築50年超のアパートで「家賃6か月分」の立退料により正当事由が認められた事例

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古いアパートを取り壊して建替えたい、あるいは別の用途に転用したいという相談は、宅建業者の皆様からもよく耳にします。しかし、建物明渡しにあたっては、借主の居住権保護との調整が求められ、貸主の「正当事由」の有無が大きな壁になります。
今回は、築50年以上が経過した木造アパートについて、家賃6か月分の立退料を支払うことにより明渡し請求が認められた事例をご紹介します。

事案の概要

本件アパートは昭和43年築の2階建て木造アパートで、平成12年からYが入居していました。契約は当初2年契約で、その後も数回更新されましたが、平成20年に「今回限りで更新終了」とする特約付き契約を締結。契約書記載の期間満了日である平成22年8月より後も本件建物に居住し続けたため、本件賃貸借契約は、期間の定めのない賃貸借へ移行していました。

その後、建物は老朽化が進み、Xは建替え計画や耐震診断も実施。令和3年の耐震診断では、「1階は倒壊の可能性が高い」との結果が出たため、XはYに解約を申し入れます。

ただしYはこれを拒否。Xはやむなく訴訟を提起し、老朽化・耐震性の欠如・入居者が1名であることによる収益悪化などを理由として建物明渡しを求めました。あわせて、立退料として27万円(家賃等の6か月分)を支払う意思を示していました。

裁判所の判断

解約申入れの正当の事由の有無について

本件アパートは、建築から50年以上が経過し、倒壊することも懸念される建物であることが認められる。

また、本件アパートに入居している賃借人がYのみであるという状況が継続しており、収益性が著しく悪化していることも併せて検討すると、現時点では、Xが主張する低層マンションの建築の見通しは不透明であるものの、本件アパートと隣接する建物を解体して駐車場にすることによって、上記の問題点を解決することは十分な合理性があり、Xにおいてその計画を実行することができる資力を有していることも認められる。

したがって、Xにおいては、明渡しを求める必要性が相当程度高いと認められる。他方、Yは、30年以上にわたり、本件建物を住居として使用しており、70歳を超える高齢であることも併せ考えると、引き続き本件建物において居住を継続する必要性が高い。 ただし、Yは、契約更新は今回限りとする旨の合意を含む平成20年7月付けの賃貸借契約書に署名押印しているところ、同契約書における賃貸期間の終期から10年以上も本件建物の使用を継続しているのであるから、引き続き本件建物において居住を継続する必要性は、相対的に低下していると認められる。

東京地裁令和3年12月14日判決

老朽化と耐震性の問題

築50年以上が経過し、耐震診断でも倒壊のリスクが高いと判断された建物である点が、貸主の明渡しの必要性を強く裏付ける事情とされました。

入居者がY一人であることによる収益性の低下

満室だった物件が、平成31年以降はY一人のみ入居という状態が続いており、収益性が著しく低下している状況も加味されました。

借主の事情と「更新は今回限り」とする特約

Yは本件アパートに30年以上住み続けており、70歳を超える高齢者であることから、引き続き居住を希望する事情も考慮されました。
しかし、平成20年の契約書で「今回限りの更新」と明記されていたこと、そしてその後10年以上居住を継続していたことから、借主の使用継続の必要性は相対的に低下しているとされました。

建物の明渡しを求める必要性

Xにおいて、本件建物の明渡しを求める必要性は相当程度高い。他方、Yにおいて本件建物の使用を継続する必要性が相応に存する。

したがって、Xの解約の申入れに直ちに正当の事由があるとまでは認め難いものの、本件建物の明渡しによって引越し等を余儀なくされるというYの不利益は、Xがその不利益を一定程度補うに足りる立退料を支払うことによって補完することが可能であり、これにより、Xの解約の申入れに正当の事由が認められる。 そして、立退料金額は、上記の認定及び本件の一切の事情を勘案すると、本件建物の1か月分賃料及び共益費の合計額6か月分(27万円)が相当である。

東京地裁令和3年12月14日判決

立退料の支払いによる補完

立退料として賃料+共益費の6か月分(計27万円)を支払うことにより、借主の不利益が一定程度緩和されるとし、これをもって貸主に「正当事由」があると認定されました。

実務上のポイント

老朽化・耐震診断結果は重要な補強材料

本件では、建物の耐震診断により倒壊リスクが明確に示されたことが、貸主の正当事由を補強する非常に強力な根拠となりました。特に築古アパートでは、専門機関による診断を行い、その結果を根拠にすることが重要です。

契約特約の存在と居住実態も加味される

借主が「今回限りの更新」と明記された契約書に署名押印していた点、またその後の長期占有も、正当事由判断に影響しました。こうした契約の履歴や合意内容は、賃貸借契約書の保管状況や更新経緯の記録の有無がカギとなります。

立退料の支払いは正当事由を補完する実効性ある手段

本件のように、家賃6か月分程度の立退料でも、状況次第では補完的事情として有効に機能します。賃貸人からすれば、立退料を提示することによって法的な明渡しの可能性を高めることができます。

まとめ

築古物件の明渡しでは、借主の生活保障との調整が避けられませんが、老朽化・耐震リスク・低収益性・立退料提示といった複数の事情が積み重なることで、貸主の正当事由が認められる可能性は高まります。

本判決は、「家賃6か月分の立退料」で正当事由が補完され得る具体的事例として、宅建実務にも大変参考になります。

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