勧誘トラブルが多い投資用マンションにおいて、売買契約をした買主から売主に対して消費者契約法の不実告知、不利益事実の不告知に基づく取消しを求められた事例です。
不実告知は消費者契約法第4条1項1号に、不利益事実の不告知は消費者契約法第4条2項に規定されています。
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
事案の概要
買主からの訴訟の提起
買主は消費者契約法による不実告知・不利益事実の不告知による取消し、詐欺取消し、錯誤無効等に基づき売主に対し代金5740万円の返還、不法行為による損害賠償600万円などを求める訴訟を提起しました。
買主の主張
売主は、買主の金銭的負担、年末の還付金、将来の売却可能性について不実の告知をした。
売主は、本件投資用ワンルームマンションの空室・家賃不払い・不動産価格下落・家賃減額の各リスク、大規模修繕の必要性、公租公課の支払い義務などのフリ駅事実を告知しなかった。
買主は、「マンションの名義人になることによって年末に20万円程度が将来にわたって還付されるシステムへの参加する契約であり、買主の負担は手付金10万円と月々2000円程度以外に生じない。仮に1年間空室でも空室保証と年末の還付金によって補填される」と誤認した。
売主は、節税効果が将来にわたり継続するかのように買主に告げ、この契約によって買主は手付金10万円と月々2000円程度の他には負担は生じないと告げた
裁判所の判断
消費者契約法に基づく取消しについて
不実の告知について
買主に渡された資料には、修繕費や管理費が経済状況等により変動、増減する場合があることが記載され、諸注意として管理費等の変更の可能性があることが記載されており、買主はこれらについて説明を受けて理解した旨の確認書に署名押印している。
買主は、投資用ワンルームマンションの名義人になれば、年末には20万円還付され、その還付が将来にわたって継続するという説明を受け、2戸目の契約の際も、さらに20万円の還付が受けられるとの不実の告知を受けたと主張する。
しかし、売主は、買主への勧誘に際し、年金や生命保険的機能を中心に説明しており、初年度又は2年目に20万円程度の還付の可能性があるが、それはおまけであると説明したと述べている。
買主は、2戸目のマンションの契約前に、マンション名義人となることについて、利益を感じられなければ辞めることができると不実の告知を受けたと主張するが、売主は、買主が主張する説明は行っていないと否定しているし、買主に対する資料にも、収支表は長期保有を前提としており、短期売却すると損失を被ることがある旨の記載がある。
以上により、買主の不実告知についての主張事実については認めることはできない。
不利益事実の不告知について
買主は、空室、家賃不払、不動産価格下落のリスクという不利益事実について告知を受けていないと主張するが、売主は絶対にリスクがないと断言しているわけでもなく、告げなかったとまではいえない。
買主は、家賃減額のリスク、大規模修繕の必要性、公租公課の支払義務という不利益事実について告知を受けていないと主張するが、買主に対する説明資料には、家賃、修繕積立金、租税公課が変動する記載があり、売主が、シミュレーションを示して買主に説明したことが認められる
以上により、買主の主張 事実は認めることができない。
詐欺取消し、錯誤無効について
売主が買主を欺き、誤信させて、本件各契約を締結させたとの主張は採用できない。
売主の説明により買主が、本件各契約はマンションの名義人となるだけで、売買契約ではないと誤認したことは認めがたく、誤認したとすれば、買主に重大な過失があったといわざるをえない。
以上により本件各契約が詐欺、錯誤無効であるとの主張は認められない。
このように本件の投資ワンルームマンションに関する訴訟においては、買主の主張は棄却されています。
この契約では不動産売買契約をファミリーレストランで行っていますが、これは原則的にクーリングオフの対象となるので、補足説明しておきます。
不動産売買においては、宅建業者の事務所以外で行われた契約については原則的にクーリングオフの対象となります。
- 買主からの申し出があった場合で自宅または勤務場所で契約に関する説明を受ける旨を申し出たとき。
- 買主がクーリングオフの方法が告知された日から8日を経過したとき。
- 買主が、宅地または建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ったとき
クーリングオフの対象となる取引にも関わらず、クーリングオフの告知を行っていない場合は、いつでもクーリングオフによる解約が出来ます。
不動産に関するご相談、業務のご依頼のご相談はお問合わせください。