取締役会の招集
取締役会の招集は、株主総会の招集と混同しやすいと思いますので、注意しながら進めてください。
- 取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。
- 前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役(以下この章において「招集権者」という。)以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。
- 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。
取締役会は各取締役が招集できるのが原則です。ただし、定款又は取締役会で招集権者を定めることが出来ます。
この場合は、代表取締役が招集権者となることが多いのではないかと思います。
招集権者を定めた場合は、各取締役自ら招集は出来ませんので、取締役会を開催する理由がある場合は、招集権者へ招集を請求することができます。
しかし請求しても招集権者が取締役会の招集を通知しない場合も考えられます。
招集権者が取締役会の招集に応じない場合
例えば、6月2日に取締役が招集権者に、招集を請求した場合。
請求した日から5日以内(6月7日まで)に、「請求した日から二週間(6月17日)以内の日を取締役会とする」通知が無い場合は、請求した取締役が自ら招集することが出来ます。
言い回しがややこしいですね?。
別な言い方をすると、いくら請求から5日以内に通知を出したからといって、その通知の内容が「6月30日に取締役会を行う」という内容の通知ではダメということです。あくまで「請求日から2週間以内に取締役会を行う」という通知が必要です。
招集手続きの省略
取締役会を招集する場合は、会の1週間前までに通知を行うのが原則ですが、全員の同意があれば招集手続きを省略することができます。
そのため、予め取締役全員の同意で定期的に行っている取締役会では招集通知がなくても大丈夫です。
- 取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。
- 前項の規定にかかわらず、取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。
株主、監査役の取締役会招集手続き
取締役だけではなく、必要があると認められるときは監査役も招集を請求することができます。
また、監査役設置会社ではない取締役会設置会社では、株主が取締役会の招集を請求できます。何れの場合でも、366条3項と同様の手続きで自ら招集することも出来ます。
監査役設置会社ではない取締役会設置会社とは、「監査役が会計監査に限定されている会社」か「会計参与を置いている会社」です。
このような会社では、株主が取締役の監視を行う役割も果たしています。
取締役会の決議
- 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
- 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
- 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
- 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
- 取締役会の決議に参加した取締役であって第3項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。
取締役会では、1人1議決権で、出席取締役の過半数の賛成で決議されます。 この議決権行使は、取締役本人によって行わなければならず、代理人に委任することは出来ません。
また、取締役会の決議について特別利害関係を有する取締役は、決議に加わることが出来ません。
この辺りは株主総会との比較で間違いやすい所なので注意しましょう。
特別利害関係を有する取締役とは、例えば、利益相反取引を行おうとしている取締役が、その利益相反取引の承認を行う取締役会との関係で特別利害関係があると言えます。
また特別利害関係を有する取締役について、代表取締役を解職する場合に当該取締役は特別利害関係人にあたるとする判例があります。(最判昭和44年3月28日)一方、代表取締役を選任する取締役会決議においては、当該取締役は議決権を行使できるとしています。
取締役会の議事録には出席した取締役、監査役全員が署名(記名)押印しなければなりませんが、その取締役会で反対した者は、議事録に対して異議をとどめないと、決議に賛成したものと推定されます。(「取締役会で反対したから署名押印しない」というのはダメです。)
議事録は10年間本店に備え置かれます。議事録の閲覧権者も併せて確認しておきましょう
取締役会の決議の省略
取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
取締役全員が書面や電子決裁で提案に同意した場合は、取締役会の決議があったものとみなされるという定款の定めを置くことが出来ます。
全員の同意が書面等で取れれば当然に省略OKというわけでは無く、予め定款の定めを置いておくことが必要です。
また、取締役全員が同意の書面を提出しても、監査役がその提案に異議を唱えれば取締役会の決議を省略することは出来ません。
取締役会決議の瑕疵
株主総会決議の瑕疵とは異なり、取締役会決議の瑕疵については会社法で特別な規定を置いていません。ですので、一般原則に従い、瑕疵のある決議は原則として無効になります。
取締役会決議の瑕疵とは、招集手続き違反、定足数不足、特別利害関係人の参加などがあります。
ただし、瑕疵ある取締役会決議により取締役が行った行為について、当然に無効となるわけではありません。軽微な瑕疵の場合や、第三者と取引があった場合は、有効となる余地もあります。
株主からの責任追及
株主代表訴訟
前回までは、取締役の会社に対する責任追及について書きました。
取締役に対する損害賠償について債権者は会社であり、その訴えを起こす場合は、監査役が会社を代表して責任を追及することになります。(非取締役会設置会社では株主総会が、会社を代表するものを選定します)
しかし監査役とはいえ、取締役会では顔を合わせて仲間意識みたいなものもあり、責任追及を怠る場合もあります。
