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取締役の選任

取締役の選任

取締役は、株主総会の普通決議によって選任されます。

通常は1人の取締役の選任につき、1回の総会決議が必要とされます。例えば3人の取締役を選任するために3回の決議が行われています。そうすると結果的に、過半数の議決権を持つ多数派グループから選出される取締役ばかりになってしまいます。

そこで少数派グループが推す取締役候補にも選任の可能性を高めるために、株主は、2人以上の取締役を1回の決議で選出する場合には累積投票制度により行うことを請求することができます。

累積投票制度

累積投票制度は全取締役の選任を一括で行います。株主は、有効な議決権をもつ株式一つにつき、選任すべき取締役の数の議決権を行使できます。例えば、取締役のポストが3つあった場合に6株持っている株主は18の議決権を持ちます。一人の候補者にすべての投票をしてもいいし、分散して投票することもできます。そして、票の多かった者から順に選出されます。

取締役の選出ポストが3つあった場合で、上の図のように議決権を行使した場合、

取締役となるのは
候補者A
候補者B
候補者D
となります。

この方法なら、過半数に満たない少数派グループの推す候補者が取締役として選任される可能性が出てきます。

ところで通常の取締役の解任は、株主総会の普通決議で行いますが、累積投票で選ばれた取締役の解任も普通決議で行ったらどうなるでしょうか?

議決権の過半数を握る多数派グループなら、少数派グループが推して選任した取締役を辞めさせることが容易になってしまいます。これでは、累積投票制度の意味がありません。ですから、累積投票で選出された取締役の解任には特別決議が必要になります。

ただし累積投票制度は、取締役の選任方法として用いないことを定款で定めることが出来き、多くの会社の定款で「取締役の選任については,累積投票によらない。」という定款規定を採用しています。

取締役の任期

会社法第332条(取締役の任期)
  1. 取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
  2. 前項の規定は、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
  3. 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員であるものを除く。)についての第一項の規定の適用については、同項中「二年」とあるのは、「一年」とする。
  4. 監査等委員である取締役の任期については、第一項ただし書の規定は、適用しない。
  5. 第一項本文の規定は、定款によって、任期の満了前に退任した監査等委員である取締役の補欠として選任された監査等委員である取締役の任期を退任した監査等委員である取締役の任期の満了する時までとすることを妨げない。
  6. 指名委員会等設置会社の取締役についての第一項の規定の適用については、同項中「二年」とあるのは、「一年」とする。
  7. 前三項の規定にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、取締役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。

一 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の変更
二 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更
三 その発行する株式の全部の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社がするものを除く。)

取締役の任期は原則として2年(正確には「選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時」)この期間は定款で短く設定することも出来ます。

非公開会社では取締役の任期を最大で10年まで伸ばすことができます。10年にしておけば重任の手続きを頻繁にしなくてもよいのですが、デメリットもあります。(デメリットは次回にとっておきます。)

任期についてまとめると以下の通りです。
監査等委員会設置会社の取締役は原則任期は1年になっていますが、監査等委員の任期は2年であり、定款で任期を短縮することは出来ません。

取締役任期(原則)取締役任期(非公開会社)取締役任期(監査等委員会設置会社)取締役任期(指名委員会等設置会社)
2年2年(最長10年)1年(監査等委員は2年)1年

取締役の終任

取締役の終任

一口に取締役の終任と言っても、取締役の終任事由には、任期満了、辞任、解任、または取締役の死亡、破産などがあります。
取締役と会社の関係は、民法の委任の規定に従うため、その規定に従えば、取締役はいつでも自ら辞任することができます。また、会社法では、以下のような終任事由があります。

株主総会決議による解任

会社法第339条(解任)
  1. 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
  2. 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

また株主総会側からは、取締役をいつでも株主総会の普通決議で解任することが出来ます。
解任の決議に理由は不要ですが、正当な理由なしに解任された場合、取締役は損害賠償を請求することが出来ます。

損害賠償の額は任期の残存期間で得られたはずであろう報酬の額という考え方があります。
そうすると、取締役の任期は非公開会社では最長10年まで伸ばすことができますが、取締役と会社によほどの関係性がなければ、長く設定するもの考え物ですね。

少数株主による解任の訴え

会社法854条1項抜粋

役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき又は当該役員を解任する旨の株主総会の決議が第323条の規定によりその効力を生じないときは、少数株主は、当該株主総会の日から三十日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる。

前述の株主総会による取締役の解任決議案が否決された場合、少数株主は解任の訴えを提起することが出来ます。

訴えを起こすには、取締役の職務の執行に関し不正の行為や法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、解任決議案が否決されることが必要です。
少数株主ならいつでも解任の訴えを起こせるわけではないことに注意してください。

取締役の欠員

取締役会設置会社では、取締役が3人以上いることが会社法で定められています。取締役がギリギリ3人いて、1人欠員が出たらどうなるでしょうか?このままでは法律違反の状態になってしまいます。
そこで、取締役が任期満了または辞任での欠員の場合、元取締役は、次の取締役が就任するまで引き続き取締役としての権利義務を有します。

しかし、不正などの理由があって解任されたときなどは、そのまま取締役としての権利義務を保持させるのに適しない場合があります。
その場合は、裁判所の判断で、利害関係人の申立てにより一時取締役を選任することが出来ます。

任期満了、辞任での欠員解任での欠員
引き続き取締役としての権利義務を有する取締役としての権利義務はない

裁判所が必要と認めるには「引き続き取締役としての権利義務を有する」元取締役が、取締役の職務を全うできない場合や、解任での欠員である場合が考えられます。