が署名し、又は記名押印しなければならない。
- 第1項の電磁的記録には、株式会社の代表取締役が法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
- 前3項の規定は、株券発行会社については、適用しない。
株主は、株式会社に対して代表取締役の署名押印が付された株主名簿記載事項が記載された書面を請求する事が出来ます。
この書面を株主名簿記載事項証明書(俗に言う株主証明)といいます。
株式は目に見えない権利の概念ですので、株の譲渡などの取引を行う場合は株主である証明として株主名簿記載事項証明書を用います。
株券を持っていれば、株主である推定が働きますので、株券発行会社では、株主名簿記載事項証明書の発行をしなくてもよいとされています。(4号)
この株主名簿記載事項証明書の制度は、あとに説明する「株主名簿の写しの請求」とは異なる制度ですので、ご注意ください。
基準日制度
- 株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。
- 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。
- 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の二週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。
- 基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。
- 第1項から第3項までの規定は、第149条第1項に規定する登録株式質権者について準用する。
まずは基準日を設ける権利の内容を決めます。(2項)
例えば、2月28日を配当金の受領日とします。これに対する基準日を設けるには、2月28日から遡って3ヶ月以内に設定しなければなりません(1項)
図の例では、1月30日の基準日に株主であったAに対して配当金を支払えばよく、配当金を支払うべき2月28日に株主であるBには支払わなくてもよいということになります。
基準日を定めたときは、その基準日の2週間前までに公告をしなければなりませんが、定款で別の定めを置いている場合はそちらに従います(3項)
4項はちょっとややこしいです。
まず、基準日株主が行使できる権利は「株主総会(種類株主総会)の議決権」です。
上の図を用いて説明すると、
1月30日から2月28日までの間に株主になった者に議決権を与えてもよいと言っています。これは新規株式募集などで新たに株主となった場合に、議決権を与えることができるということを意味します。
条文には株式の取得の仕方について規定を設けていないのですが、「基準日株主の権利を害することができない。」という但し書きの縛りがあることから、この様な解釈になるようです。
この様に考えると基準日株主が権利を行使し得ない場合、例えば相続による承継取得の場合も4項の適用がありそうです。
5項の「登録株式質権者」については簡単に説明しておきます。
通常の質権なら、権利に物上代位して、債務者に払い渡す前に差し押さえという流れがありますが、株主名簿に質権者として登録してあれば、配当金は質権者に支払われるようになっています。そのような質権者の権利も基準日制度の適用を受けるということです。
株主名簿の閲覧等
株主名簿の備置き及び閲覧等
株主名簿の閲覧等は、会社法125条に規定されています。
- 株式会社は、株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない。
- 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 株主名簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 株主名簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
- 株式会社は、前項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
四 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
- 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の株主名簿について第2項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
- 前項の親会社社員について第3項各号のいずれかに規定する事由があるときは、裁判所は、前項の許可をすることができない。
株主・債権者の閲覧等請求
株主名簿は本店に備え置かなければなりません。(定款は本店・支店)
株主・債権者は営業時間内ならいつでも株主名簿の閲覧等の請求ができますが、理由を明らかにしなければなりません。
株主・債権者からの閲覧等請求は以下の場合を除き拒む事が出来ません。
①株主・債権者の権利を行使するため以外の目的の場合。
②会社の業務を邪魔するため・株主の共同の利益を害する目的の場合。
③株主名簿の情報を売る目的の場合。
④株主名簿の情報を2年以内に売ったことがある場合。
親会社社員の閲覧等請求
親会社社員は裁判所の許可を得ないと、株主名簿の閲覧等請求は出来ません。
裁判所が親会社について、株主名簿閲覧等の請求目的が以下の場合と判断すると、その閲覧等を許可する事は出来ません。
①親会社社員の権利を行使するため以外の目的の場合。
②会社の業務を邪魔するため・株主の共同の利益を害する目的の場合。
③株主名簿の情報を売る目的の場合。
④株主名簿の情報を2年以内に売ったことがある場合。
3項の各号を暗記まではしなくても、①から④までを「不正の目的で」と、まとめて、条文全体を理解しておいてもよいと思います。
株主に対する通知等
- 株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。
- 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
- 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。この場合においては、その者を株主とみなして、前二項の規定を適用する。
- 前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。
- 前各項の規定は、第299条第1項(第325条において準用する場合を含む。)の通知に際して株主に書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供する場合について準用する。この場合において、第2項中「到達したもの」とあるのは、「当該書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供があったもの」と読み替えるものとする。
株主への通知は、株主名簿に記載された住所へ宛てれば大丈夫です。
宛先不在で到達しなくても、「通常到達すべきであった時」が経過すれば到達したものとみなされます。
株式が共有の場合は、共有者のいずれかの住所を宛先と決めて、会社に通知しなければなりませんが、この通知が無い場合は、会社は、共有者のいずれかの宛先に通知すれば足ります。
5項は株主総会の召集通知に関して、書面の交付や電子メール等での通知に関しても適用される事を規定しています。
株主の所在が不明の場合、いつまでも通知を送り続けるのも不経済です。
それを解決するのが会社法第196条です。
- 株式会社が株主に対してする通知又は催告が五年以上継続して到達しない場合には、株式会社は、当該株主に対する通知又は催告をすることを要しない。
- 前項の場合には、同項の株主に対する株式会社の義務の履行を行う場所は、株式会社の住所地とする。
- 前二項の規定は、登録株式質権者について準用する。
株主が5年間不在の場合は、もう通知をしなくてもよくなります。
2項の「義務の履行を行う場所は、株式会社の住所地とする」とは、例えば、株主に対する配当金を受け渡す場所は会社になるという様なことです。こうする事で、不在株主が会社に現れない限り不在株主に対する義務の不履行にはなりません。
それでも株主が現れない場合に、不在株主の管理をするのも負担になります。
そういった場合には不在株主の株式を競売にかけることが出来ます。(会社法第197条)
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