投資用物件における想定利回りと法令上の制限──売主業者に求められる調査説明義務とは?

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売主業者が示した想定利回りの根拠となる収益に、条例によって現実には得られない広告収入が含まれていた場合、どのような責任が生じるのでしょうか?
表面利回りや収益構造を提示して投資用物件を販売する際の説明義務に関して、実務上示唆に富む裁判例をご紹介します。

事案の概要

本件は、法人Xが宅建業者Yから投資用として10階建てビル(以下「本件物件」)を購入したところ、想定していた収益の一部が法令上の制限により得られず、損害を被ったとして損害賠償請求を行った事案です。

  • 売買契約日:平成29年6月1日
  • 売買価格:3億4400万円
  • 表面利回り(Y提示):7.44%
  • 想定月額賃料:213万円(うち、広告看板賃料55万円を含む)

本件物件の屋上には広告看板スペース(4面)が設置されており、その賃料収入(月55万円)が想定収益の約25%を占めていました。
Xは、この広告スペースがA社と5年間の賃貸契約を結ぶことを前提に購入しましたが、実際にはA社は1年で契約を解約し、しかも広告掲出は一度もされませんでした。

Xが新たな広告主を募集しようとしたところ、本物件が立地する地域では、屋外広告物条例により広告掲出自体が禁止されており、広告収入が得られないことが判明。
Xは、「Yが法令による規制を調査・説明せずに虚偽の説明をした」として、不法行為に基づき損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

説明義務の有無

裁判所は、次のようにYの責任を認めました。

一般に投資用物件である不動産を購入するか否かに当たって主として着目されるのは、利回り及びその基礎となる当該不動産に係る収益の額であることは明らかであるところ、自ら投資用不動産を販売しようとする宅地建物取引業者は、その販売に当たり、提示した販売価格の妥当性を説明する前提として当該不動産において想定される利回り及びその基礎となる収益の額を、当該不動産の購入を検討する者に対して説明する場合には、信義則上、想定される利回りの基礎となる収益の額に影響を及ぼし得る法令上の制限の有無及びその内容についても調査して説明すべき義務を負うものと解するのが相当である。

しかるに、Yは、Xに対し、本件売買契約の締結に際し、本件レントロールに記載された本件工作物への広告物の表示等について本件不動産に係る収益に影響を及ぼし得る本件規制に関する説明をしなかったものであって、このことは、上記の信義則上の義務に違反したものとして不法行為を構成するものと認めるのが相当であるYは、本件工作物は本件売買契約においても宅地建物取引業法においても建物にも含まれない付帯設備にすぎないから、買主であるXからの具体的な調査依頼等がない状況の下において、かかる付帯設備に適用される条例に基づく子細の制限内容について売主であるYが買主であるXに対して説明すべき義務を負わない旨を主張する。

しかしながら、YはXに対して、本件看板を含めて本件不動産において想定される賃料額とともに本件不動産の表面利回りが7.44%などと記載された本件レントロールを交付するなどして本件売買契約の締結に際して販売価格の妥当性を示したものといえるから、本件工作物が建物そのものではないとの一事のみをもって、上記の信義則上の義務を免れるのは相当とはいい難い。

東京地裁令和4年3月29日判決

投資用物件において、想定利回りの基礎となる収益に影響を及ぼす法令上の制限については、宅建業者である売主が調査・説明すべき信義則上の義務を負う。

つまり、「屋上広告看板に賃料が設定されている以上、条例による広告掲出制限の有無を調査・説明する必要がある」というのが裁判所の立場です。

Yは、「看板は建物に含まれない付帯設備であり、宅建業法上の重要事項説明の対象外」と主張しましたが、裁判所は「売主業者自らが、表面利回り7.44%など具体的数値を提示して物件を販売していた以上、建物の一部ではないという形式論で説明義務を免れることはできない。」と退けました。

損害額と過失相殺

Xは、本件規制が存在しないことを前提とした金額で本件不動産を購入したことによって損害を被ったものであり、その損害額は2002万円と認める。(注.計算根拠は割愛)もっとも、不動産の賃貸等を目的とするXが投資目的で本件不動産の購入を検討し、本件不動産に係る表面利回りが通常の物件よりも高く設定されていると認識していたのであれば、第三者に客観的な意見を求めるなどして、本件不動産の収益性について慎重に検討すべきであったものといえる。

Xは、本件レントロールに表示された表面利回りをいわば鵜呑みにして、Yが提示していた販売価格により本件売買契約を締結するに至ったのであって、このことについて一定の落ち度があったものといわざるを得ず、その過失相殺の割合を4割とし、Xが負担した弁護士費用の一部を含めて、YがXに賠償すべき損害額を1321万円余と認める。

東京地裁令和4年3月29日判決

  • 裁判所は、Xの損害額を約2000万円と認定。
  • ただし、「Xにも高利回りを鵜呑みにした過失がある」として、4割の過失相殺を適用。
  • 弁護士費用を含めたYの賠償額は、約1321万円とされました。

実務上のポイント

「宅建業法35条」の限界と民事上の説明義務

宅建業法35条1項2号に基づく重要事項説明では、法令制限の対象法令が施行令で列挙されています。しかし、屋外広告物条例のようにそこに含まれていない法令でも、民事上は「説明すべき重要事項」と認定される場合があります。

特に、本件のように利回りの数値を売主自ら提示し、収益性を強調しているケースでは、数値の根拠となる収益要素についての法的リスクは厳しく問われます。

想定利回りの信頼性が問われる時代に

高利回りがうたわれる投資物件では、その収益の裏付けが適切か、また収益に制限がないかを、業者側が自ら調査・説明する責任があると認められました。
これは、利回りの「根拠」を示す業者には、それを裏付けるだけの調査と説明義務があるという実務上の重要な指針となります。

まとめ

投資用不動産においては、法令上の制限が収益に直結する場面が多々あります。本件判決は、たとえ宅建業法上の「重要事項説明」の対象でなかったとしても、利回りや収益の信頼性を確保する観点から、売主業者に対してより広い民事上の説明義務が認められることがあることを明示しました。

特に、収益の25%以上を特定の要素(今回でいえば広告収入)に依拠して利回りを算出していたようなケースでは、その要素が法令により制限されていないかの調査は必須です。

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