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株主総会の権限

株主総会は名の通り株主によって構成される機関です。
株主総会は、その株式会社が取締役会を設置するかしないかで、大きく異なります。

非取締役設置会社の株主総会

取締役会を設置しない(非取締役設置会社)場合は、株主総会は株式会社の組織、運営、管理その他の一切の事項について決議することができます。株主総会が万能機関だといわれるゆえんです。

取締役会を設置しない会社は、かつての有限会社のように、小規模で株主と取締役の関係が近く、言い換えれば所有と経営の分離が進んでいない会社を想定しています。

取締役会設置会社の株主総会

取締役会設置会社では、非取締役設置会社に比べて規模が大きい会社を想定しています。

規模が大きい会社では、株主が多くなり、執行する業務も複雑で多岐に渡ります。

このような規模の大きい会社を想定するに、株主総会があらゆる決め事に対して決議をするにも、株主の数が多くなると、それだけ利害関係も複雑になりますし、業務が滞るだろうと想像できます。

そこで取締役設置会社では所有と経営の分離をより進めて、株主総会の決議できる事項を、定款と会社法で定める事項に限定しています。

取締役会設置会社の株主総会においては決議事項は大きく次の通りです。

  • 取締役等の選任・解任に関する事項
  • 定款変更や事業譲渡・合併などの会社の基礎を変更する事項
  • 剰余金の配当など株主の重要な利益に関する事項
  • 取締役の報酬など、他に委ねることが適当ではない事項

株主総会の招集

株主総会の招集方法は、法律で規律されています。
招集方法がすべての株主にとって不利益の無いようにするために、ルールを設けているのですが、そのルールは会社の規模により変化します。

大きい会社(取締役会設定会社)は株主の利害関係が複雑になるのを想定してルールを厳しくしていますが、小さい会社(非取締役会設置会社)は株主の間柄が近い事が多く、ルールはざっくりでいいでしょう。というような感じなので、そういう感覚で読んでいくと大枠が掴みやすいと思います。

まず、基本の条文に触れて、非取締役会設置会社と取締役会設置会社での異なるルールについてまとめていきたいと思います。
※今回、条文のカッコ書きを省略してところあります。

株主総会の招集方法

会社法第296条(株主総会の招集)
  1. 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
  2. 株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
  3. 株主総会は、次条第4項の規定により招集する場合を除き、取締役が招集する。

1項 定時株主総会

1項は定時株主総会について書いています。上場企業では3月決算の会社が多いので、6月下旬に株主総会が集中するようです。
(総会屋対策として6月下旬に集中させる意図もあったようですが、今では慣行で6月下旬になっているようです。)

2項 臨時株主総会

2項は臨時株主総会はいつでも招集できると規定しています。

3項 取締役の株主総会招集の原則

3項には、株主総会の招集は原則的に取締役が行うことが規定されています。

株主による招集の請求

会社法第297条(株主による招集の請求)
  1. 総株主の議決権の百分の三以上の議決権を六箇月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
  2. 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
  3. 第1項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。
  4. 次に掲げる場合には、第1項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。

一 第1項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
二 第1項の規定による請求があった日から八週間以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合

1項 株主による招集請求

少数株主は取締役に対し、株主総会の招集を請求することが出来ます。自ら招集するのではないことにご注意ください。ここを混同してしまうと、後の条文の理解が進みにくくなります。

2項 株式保有要件の緩和

2項では、非公開会社について6か月の株の保有の要件が緩和されています。
非公開会社では株主の変動がほとんどありません。少数株主権の濫用目的で株を取得することは難しいので、保有期間の要件はあまり意味がないのです。

3項 総株主の定義

3項は総株主の議決権について定義しています。株主が株主総会の招集を請求する場合は、株主総会の目的である事項を示さなければなりませんが、その事項についての有効な議決権の総数が1項のいう「総株主の議決権」になります。

4項 株主による招集

4項は、株主が自ら招集するための例外規定です。
噛み砕いていうと、招集を請求したのに放っておかれた場合は、裁判所の許可を得て、株主自ら招集することが出来るのです。

株主総会の招集の決定

会社法第298条(株主総会の招集の決定)
  1. 取締役(前条第4項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第302条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 株主総会の日時及び場所
二 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
四 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

