本事例は、宅建業者間で締結された不動産売買契約において、買主側が残代金支払直前に土壌汚染調査を理由として支払期限の延長を申し出たものの、売主がこれを拒否し、契約を解除の上、違約金の支払いを請求したところ、裁判所がその請求を全面的に認めたものです。
宅建業者としての売買実務において、契約締結時の条項の重みや、売買対象物件の性質に対する認識の齟齬が重大な法的リスクにつながる可能性を再確認させる内容といえます。
事案の概要
本件は、築50年超の中古ビルについて、売主X(宅建業者)が買主Y(宅建業者)に対し、2億9800万円で売却する旨の売買契約を締結したものです。契約には以下の特約が含まれていました:
- 現状有姿での売買
- 瑕疵担保責任(契約不適合責任)免除
- 融資特約なし
また、重要事項説明書には「土壌汚染の可能性」について「知らない」と明記されていました。
ところが、買主Yが契約締結後、金融機関から土壌汚染の可能性を指摘され、残代金支払直前に土壌調査の実施とその結果が出るまでの支払期限延長を申し出たのに対し、売主Xはこれを拒否。支払がなければ契約を解除し、違約金(売買代金の20%)を請求する旨を通知しました。
その後、売主Xは本件物件を他者に同額で売却し、違約金5960万円から既に受領した手付金1490万円を差し引いた残額の支払いをYに対して請求。Yは逆に、土壌汚染リスクについて告知義務違反があったとして手付金返還等を求めて反訴しました。
裁判所の判断
瑕疵担保責任免除の有効性と調査義務の範囲
裁判所は、現状有姿売買かつ瑕疵担保責任免除の特約が明確に存在することから、土壌汚染等のリスクは買主側が負担する旨が当事者間で合意されていたと判断しました。
また、50年以上前に存在していた工場の操業歴等について、売主が調査・説明義務を負っていたとはいえず、「知らない」との重要事項説明に基づく告知にも問題はないとされました。
錯誤無効の主張について
買主側の「土壌汚染のリスクは契約上存在しないと誤信していた」との主張も退けられました。理由としては、登記上の物件種別に「工場」が含まれていたこと、また「知らない」と明記された説明書が交付されていたこと等により、買主がリスクを認識しうる状態にあったとされています。
解除の適法性および違約金請求の妥当性
裁判所は、契約に融資特約が含まれておらず、資金調達困難を理由に支払期限の延長を求めた買主の対応に正当性はないと判断しました。また、違約金の額についても、当事者が対等な立場で合意した契約条件である以上、民法420条3項の予定損害賠償としてその請求は有効とされました。
宅建業者への実務的示唆
本判決から得られる教訓は明確です。
- 宅建業者間売買では、免責条項や特約条項の文言が重視され、リスク配分もそのとおりに適用される。
- 売買契約時に、融資特約や環境調査に関する猶予条項を設けていない場合、後から金融機関の都合等で支払猶予を求めても認められない可能性が高い。
- たとえ調査未了でも、残代金を支払わないことは契約違反に直結し、違約金請求の対象となる。
業者間での取引においては、実務的な配慮も重要ですが、それ以上に「契約書に何が書かれているか」が最終的な法的判断の拠り所になります。契約内容の精査はもちろん、買主としても物件のバックグラウンドや潜在リスクの把握は自己責任で行うことが求められます。
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