騒音・脅迫行為が信頼関係の破壊とされ、賃貸契約が解除された事例

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今回は、賃貸マンションにおける借主の迷惑行為(騒音・脅迫的言動)によって、貸主が契約を解除し、損害賠償請求が認められた裁判例をご紹介します。

本件は、契約上の信頼関係がいかに重要かを再確認させられる内容であり、貸主・管理会社・宅建業者の皆さまにとっても、契約管理やクレーム対応に関する実務的な示唆が多い判決です。

事案の概要

令和2年、個人貸主Xは、借主Y1との間で、賃料月17.3万円のマンション賃貸借契約を締結しました。

ところが入居直後から、Y1とその同居人Y2らによる深夜の騒音(作業音・足音等)が続き、階下の住人から苦情が頻発。Xは口頭・書面で注意したものの、迷惑行為は止まらず、XはY2の同居を承諾する代わりに、騒音対策の誓約を交わしました。

さらに問題が深刻化したのは、XがファミリーレストランでY1・Y2と面談した際。Xが敷物を敷くなどの改善策を求めたところ、Y2が感情的に怒鳴り、「転居費用や休業補償、慰謝料を支払え」などと高額な請求を突き付けたのです。

Xはその場で、「連絡したら賃料6ヶ月分を支払う」との誓約書に署名させられるなど、心理的に強い圧力を受けました。

その後も騒音は続き、階下住人は退去。空室となった部屋には新たな入居者が決まらず、Xは賃貸借契約を解除し、Y1・Y2に対して合計約599万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。

裁判所の判断

裁判所は、以下の点を重視し、契約解除及び421万円余の損害賠償請求を認容しました。

騒音は「共同住宅の秩序を乱す行為」

階下居住者は就寝中の深夜、階上から足音や物を引きずるような音が聞こえるなどして睡眠が妨げられた。その苦情を受けXがY1に口頭で注意したが騒音は止まなかった。Xが、騒音を立てる行為が契約違反となる旨通知書で警告をし、Y1は異議なしとして署名のうえ返送した。同居人Y2がいることが判明し、同意書により騒音への注意と管理費の加算を認めた。その後も騒音が止まず、階下居住者が退去した。

これらによれば、Y1らが騒音を発生する迷惑行為を行ったことが認められ、これは、Y1との関係では、賃貸借契約及び管理規約の条項に違反する「共同住宅の秩序を乱す行為」、「騒音により近隣に迷惑を及ぼす行為」に当たるから債務不履行を構成し、Y2との関係では不法行為の成立が認められる。

東京地裁令和4年4月28日判決

  • 深夜の騒音は継続的で、階下住人の生活に支障を与えていた
  • 注意を受けたにもかかわらず改善せず
  • 賃貸借契約・管理規約に違反する債務不履行と判断

同居人Y2についても、不法行為責任が認められました。

面談時の脅迫的言動は契約違反

騒音への改善措置を求める話合いの席で、Y1らがXに「建物に住めない状況になった、Y1が休業するに至った」としてXに責任を取るように迫り、転居費用、休業補償、慰謝料等の支払いを求めたうえ、請求金額を提示しているもので、Xが支払義務を負わないものについてあえて高額な請求をしている。

XはY1らの言動により、理不尽な内容の書面を作成するほどに困惑した状態に陥っていたものと言うことができる。

これらによれば、話合いにおけるY1らの言動は、賃貸借契約の契約条項に違反する「自ら又は第三者を利用して相手方に対する脅迫的な言動を用いる行為」、「偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害する行為」に当たるから、Y1との関係では債務不履行を構成し、Y2との関係では不法行為の成立が認められる。

東京地裁令和4年4月28日判決

  • 転居費用や慰謝料等の高額請求を強要
  • Xがその場で誓約書に署名したのは、困惑・心理的圧力の証左
  • これらの言動は、「脅迫的行為による業務妨害」に該当し、Y1の債務不履行・Y2の不法行為が成立すると判断されました

認められた損害賠償の内訳

Y1に債務不履行がありXとの信頼関係は破壊されたものといえるから、Y1は、令和3年5月のXからの契約解除の意思表示により賃貸借契約は請求日をもって終了したと認められ、請求日から明渡しまで賃貸借契約の契約条項に基づき使用料相当損害金215万円余の支払い義務を負う。

また、Xは、階下居住者が退去した後も、同様の苦情が発生することをおそれて同室を賃貸することができなかったと認められ、129万円余の損害が認められる。Xの治療費等については、病院の受診が脅迫的言動のあった日より前であることを考慮するとY1らの債務不履行等により生じたものと直ちに認めることはできない。

防犯カメラ設置費用37万円余は事実関係を把握するため必要であったと認められる。

上記認定された損害額を前提とするとY1らの債務不履行ないし不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は38万円とするのが相当である。

東京地裁令和4年4月28日判決

  • 使用料相当損害金(契約終了後の占有):約215万円
  • 階下住人退去に伴う逸失利益(空室):約129万円
  • 防犯カメラ設置費用:約37万円
  • 弁護士費用(相当因果関係あり):約38万円

※一方で、Xの治療費・慰謝料は、受診時期が脅迫行為より前だったため、因果関係が否定されました。

実務への示唆

「信頼関係の破壊」に該当するか否かの判断は重要

本件は、迷惑行為(騒音)+脅迫的言動の二重の行為によって、賃貸借契約の信頼関係が完全に崩壊したと判断されました。契約解除が正当とされ、かつ損害賠償も広く認容されています。

注意指導の履歴を残すことが重要

口頭の注意だけでなく、書面通知・同意書・誓約書などの記録が判決でも重視されました。管理会社や宅建業者としても、指導・注意の過程をしっかり文書化することが、法的対応において極めて有効です。

入居審査や契約条項の見直しも検討を

入居者による迷惑行為が他の入居者に波及すれば、貸主側の経済的損害(空室損)にも直結します。入居審査、同居人の許可制、迷惑行為に対する明確な解除条項の設置など、契約内容の見直しも必要です。

まとめ

本件は、借主の継続的な騒音と貸主への脅迫的言動が信頼関係を破壊し、契約解除と高額の損害賠償につながったケースです。

貸主や宅建業者にとっては、迷惑行為への対応フローの整備や記録の重要性、契約内容のリスク管理について再考を促される判例と言えるでしょう。

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