そこで会社法では、株主が会社を代表して取締役を訴える「株主代表訴訟」を規定しています。
※本当は「取締役への責任追及」だけではなく、「役員等への責任追及」としたほうが正確ですが、ここでは取締役にスポットを当てています。
株主代表訴訟の手続き
株主がいきなり訴えを起こせる訳ではなく、以下のような手続きで行います。
6箇月前から引き続き株式を有する株主は、会社に対して書面等をもって、取締役の責任を追及する訴訟を提起するよう請求することができ、株主が請求をしたもかかわらず60日以内に訴訟を提起しない場合、会社は株主に対して提訴しない理由を通知しなければなりません。
この場合、株主は会社の代わりに、自らが原告となって訴訟(株主による責任追及等の訴え)を提起することができます。
※「6か月前から」という要件は、非公開会社では不要というのはお約束です。
上記の「60日以内に訴訟を提起しない場合」には例外があります。
株主は、原則的に提訴請求を経ずに訴えを提起することは出来ませんが、60日も待っていたら「回復することのできない損害」が生じるおそれがある場合、株主は直ちに訴えを提起することができます。
株主代表訴訟は株主一人でも提起できますので、濫用的な訴訟が起こる可能性もあります。そこで、訴えられた取締役は、その訴えが悪意であることを疎明すれば、裁判所は訴訟を提起した株主に対し相当の担保の提供を命じることが出来ます。
株主代表訴訟の手続きについては会社法第847条に規定されています。 条文は長いですが、ここまでまとめた部分を理解できていれば大丈夫だと思います。条文と併せて読んで理解を深めましょう。
- 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第189条第2項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第423条第1項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第120条第3項の利益の返還を求める訴え又は第212条第1項若しくは第285条1項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。
- 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
- 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。
- 株式会社は、第1項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主又は同項の発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等若しくは清算人から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。
- 第1項及び第3項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。
第847条3項に規定されているように、株主は、「株式会社のために」訴えを提起することが出来ます。(株主自らの利益の為に訴えるのではない。)
株主代表訴訟で損害賠償請求訴訟に勝訴した場合、原告である株主ではなく、「会社に対して」支払うように命令されます。
株主代表訴訟は、あくまで会社が取締役に対して持つ請求権を実現させるための訴訟であることに注意しましょう。
特別取締役
特別取締役による取締役会の決議
- 第369条第1項の規定にかかわらず、取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)が次に掲げる要件のいずれにも該当する場合(監査等委員会設置会社にあっては、第399条の13第5項に規定する場合又は同条第6項の規定による定款の定めがある場合を除く。)には、取締役会は、第362条第4項第一号及び第二号に掲げる事項についての取締役会の決議については、あらかじめ選定した三人以上の取締役(以下この章において「特別取締役」という。)のうち、議決に加わることができるものの過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行うことができる旨を定めることができる。
一 取締役の数が六人以上であること。
二 取締役のうち一人以上が社外取締役であること。
- 前項の規定による特別取締役による議決の定めがある場合には、特別取締役以外の取締役は、第362条第4項第一号及び第二号又は第399条の13第4項第一号及び第二号に掲げる事項の決定をする取締役会に出席することを要しない。この場合における第366条第1項本文及び第368条の規定の適用については、第366条第1項本文中「各取締役」とあるのは「各特別取締役(第373条第1項に規定する特別取締役をいう。第368条において同じ。)」と、第368条第1項中「定款」とあるのは「取締役会」と、「各取締役」とあるのは「各特別取締役」と、同条第2項中「取締役」とあるのは「特別取締役」と、「取締役及び」とあるのは「特別取締役及び」とする。
- 特別取締役の互選によって定められた者は、前項の取締役会の決議後、遅滞なく、当該決議の内容を特別取締役以外の取締役に報告しなければならない。
- 第366条(第1項本文を除く。)、第367条、第369条第1項、第370条及び第399条の14の規定は、第二項の取締役会については、適用しない。
取締役会は、出席取締役の過半数で決議を行う事が原則ですが、「重要な財産の処分、譲受け」「多額の借財」については、特別取締役を選定することで、その特別取締役で構成される取締役会で決定を行う事ができます。
ただし特別取締役を置ける会社は次の通り。
・指名委員会等設置会社ではない取締役会設置会社であること
・取締役の数が6人以上いること
・社外取締役が1人以上いること
特別取締役で決議した事項は、遅滞なく特別取締役以外の取締役へ報告しなければなりません。(取締役会への報告ではない点に注意!)
あと細かい所ですが、特別取締役による取締役会の決議は、持ち回りによる書面決議や電子決裁(会社法370条)が適用されません。
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