建築基準法違反があっても「瑕疵」ではない?― 改築予定の頓挫を理由とする契約解除・代金返還請求が棄却された事例

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不動産売買契約において、購入した建物に建築基準法違反が存在した場合、それは売主の「瑕疵担保責任」や「説明義務違反」に該当するのでしょうか。
今回ご紹介する裁判例では、法令違反を理由に契約解除・売買代金の返還を求めた買主の請求が退けられました。ポイントは、「契約の前提に照らして、それが瑕疵にあたるのか」という点です。

事案の概要

被告(売主)は、平成30年10月頃から、自らが取得した東京都内の平成4年築・共同住宅の売却を検討。原告(買主)は、社員寮兼事務所として利用する目的でこの物件の購入を検討し、同年11月に売買契約を締結しました(売買代金1億500万円、瑕疵担保責任2年間など)。

契約時には、建物図面に「建蔽率:79.012%」との記載があり、重要事項説明書にも、以下のような点が明記されていました。

  • 法定建蔽率(70%)の超過可能性
  • 確認済証の不保存・検査済証未取得
  • 一部改装の履歴が不明
  • 現況有姿での引渡し

その後、原告は建物の1階を事務所に改築しようとしたものの、建築基準法違反(建蔽率超過・斜線制限・開口不足等)により希望する改築ができないことが判明。これを理由に契約を解除(または無効主張)し、売買代金や諸費用等1億2,656万円余の支払いを求めて提訴しました。

判決の要旨

瑕疵担保責任について

本契約は、本物件を基本的にはそのままXの社員寮等として用いる目的で締結されたもので、本契約締結にあたり、重要事項説明書において、本物件建物につき時期不明の増改築がされており、確認済証が保存されておらず、検査済証が取得されていない理由は不明で、Xは本物件を現況有姿により買い受けることが明記されていた。

そうすると、本契約締結の目的やその当時のやり取り等を踏まえれば、本物件建物について、築26年の中古建物として、共同住宅として使用するのに必要十分な品質・性能を有していることが予定されていたと認められる。

そして、本物件建物に法令違反があるとしても、それにより、倒壊の恐れが現に生じていたり、行政機関から使用禁止命令を受ける危険が具体化している事情は窺えず、むしろ、重要事項説明書の記載によれば、本件建物に法令違反の可能性があることは、本契約の前提となっていたと窺える。

よって、これらの法令違反の存在が、本物件の瑕疵にあたるとは認められない。

東京地裁令和3年11月26日判決

裁判所は、契約締結時点で、重要事項説明書において建物の現況や法令違反の可能性についての説明がなされており、また「現況有姿」による購入が明記されていたことから、「築26年の中古建物として共同住宅としての使用に必要十分な品質は備えていた」と判断。

さらに、当該法令違反によって倒壊等の重大な危険が差し迫っていたり、行政処分が具体化していたわけではない点も踏まえ、
**「法令違反の存在自体が瑕疵にあたるとはいえない」**としました。

錯誤の主張について

Xは、本物件建物の1階部分を事務所に改築する予定であるとYに伝えていたと主張するが、Xが本契約締結までに具体的に改築の検討をしたとは認められず、係る動機がYに伝えられていたとも認められない。

東京地裁令和3年11月26日判決

買主は「1階を事務所に改築する予定だった」と主張しましたが、契約締結前にその旨を売主に具体的に伝えていた証拠はなく、改築計画も具体性に乏しかったとして錯誤無効は否定されました。

説明義務違反の有無

本物件建物の図面には、建蔽率:79.012%との記載があることからすれば、Yは本物件建物が法定の建蔽率を超過していたことを把握することは可能であったとも考えられる。

もっとも本契約締結時に本物件には賃借人が存在し、Yが建物の現況と図面が一致しているか確認することは事実上不可能であったし、建蔽率の超過が9%程度であったことからすれば、建物外観の目視によって判断することも、困難であったと言える。よって、Yには、制限建蔽率を超過している可能性があることを基礎付ける事情の説明を超えて、現実に制限建蔽率を超過しているか否かまでの説明義務があったとは言えない。

また、その他の高さ制限違反等についても、Yがこれらを具体的に認識していたのに説明しなかったという事情は認められず、同様である。

東京地裁令和3年11月26日判決

売主は建物図面から建蔽率超過の可能性を認識できたとも考えられるものの、実際の建物と図面の一致確認は、契約当時、賃借人が居住中であり困難であったこと、また超過幅が約9%で目視判断も困難であったことなどから、
「制限建蔽率の超過そのものの説明義務まではなかった」と判断。

宅建業者への示唆 ― 「遵法性」の調査は誰が担うべきか?

この事案は、「建築基準法違反がある=必ず瑕疵となる」とは限らないことを示しています。重要なのは、契約内容・目的・説明の程度・買主の認識など、契約当時の具体的な事情とのバランスです。

建物の法令違反は、買主にとって将来の利用計画に大きく影響する可能性がありますが、売主や媒介業者がすべての違反内容を正確に把握・説明することは現実的に困難な場面もあります。
特に中古物件で現況有姿契約の場合、売主が建築の専門家でない限り、遵法性に関する全責任を売主側に求めるのは限界があるといえます。

宅建業者としては、「何を、どこまで説明する責任があるのか」また「買主に専門調査の必要性をどのように伝えるか」という実務判断が今後ますます重要になってくるでしょう。

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