外国人との不動産売買で、意思疎通の齟齬が生じてトラブルになった事例です。
事案の概要
融資特約を不動産売買契約書に盛り込む際には、「融資申込先」「融資承認予定日」「融資金額」を記載して金融機関を特定します。融資特約では、このような特定の金融機関からの融資が受けられなかった場合には、不動産売買契約を白紙解除できることが定められています。
この融資特約は消費者を守る一方、売主、または媒介業者としては、全ての苦労が無に帰す特約ですので、どの金融機関への融資申し込みでも融資特約の対象としていたら契約合意はないがしろになってしまいます。
外国人買主は、融資特約による手付金の返還と、売買契約の錯誤無効に基づく不当利得返還を請求し、予備的に売買契約に関する債務不履行による損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
融資特約の解釈・適用について
- 融資特約は残代金支払日までに売買代金を支払わなければ契約違反となる原則を、買主が申込んだ提携融資が実行されないときに特例として契約違反を免れるというものである
- 融資特約の条件に該当しない者にこの特例を適用させないということが、信義則に反して買主を害しているとは言えず、消費者契約法や憲法14条2違反すると評価すべき事情も認められない
- 日本国籍又は永住権を有する者でも、提携融資を利用しない場合、融資特約の適用はないことから、永住権を有しない外国人の場合のみ融資特約条項の「提携融資」を「一般の金融機関ローン融資」と読み替えなければならない合理的理由はない
以上のことから、外国人買主の主張に理由がないと結論付けています。
売買契約の錯誤無効について
- 売主が説明した内容を外国語で通訳した書面には「提携外融資は、融資利用の特例は適用されないこと」等の記載があり、外国人買主はそれらを確認した旨の署名押印をした
- ローンが通らなければ手付金は戻るとの説明があったとの事実は認められない
以上のことから、、外国人買主は、通訳、連絡窓口Aを介して、本件契約には提携外融資についての融資利用の特例の適用がないことを説明したと認められ、外国人買主の意思表示に錯誤があったとする事情を認められないとされました。
売主の債務不履行について
- 売主は、外国人買主に金融機関を限定しない融資特約を付すべき義務を追うものとは言えない。
- 本契約の融資特約は、売主が融資手続きの状況を把握しやすい提携融資に対象を限定し、安定した売買手続きの実現を図る趣旨に基づくものであり、不合理ではない。
- 売主には外国語で重要事項説明書を交付すべき義務はない。
以上のことから、売主に債務不履行責任は存在しないと結論付けました。
まとめ
最近では外国人が日本の不動産を購入するケースが増えていますが、日本の法律では、不動産取引に関する書類は日本語で作成する必要があります。外国語で説明する法的義務はありません。
もし外国語の契約書を用意する場合、それはあくまで参考用であり、正式な契約書は日本語で作成されるべきです。
また、通訳者を介して取引を行う場合、その通訳者の質や理解力に問題があった場合の責任はお客様側にあることを前提に取引を進めるべきです。お客様自身が通訳者を選び、その通訳の正確性を保証する責任を負うべきといえるでしょう。
参考情報
国土交通省は『不動産事業者のための国際対応マニュアル』を公表しており、これには外国語の契約書のサンプルや取引に役立つ情報が多数掲載されています。
外国人と取引をする場合は、本人確認や、契約様式も異なってきますので、事前に研究してみてもよいと思います。
不動産に関するご相談、業務のご依頼のご相談はお問合わせください。