  1. 取締役は、株主株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。次条から第302条までにおいて同じ。)の数が千人以上である場合には、前項第3号に掲げる事項を定めなければならない。ただし、当該株式会社が金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社であって法務省令で定めるものである場合は、この限りでない。
  2. 取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株主総会において決議をすることができる事項」とあるのは、「前項第二号に掲げる事項」とする。
  3. 取締役会設置会社においては、前条第4項の規定により株主が株主総会を招集するときを除き、第1項各号に掲げる事項の決定は、取締役会の決議によらなければならない。

1項 招集の決定事項

第298条は、取締役(株主が自ら招集する場合は株主)が株主総会を招集する場合に決めなければならない事項を定めています。
定めるべき事項は、

  • 株主総会の日時と場所
  • 何のために株主総会を招集するのかの事項
  • 株主総会に出席しない株主が、議決権を書面によって行使出来る場合はその旨
  • 株主総会に出席しない株主が、議決権をインターネット等によって行使出来る場合はその旨
  • 法務省令で定める事項

「法務省令で定める事項」は会社法施行規則に細かく規定されていますがここはスルーしましょう!

2項 株主1000人ルール

株主の人数が1000人以上の場合は、書面による議決権の行使について定めることが必要です。(こちらが原則。)

しかし、上場会社で法務省令に定める会社の場合はこの限りではないとしています。この法務省令は、会社法施行規則第64条を指します。

会社法施行規則 第64条  (書面による議決権の行使について定めることを要しない株式会社)

法第298条第2項 に規定する法務省令で定めるものは、株式会社の取締役(法第297条第4項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主)が法第298条第2項 (同条第三項 の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定する株主の全部に対して金融商品取引法 の規定に基づき株主総会の通知に際して委任状の用紙を交付することにより議決権の行使を第三者に代理させることを勧誘している場合における当該株式会社とする。

つまり株主総会の通知とともに委任状を交付している上場会社は、書面による議決権の行使について定めなくてもよいということです。ちょっと複雑な構成ですね。

3項の読み替えによる効果

取締役会設置会社では、第298条第2項の1000人ルールのカッコ書きに対して読み替えがあります。

「株主総会において決議をすることができる事項」

「株主総会の目的である事項があるときは、当該事項(第298条2項)」

読み替えてみても、ちょっと意味が分かりにくいですね。

非取締役会設置会社では、前もって株主総会では事前通知なしでも様々なことを決めることが出来ます。
しかし取締役会設置会社の株主総会では、298条2項で定める事項のみを決議できます。(第309条5項)
これは予め通知した議題しか決議できないというルールです。

つまり予め議題を通知することで、その議題に議決権をもつ株主を算出するのです。
たとえば、ある取締役設置会社に議決権をもつ株主が1000人いたとしても、A案を決めるための株主総会を開催し、A案についての議決権を持つ株主が500人しかいない場合は、1000人ルールの適用外ということです。

4項では、株主総会を招集する機関が株主総会の事項を決定することを書いています。
取締役会設置会社では、1項各号の事項の決定は、取締役会の決議によらなければならないと規定されています。
後の回でもふれますが、取締役会設置会社の取締役は、取締役会の一構成員という位置づけなので、取締役が決定するという場面はあまり見られません。

続いて、第299条から第302条について書いていきたいと思います。

株主総会の招集の通知

会社法第299条(株主総会の招集の通知)
  1. 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条第1項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
  2. 次に掲げる場合には、前項の通知は、書面でしなければならない。

一  前条第1項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合
二  株式会社が取締役会設置会社である場合

  1. 取締役は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。この場合において、当該取締役は、同項の書面による通知を発したものとみなす。
  2. 前二項の通知には、前条第1項各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

前条(第298条)第1項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたとき」は何度も出てくるので、「株主総会に出席しない株主に、書面やメール等で議決権を行使できるようにしたとき」と読み替えれば理解しやすいと思います。

1項 株主総会開催通知の時期

  • 非取締役会設置会社(非公開会社)→ 株主総会の1週間前までに(定款でそれ以下にすることも可能)
  • 取締役会設置会社 (非公開会社)→ 株主総会の1週間前までに通知(※)
  • 取締役会設置会社(公開会社)  → 株主総会の2週間前までに通知

※第298条第1項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときは非公開会社であっても2週間前までに通知しなければなりません。
ちなみに、会社法上、非取締役会設置会社で公開会社という設計はありません。これは後の回で説明したいと思います。

