競業避止義務違反と信用棄損行為による損害賠償請求が認められた事例

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従業員による転売行為と虚偽通報の法的責任

宅建業を営む事業者にとって、信頼できる従業員の存在は事業の根幹を支える重要な要素です。しかしながら、社内で得た顧客情報を悪用し、私的な利益を得るような行為があった場合、その影響は会社の信用失墜や業績悪化に直結します。

今回は、従業員による競業避止義務違反および信用棄損行為により、元従業員に対する損害賠償請求が認められた事例をご紹介します。

事件の概要

本件の被告(Y)は、原告(X社・宅建業者)に総務部長として在職していた人物です。ところが、Yは在職中に、以下のような行為を行いました。

顧客への裏取引と転売利益の取得

  • Yは、X社の顧客に対して、X社を経由せず、他社(b社)で不動産を購入するよう提案。
  • b社はこの物件をc社から安価で仕入れ、転売で生じた利益の一部(計124万円)をYが受け取っていた。

この行為は、X社の顧客情報を用いた私的取引であり、雇用契約上の競業避止義務違反および不法行為に該当するものとされました。

懲戒解雇後の信用棄損行為

Yは懲戒解雇後、X社の取引銀行などに「X社が顧客の信用情報を改ざんしている」といった内容の文書を送付。
👉 この結果、銀行側がX社との取引を停止。X社の顧客はローンが組めなくなり、売上が急減しました。

裁判所の判断

裁判所は、Yの一連の行為について以下のように判断しました。

競業避止義務違反による損害

Xの顧客に対し、他社物件を売却することは、YのXに対する競業避止義務に違反することは明らかである。

そして、2物件の転売利益相当額はXに生じた損害というべきであり、顧客が購入に納得していたか否かは、競業避止義務違反の判断に影響を与えないから、Yの主張は採用できない。また、Yが総務部長でありながら、Xの業務として顧客と面会し、Xを経ることなく、直接他社物件の購入を勧誘して、実際に販売し、かつ、その転売利益の一部を自己のものとしていたことからすれば、その違法性は顕著であるから、Yは、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償として、転売利益相当額(1000万円)及び弁護士費用の支払義務を負う。

東京地裁令和4年1月13日判決

  • Yは、X社の従業員として得た顧客との関係性を利用し、他社物件の販売を行っていた。
  • この行為は明らかに競業避止義務違反であり、転売益1000万円相当はX社の損害と認められる。

👉 転売益1000万円+弁護士費用100万円の支払義務を認定。

信用棄損行為による損害

本件各文書の送付のあった令和元年5月以降、Xの売上総額は前年比で5億9249万円低下しており、平成29年9月期からの売上金額の推移やXの顧客の大部分が銀行融資により不動産取引をしていることから、この売上の低下は本件各文書の送付及びこれによる取引銀行等の取引停止によるものと認められる。

そして、平成29年9月期及び平成30年9月期における営業利益率が3%前後であり、売上総額前年比減少額の5億9249万円に3%を乗じた額は1777万円余にも及ぶことから、本件各文書の送付と因果関係のある損害として、X請求の1300万円程度の損害は優に生じている。

また、総務部長のYにより本件各文書が送付されたこと等を鑑みると、Xが本件改ざん行為等の調査を依頼することは社会通念上相当な行為であり、同調査費用に係る弁護士費用も因果関係のある損害ということができるから、Yは、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償として、本件委員会の調査費用(173万円余)及び弁護士費用の支払義務を負う。

東京地裁令和4年1月13日判決

  • 文書送付により、売上は約5億9200万円低下。
  • これによる営業利益の減少(利益率3%換算)を損害と評価し、1300万円の損害賠償請求を認容。

👉 さらに、調査のための委員会費用173万円+弁護士費用17.3万円の支払義務も認定。

宅建業者としての留意点

従業員に対する競業避止義務の明確化、顧客情報の取り扱いに関する教育の徹底

雇用契約において、在職中・退職後の競業避止義務について明文化しておくことは非常に重要です。加えて、どのような行為が違反に該当するのか、具体例を交えて周知することでトラブルを未然に防ぐことができます。

宅建業者は、業務上知り得た顧客情報の守秘義務を負います。特に、営業担当者が得た情報を流出させ、私的に利用するような事態は、個人情報保護法に違反するだけではなく、顧客や取引先からの信頼を損ない、企業のブランドイメージを毀損する可能性があります。

本件では、虚偽の通報により銀行との取引が停止されたことから、第三者委員会による調査報告書を用いて信用回復を図りました。こうした初動対応の迅速さが、被害の拡大防止や信頼回復において極めて重要です。

まとめ

本判決は、従業員の競業避止義務違反や虚偽の情報発信による損害の因果関係を具体的に認定した点で注目されます。
特に、不動産業のように信用と情報が命である業種においては、従業員のモラルと法令順守意識を高めるための継続的な社内教育の重要性が改めて示されたといえるでしょう。

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