管理組合が締結した売買契約の無効

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今回は、宅建業者が売主となった不動産売買契約において、買主であるマンション管理組合の「権限」や、「手付解除」に関する条項の有効性」が争点となった裁判例(東京地裁 令和2年1月30日判決)をご紹介します。
宅建業者が自ら売主となる場合、契約書に盛り込むべき内容や注意点を改めて確認するうえで、非常に示唆に富んだ判決です。


事案の概要

本件は、ある分譲マンションの地下駐車場の共有持分を保有する宅建業者が、マンション管理組合との間で駐車場の売買契約を締結したものの、その後管理組合が契約を解除したため、宅建業者が違約金等の支払いを求めて提訴したというものです。

不動産売買契約を締結

某年11月29日 売買価格は9,980万円、手付金は100万円、手付解除期間は契約締結日から5日間、違約金は売買価格の20%の条件で売買契約を締結

管理組合の理事会を招集

管理組合の代表者は、同年12月5日、理事を招集し、経緯を説明した上で本契約締結について承諾を得ようとしたが、本件マンションの管理費の積立金が9,000万円前後で売買代金に満たず、売買契約にローン条項がないため、理事会として認められないとの指摘を受けた。

手付放棄による契約解除

管理組合の代表者は、方々の金融機関に融資の相談をしたが断られため、他の理事と相談して手付金放棄による契約解除の通知を行った。

売主宅建業者から違約金、遅延損害金の請求

売買契約について理由なく残代金支払期限を徒過したとして、違約金及び遅延損害金の支払を求め提訴した。


裁判所の判断

ポイントとなったのは以下の2点です:

  • 管理組合の代表者が理事会・総会の決議を経ることなく契約を締結したこと(→無権代理の主張)
  • 売買契約に定められた「契約日から5日以内の手付解除条項」が宅建業法に違反しているのではないかという点

裁判所は、宅建業者の請求をすべて棄却しました。その理由は主に次のとおりです。

契約の無効(無権代理)

管理組合の理事会や総会において、今回の売買契約についての承認決議がなされた証拠はなく、契約締結にあたり必要な組織決定を経ていなかったため、本契約は管理組合の代表者による無権代理行為と認定されました。

宅建業者は、相手方が理事会の決議を得ていると信じていたと主張しましたが、宅建業者として高度な注意義務を負っており、その発言を鵜呑みにして契約を締結したこと自体が過失に当たるとして、「表見代理※1」の成立も否定されました。

※1表見代理とは

無権代理による契約は原則的に無効となりますが、代理権のない者が代理権があるように見せかけ、その外観を信じて取引した相手方を保護するために、無権代理行為を有効とみなすものです。管理組合の理事長のような肩書を持っていると何かしらの代理権を委任されていることがあるため、権限外の行為の表見代理について考えなくてはいけません、

権限外の行為の表見代理が成立するためには次の要件が必要です。

  • 今回のケースでは管理組合の代表者が、売買契約に関して代理権があるという外観を作っていること。
  • 相手方が、その外観を信じて善意無過失で取引すること。

手付解除条項の無効

本契約では、契約締結日から5日間以内でなければ手付解除ができない旨の条項が盛り込まれていました。

しかし、宅建業法第39条第2項・第3項では、宅建業者が売主となる場合、買主は履行に着手するまでは手付を放棄して解除が可能であり、これに反して買主に不利な特約は無効と定められています。

裁判所は、この条項は買主に不利なものであり無効と判断し、管理組合が契約解除の意思表示を行った平成29年12月28日の時点で、有効に契約が解除されたものと認定しました。

宅建業者は、既に契約履行に着手していたと主張しましたが、裁判所は「制限物権のない不動産の売買においては、特段の準備行為が存在しない以上、履行の着手があったとは言えない」として、これも退けられました。


本判決のポイントと実務上の教訓

この判決から学べる点は、以下のとおりです。

  • 管理組合との契約では、「代表者に契約締結の権限があるか」を必ず確認し、理事会や総会の承認決議の有無を文書で裏付けることが必要
  • 宅建業者が売主となる契約では、「手付解除期間を制限する条項」は無効になる可能性が高く、宅建業法の趣旨に反する規定を盛り込まないよう注意が必要

特に、マンション管理組合などの法人が買主となるケースでは、契約締結権限の所在が不明確なことが多く、今回のように「無権代理」による契約無効が争われる事例は珍しくありません。


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