不動産売買において、買主が住宅ローンを利用する場合、多くの契約では「ローン特約(住宅ローン特約)」が設けられています。
これは、融資が受けられなかったときに買主が契約を解除できるという、いわば“買主保護”の条項ですが、すべてのケースで解除が認められるわけではありません。
今回は、連帯保証人を立てられなかったことを理由に住宅ローンが取り消され、買主がローン特約による解除を主張したものの、それが否定された裁判例を紹介しつつ、注意すべきポイントを考えてみましょう。
事案の概要
この事案では、買主Xが売主業者Yの分譲マンションを購入するにあたり、Xの夫Aを連帯保証人とする条件で提携住宅ローンの事前審査を申請し、承認されました。
売買契約締結時にも、「連帯保証人の事情により融資が制限された場合にはローン特約は適用されない」旨が記載された重要事項説明書や確認書が交付されており、買主もこれを了承していました。
その後、Xは正式に融資を申し込んだものの、後日、夫Aが連帯保証人になることを拒否。
これにより融資承認が取り消され、Xはローン特約による契約解除と手付金の返還を求めて訴訟を提起しました。
裁判所の判断
裁判所は、次の通り買主Xの請求を棄却しました。
Xについて、本件ローン特約排除条項の「申込みに対する審査終了後の申込内容の変更」があったことは明らかである。
Xは、本件ローン特約排除条項の「申込内容の変更」をX自身の事情をXが自ら変更した場合に限定すべきであり、Aが連帯保証人になることを拒否したことはX自身の事情に当たらないとか、Aが連帯保証人となるのを拒否したことは買主たるXの「責めに帰すべき事由」ではないと主張する。
しかし、Aが連帯保証人となる内容で住宅ローンを申し込んだXとしては、その責任において、Aに対し、連帯保証人となることへの了承を取り付ける義務があるというべきであるから、Aが連帯保証を拒否したことは、Xの「責めに帰すべき事由等」に当たる。
このことは、Xが説明を受けた「購入資金等に関する確認書」において「連帯保証人の方の事情により融資が制限された場合においても、同様の取扱いとなります。」との記載があることとも整合する。
なお、Xは、AがXの住宅ローンの不正利用を避けるために連帯保証人となることを拒否したとも主張するが、仮にAがやむを得ない理由で連帯保証人に就任できなくなった場合、Xには、新たにAと同等以上の信用力のある連帯保証人を付すなど、少なくとも当初の申込み時よりも住宅ローンの承認が受けにくくなることがないように行動すべき義務があるというべきであり、このことは、本件ローン特約排除条項の文言やYが本件ローン特約によって負担する不利益とのバランス〔Yは、本件売買契約の締結によって、たとえ他に有利な買い手が出現しても本件マンションをX以外に売却することを禁止されて販売機会を喪失する不利益を負担する一方、Xは、本件ローン特約が適用されれば、何らの金銭的な負担なく本件売買契約を解除できることとなる。〕からも当然の帰結である。
したがって、Xによる本件売買契約の解除は、本件ローン特約排除条項の定める場合に当たり、本件ローン特約は適用されない。
東京地裁令和3年8月10日判決
主な判断ポイント
- Xは、連帯保証人Aの承諾を得る責任がある立場にあった。
よって、Aが連帯保証を拒否したことは「Xの責めに帰すべき事由」にあたると判断されました。 - 「購入資金等に関する確認書」には、連帯保証人の事情による融資制限もローン特約の適用対象外とする旨が明記されており、買主はこれを了承している。
- 万一やむを得ない理由で予定していたものが保証人になれなくなったとしても、Xは代わりとなる保証人を立てるなどの代替措置を講ずるべき義務があると指摘しています。
宅建業者としての留意点
本件は、契約時のローン条件と異なる事情が買主側で生じたことで、ローン承認が取り消されたケースです。
このような場合、ローン特約による解除が当然に認められるわけではありません。
宅建業者としては、以下の点を契約前後でしっかりと説明・確認しておくことが重要です:
- ローン特約の適用条件と除外事由を明確に説明すること
(特に「買主側の事情」による不承認は特約適用外となる旨) - 確認書や重要事項説明書に、保証人等の条件が変更された場合の取扱いを明記すること
- 買主が連帯保証人の同意を得ているか、契約前の段階で実質的な確認を行うこと
ローン特約は、買主保護のために設けられる制度ですが、その運用には限界があります。
とくに、融資条件に買主自身が関与している場合(連帯保証人の確保等)には、その不履行によってローン特約の適用が否定されるリスクがあることに留意すべきです。
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