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任務懈怠責任

取締役の損害賠償については、会社法第423条に規定があります。

「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(第423条1項)」

取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人と、役員等というくくりで規定されていますが、ここでは敢えて取締役の責任について書いていきます。

取締役は会社に対して、善管注意義務・忠実義務を負いますが、これらの義務に違反したとき、任務懈怠があったとされ、賠償責任が生じます。

任務懈怠責任が生じる場面としては、競業取引、利益相反取引の他、監視義務違反による損害、特定に株主に対する利益供与、配当可能額を超えた違法配当などがあります。

取締役の責任の免除、軽減

取締役の任務懈怠責任に対する損害賠償については、株主全員の同意があれば免除できます。これはものすごくハードルが高いですね。大きい会社ではまず無理ではないかと思います。

株主総会での責任の一部免除

株主総会での特別決議で責任の一部を免除することが出来ます。ただし、取締役は善意無重過失であることが必要です。

一部免除額とは、下記の通りです。

「損害賠償額」-「最低責任限度額」=免除額

最低責任限度額とは、数年分の報酬と新株予約権で得た利益の合計額です。

最低責任限度額(第425条1項1号2号)
代表取締役6年分の報酬額左記の報酬額に合わせ、新株予約権で受けた利益の額
取締役4年分の報酬額
社外取締役、会計参与、監査役または会計監査人2年分の報酬額

例えば、代表取締役への損害賠償額が1億円で、その代表取締役が1年1000万円の報酬、ストックオプションで2000万円の利益を出していたとしたら、最低責任限度額は6年分の報酬6000万円+2000万円で8000万円となり、「損害賠償額」-「最低責任限度額」=免除額であるから、

1億-(6000万円+2000万円)=2000万円

2000万円が免責される限度です。つまり特別決議を経ても、この代表取締役には8000万円の損害賠償責任があります。免除があっても結構厳しい責任ですね。

取締役会での責任の一部免除

監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社は、定款で定めることによって、取締役の過半数の同意(取締役会設置会社では取締役会決議)によって、責任の一部免除をすることが出来ます。(第426条)

責任の連帯

取締役が会社に対して損害賠償を負う場合に、他の取締役もその損害賠償責任を負うときは、連帯債務となります。(第430条)

前の「取締役の義務」で競業取引、利益相反取引は株主総会(取締役会)の承認の有無に関わらず、会社に損害を与えたら任務懈怠と推定されることを書きましたが、例えば、代表取締役の利益相反取引について、取締役会議事録に承認のハンコを押した取締役は、その損害についての連帯債務者となります。
たとえ形だけの取締役であっても、議事録に署名押印することは責任がとても重いのです。

取締役の第三者に対する責任

前回までは、取締役の「会社に対する」責任について書きましたが、今回は第三者に損害を与えた場合の規定について書いていきます。

会社法では第429条に規定されています。

第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
  1. 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
  2. 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

一 取締役及び執行役 次に掲げる行為

イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第440条第3項に規定する措置を含む。)

二  会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役、監査等委員及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録

細かく暗記する必要はありませんが、重要な部分は、

①「職務を行うについて悪意又は重過失があった場合」

②「重要書類に対する虚偽の記載」

①②の何れかがあれば取締役は、第三者に対して損害賠償の責任を負います。
ここで、取締役は軽過失なら第三者に責任を負わないのか、という疑問が出てきます。

不法行為責任説と法定責任説

民法上の不法行為責任の規定では、過失があって他人に損害を与えれば、損害賠償責任を負わなければなりません。つまり民法では軽過失でも責任を負います。

民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法では加害者に「故意又は過失」があれば、損害賠償の責任を問えます。
ところが会社法では、取締役の責任追及のためには、加害者に「悪意又は重過失」が必要という要件になっています。
そうすると民法の規定より会社法の規定の方が、加害者である取締役への責任追及のハードルが高そうです。
これでは取締役の責任は会社法によって軽減されているように見えます。
第三者に対する責任の取り方として正しいのでしょうか?

この問題に対して、2つの説を紹介します。

不法行為責任説

会社法は民法の特別法なので、規定が重複する場合は、会社法の規定が優先されます。ですから、取締役が第三者に損害を与えた場合は会社法第429条が優先され、第三者を害することに対して取締役に悪意又は重過失があったことを証明しなければ取締役に対する責任を追及できません。というのが不法行為説の立場です。

法定責任説(判例の立場はこちら)

会社法第429条は、取締役の責任を軽減したものではなく、第三者に対する責任を加重するために特別に規定されたものです。
多くの人が関わる会社では、取締役の行為に対する影響も大きいので、民法の不法行為責任とは別枠で、会社法が特別に設けた第三者保護のための規定です。というのが法定責任説です。

法律で特別に設けた「別枠」の責任なので、第三者が民法上の不法行為責任を追及することも妨げられません。

第三者が取締役に対して責任を問う場合は、取締役の行為と損害に相当の因果関係が必要とされています。

さらに判例では、第三者は自己に対する加害に対して悪意・重過失を証明しなくても、任務懈怠について悪意・重過失を証明すれば足りするとし、直接損害ばかりではなく間接損害も賠償の対象となるとしています。(最大判昭和44年11月26日)

 悪意・重過失の対象損害の範囲
不法行為責任説自己に対する加害行為直接損害が対象
法定責任説任務懈怠をしたこと直接損害ばかりではなく間接損害も損害賠償の対象

以上のように、会社法は、第三者への取締役の責任を「重くする」方向に規定されていると考えてください。

そして、「責任を加重するために特別に規定されたもの」というところがミソで、この規定による遅延損害金の利率は、商法で規定される法定利率6%ではなく、民法規定の5%になります。

つまり、商行為によって発生した遅延損害ではなく、特別の規定によって発生した賠償責任の遅延損害金だから。という考え方です。複雑ですね!

最高裁判例

平成元年9月21日(第三者に対する取締役の損害賠償責任)
平成26年1月30日(会社に対する取締役の損害賠償責任)