遺産の共有とは

民法第898条
  1. 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
  2. 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

相続人が複数存在するときは、相続開始とともに共有の状態になります。持分割合は各自の相続分となります。
これを遺産共有といい、この共有状態は暫定的なものであって、個々の持ち分を確定させるには遺産分割の手続きが必要になります。これが相続財産の原則です。

共有されない相続財産

金銭債権のうち、可分債権とされる損害賠償債権、賃料債権、貸付金債権は、相続と同時に各相続人に分割されて帰属するものとなります。

相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭の他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである。

(最判昭和29年4月8日)

これらすでに分割されて各相続人の財産として帰属していますので原則的には遺産分割の対象になりません。
各相続人の同意のもとに分割協議の対象とすることはできます。

預貯金債権は共有に属す

預貯金債権も金銭債権ではありますが、これは共同相続人の遺産共有とされます。これは近年の最高裁大法廷で決定されたものです。

共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。

最大決平成28年12月19日

この決定の影響で、遺産分割協議が終わるまでは預貯金債権の払い出しが困難になり、例えば当面の生活資金需要に対応できなくなる事態が発生します。

遺産の分割前における預貯金債権の行使

そこで民法は各相続人が預貯金の一部について単独で請求できる権利を規定しています。

民法第909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

預貯金は相続開始後も入金がある場合がありますが、この点はどうなるのでしょうか?計算の基準額については、民法で「相続開始の時の債権額」となっています。

つまり「相続開始時点の残高」×1/3×相続割合が単独で請求できる金額です。

この規定をふまえ各金融機関では各相続人からの遺産分割前の相続預金の払戻し制度を周知しています。
当面の生活費は確保できそうですが、各金融機関ごとに払い戻しができるのは法務省令により150万円までとなっているようです。

現金は分割されるか?

紙幣や貨幣などの現実に存在する金銭は相続発生と同時に法定相続割合で分割されるのか?これについて、以下の判例があります。

相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。

最判平成4年4月10日-https://www.courts.go.jp/

金銭は遺産共有の扱いとなり、遺産分割協議を経たうえで分配されることとなります。金銭は相続人の誰かが管理することとなりますので争いの種になり得ます。早めに遺産分割協議を行うことをおすすめします。