外国人買主との不動産取引において、日本語が通じない場合でも、重要事項説明(以下「重説」)は日本語で行えば足りるのか?
東京地裁令和3年3月11日判決では、日本語を理解しない中国人買主からの損害賠償請求が棄却され、「外国語での重説実施の法的義務はない」との判断が示されました。
本記事では、この判決をもとに、外国人との不動産取引における宅建業者の説明義務の範囲と、実務上留意すべき点について解説します。
事案の概要
買主は、中国人の家族を有する法人及びその代表者であり、日本語を話すことができない状況にありました。
彼らは都内の分譲高層マンション(2戸)を購入するにあたり、売主業者の担当者からすべて日本語での重説を受け、通訳としては買主側が手配したアシスタントが同席していました。
契約締結後、機械式駐車場の抽選に外れたことや、日本語での説明しかなかったことなどを理由に、買主側は契約解除後に損害賠償(手付金返還・慰謝料)を請求。しかし裁判所はこれをすべて棄却しました。
裁判所の判断
Xらは、Dによる、駐車場が確実に確保されるとの説明をしなかったことがⅩらに対する情報提供義務違反となる旨主張するが、DがXらに駐車場が確保される旨を説明した事実を認めることができない。
また、Xらは、X2が日本語を理解できないことをDも把握していたにもかかわらず、英文の売買契約書や重説や通訳を用意せず、Cの通訳に頼っていたところ、このような説明では重説義務の趣旨に合致しない旨から、情報提供義務に違反した旨主張する。
しかしながら、買主が外国人である場合に、日本語を理解できず自ら通訳を同行して重説を受ける事態も生じ得るところ、宅建業者においては、当該通訳の資質や翻訳内容の正確性、さらには通訳内容が買主に理解できる説明がされているか否かを判断することは困難であるといわざるを得ない。
そうすると、重説を受ける買主においては、その手段の選択やその選択結果としての通訳の正確性等に関して、その危険については自ら引き受けるべきものと解するのが相当である。
その上で、宅建業法においては、日本語を理解しない外国人に対して重説を外国語で行うべきことまでは規定されておらず、これが法的義務であると解することもできない。
以上によれば、本件においてはDがCの通訳を通じてⅩらに重説を行った以上、重説の内容や程度を充足しているものと認められ、情報提供として欠けるところはなく、何ら義務違反を認めることはできない。
そして、この認定判断を覆すに足りる事情は認められない。
したがって、Xらの情報提供違反による債務不履行に係る主張は理由がない。
また、X2は、Yの対応が不誠実であるなどとして不法行為が成立すると主張し、慰謝料等の支払を求めるが、Dの対応について何ら不法行為が成立するものと認めることはできない。
東京地裁令和3年3月11日判決
① 駐車場の説明義務違反は認められず
駐車場について「確実に確保できる」と説明したとの買主側の主張については、担当者がそのような説明をした事実は認められないとされました。
② 外国語での重説義務は存在しない
判決で特に注目すべき点は、「宅建業者に外国語で重説を行う法的義務はない」と明確に判断された点です。
すなわち、買主が外国人であっても、日本語での重説を通訳を介して行ったのであれば、それ自体で説明義務を果たしたと認定されました。
「外国人買主が通訳を同席させて重説を受ける場合、その通訳内容の正確性や買主の理解度まで業者が判断するのは困難であり、そのリスクは買主側が負担すべきである」
裁判所はこのように述べ、通訳が買主側の用意であり、業者側がその資質や翻訳の正確性を保証すべき立場にないことが確認されています。
実務上の留意点
判決は業者側に有利な判断ではありましたが、同様のトラブルを未然に防ぐためには、以下のような実務上の注意が必要です。
初期対応段階での言語確認
商談初期の段階で、買主が日本語を理解できるかどうかを明確に確認し、通訳の有無や手配について文書等で残しておくことが望ましいです。
外国人との取引は「通訳任せ」ではなく「確認と記録」がカギ
本件裁判例は、外国語による重説義務を否定した点で業者側にとって安心材料となる反面、トラブル発生後に備えておくべき実務的な配慮が改めて浮き彫りとなったともいえます。
契約内容について交渉をしてくることもありますが、安易に譲歩しないことが重要です。特に通訳を介すことは曲解が発生することにもありますので、面倒でも書面で確認してから行うことが重要です。
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