「賃借人の家賃不払いを理由に賃貸借契約を解除したつもりが、実質は“合意解除”と見なされ、転借人に対する建物明渡請求が棄却された」 という興味深い裁判例をご紹介します。
事案の概要
当事者
- 建物所有者・賃貸人X(原告)
- Xの役員A(故人)/ B
- サブリース会社Y(被告)
裁判所の判断
賃料不払の有無とBへの請求
「Xが計上しているAからの本件建物部分と考えられる賃料収入金額は…賃料不払があったかについて疑問を差し挟まざるを得ないが、XとBの間で…争いがないから、XのBに対する…請求はいずれも理由がある。」
→ Bは争わず、未払賃料と明渡し義務は認められました。
サブリース会社Yへの明渡請求の可否
「Xは…当初は賃貸借契約の合意解約を希望しており、BもXの意向に同調していたことを示すものというべきである。…Xによる賃貸借契約の解除は、債務不履行解除の形式がとられているものの、Yとの関係では、XとBの合意による解除と評価すべきである。」
「…賃貸人と賃借人とが賃貸借解除の合意をしても、そのため転借人の権利は消滅しないものと解するのが相当である(最判昭37年2月1日)。…Yに不信な行為があるなど特段の事由は見当たらない。したがって、XのYに対する建物明渡請求には理由がない。」
裁判要旨
賃貸人の承諾ある転貸借の場合には、転借人に不信な行為があるなどして、賃貸人と賃借人との間で賃貸借を合意解除することが信義誠実の原則に反しないような特段の事由のあるほか、右合意解除により転借人の権利は消滅しない。
賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
ポイントと実務的示唆
解除理由とプロセスの一貫性 | 債務不履行解除を主張するなら、日頃の督促・滞納把握・猶予状況などの整合性を確保すること。 |
合意解除 vs. 債務不履行解除 | 賃借人と協議を重ねた形跡があると、後から「不履行解除だ」と言っても“実質は合意解除”と評価され得る。 |
転借人保護 | 原賃貸人と賃借人が合意解除しても、特段の事情がなければ転借人の権利は存続。転貸承諾時点でリスクを織り込む必要がある。 |
転貸承諾の有無 | 初めから転貸の予定を把握・黙認していた事実は、のちの明渡請求を難しくする。 |
まとめ
- 賃料不払いを理由とする解除でも、実際には 当事者間の合意解除と評価 されることがある。
- 合意解除の場合、転借人の賃借権は保護され、原賃貸人は明渡しを請求できない。
- 賃貸人としては、転貸承諾時・滞納発生時の対応と証拠化が極めて重要となります。
このように賃貸借契約に転貸が絡む場合、解除の戦略や通知文言は慎重に設計する必要があります。
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