2項 通知の方式

以下の場合は書面で通知しなければなりません。

  • 会社法第298条1項の3号、4号の定めを置いた場合。
  • 取締役会設置会社の場合

つまり口頭で通知OKなのは、非取締役会設置会社のみとなります。

株主の承諾を得れば、書面に替えてメール等での通知をしてもOKです。(3項)
通知には会社法298条1項各号の内容を記載しなければなりません(4項)

取締役会設置会社の場合は、通知の方式が結構カッチリ決まっていますが、家族経営のような小規模会社の場合は、「なあなあ」でもOKにしています。

招集手続の省略

会社法第300条(招集手続の省略)

前条の規定にかかわらず、株主総会は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。ただし、第298条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない。

取締役会設置会社だろうと、公開会社だろうと、株主全員の同意がある場合は、厳格な招集手続きを免れます。
現実的には、大規模な会社で株主全員の同意を得ることは難しいので、株主が数人の小規模会社を想定したものと考えられます。

関連判例
一 招集手続を欠くのに株主全員が株主総会の開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会においてされた決議は、総会の決議として有効に成立する。
二 株主の代理人の出席を含むいわゆる全員出席総会における決議は、当該株主が会議の目的たる事項を了知したうえで委任をし、かつ、決議の内容が右事項の範囲内のものである場合には、総会の決議として有効に成立する。

(最判昭和60年12月20日)

株主総会に出席しない株主に、書面やメール等で議決権を行使できるようにした場合は、議決権を行使するための参考資料や議決権を行使するための書面等を、招集の通知と共に提供しなければなりません。

ですから、書面やメール等で議決権を行使できるようにした場合は、口頭での開催通知はできませんし、招集手続きの省略はできないのです。
さらに、株主総会の議題に対する提案について、株主全員が書面等で同意した場合は、株主総会自体を開催する必要はありません。

株主総会の招集手続等に関する検査役の選任

第306条(株主総会の招集手続等に関する検査役の選任)
  1. 株式会社又は総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。
  2. 公開会社である取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株主総会において決議をすることができる事項」とあるのは「第298条第1項第二号に掲げる事項」と、「有する」とあるのは「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とし、公開会社でない取締役会設置会社における同項の規定の適用については、同項中「株主総会において決議をすることができる事項」とあるのは、「第298条第1項第二号に掲げる事項」とする。
  3. 前二項の規定による検査役の選任の申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない。
  4. 裁判所は、前項の検査役を選任した場合には、株式会社が当該検査役に対して支払う報酬の額を定めることができる。
  5. 第三項の検査役は、必要な調査を行い、当該調査の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(法務省令で定めるものに限る。)を裁判所に提供して報告をしなければならない。
  6. 裁判所は、前項の報告について、その内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、第3項の検査役に対し、更に前項の報告を求めることができる。
  7. 第三項の検査役は、第五項の報告をしたときは、株式会社(検査役の選任の申立てをした者が当該株式会社でない場合にあっては、当該株式会社及びその者)に対し、同項の書面の写しを交付し、又は同項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供しなければならない。

株主総会の招集手続きは、会社の規模が大きくなるほど、株主間の公平を保つため、厳格さが必要になってきます。

株主間の利害が対立しそうな議題があげられる場合は、反対派の株主から招集手続きの瑕疵を問われる場面もあるようです。
そのようなトラブルを招かないように、株主総会の招集手続きが定款や法令に則って行われているかを裁判所から選任された検査役が調査・報告行い、公平性の担保としています。
条文自体は長ったらしいのですが、重要な部分は、株主総会招集手続きの検査役選任の申立てが、少数株主の共益権であることです。

1項以降、招集手続規定に対する整合性のための読替規定や、手続きの流れはあまり手を付けなくても大丈夫だと思います。
検査役は「変態設立事項の検査役」でも出てきましたが、手続きの流れは似ていますので、読み返してから、この第306条を読み返してもよいと思います。

株主総会の招集について会社法は株主間の公平を求めています。そのため会社の規模が大きい会社ほど厳格になっています。

第319条(株主総会の決議の省略)

第319条(株主総会の決議の省略)

  1. 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
  2. 株式会社は、前項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた日から十年間、同項の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
  3. 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。一 前項の書面の閲覧又は謄写の請求二 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
  4. 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第2項の書面又は電磁的記録について前項各号に掲げる請求をすることができる。
  5. 第1項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。