予想外のコスト増加は「建物が建築できない場合」に当たるのか?

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売主の一方的な白紙解除が認められず、買主の違約金請求が認容された事例

不動産開発事業において、建築コストが想定よりも大幅に増加した場合、そのことが「建物が建築できない場合」に該当するのか。今回取り上げる判例は、契約書上の解除条項の解釈において、安易な白紙解除が許されないことを明確に示した点で、不動産業者間の契約実務に示唆を与えるものです。

事案の概要

売主業者Yは第三者から土地を取得し、地上12階・総戸数19戸のマンションを建築して、買主業者Xに一括売却する契約プロジェクトを訴外A社から持ちかけられました。

平成24年3月、両者は「建築確認が取得できた場合に売買契約を締結する」とする協定(以下「本件協定」)を結び、さらに同日、土地売買契約(代金1億8000万円、違約金20%)を締結。協定・契約ともに「本件建物が建築できない場合には白紙解除」とする特約が定められていました。

Yは、プロジェクト着手後に建築費の高騰に直面し、建築確認を取得できないまま、平成25年に買主Xへ白紙解除を通告。その後、本件土地を第三者に転売しました。

これに対してXは、「建築不能の原因はYにある」と主張し、違約金(3600万円)の支払を求めて提訴しました。

売主の主張:「採算が取れない=建築できない」?

売主Yは、アースアンカーの設置や震災後の建築費高騰によって事業採算が合わなくなったとし、それが「建物が建築できない場合」に該当すると主張しました。

つまり、「合理的な建築費で建築できない=建築不能」との論理です。

裁判所の判断

裁判所はこの主張を退け、買主Xの違約金請求を認容しました。主な判断ポイントは以下のとおりです。

事前にリスクを把握・許容していた

Yは、事業参画を決めた8日後に契約を締結したため、十分な検討の機会がなかったと主張するが、事業の検討自体は平成23年末から行っており、アースアンカーの必要性や建築費の高騰については、その期間に検討可能であるうえ、本件事業のリスクも一定程度検討した上で参画したものと認められる。

東京地裁平成31年1月23日判決

Yは平成23年から本件事業の検討を開始しており、アースアンカーの必要性や建築費の動向についても予見・検討可能であった。つまり、「予想外」という主張が通らないという判断です。

事業採算の悪化は解除理由にはならない

不動産業者間において、一方当事者の努力により利益が増えることもあれば減ることもあるという形態の事業について、その者にとって採算が合わなくなったという理由で当然に解除できるというのは通常の商取引で想定される契約とはいい難く、そうであればその旨を明確に定めるべきである。

この点、本件解除条項の文言では、一方当事者にとって採算が合わなくなったというような主観的経済的な事情を含め、広く解除を認めるものと解するのは困難である。

東京地裁平成31年1月23日判決

「採算が合わなくなった」という経済的事情は、あくまで売主の主観的な事情であり、これをもって当然に契約を白紙解除できるとは解されない。
こうした解除を可能とするには、契約条項において明確な基準を定めておくべきであるとしました。

違約金の額は過大ではない

損害賠償額の予定がされたときは、損害の有無又は多少を問わず、合意した違約金の支払義務が発生すると解され、仮にXに生じた損害額が軽微なものだったとしても、それによって信義則に反するというものではない。 また、20%というのは通常の不動産取引における違約金割合と同一と解される上、本件土地売買契約は不動産業者間で締結されていることを踏まえると、違約金の割合が過大ということもない。

東京地裁平成31年1月23日判決

契約書で定めた違約金(売買価格の20%)は、不動産取引において通常の水準であり、信義則違反や過大性は認められないとされました。

まとめ

事業採算が悪化したからといって、安易に「建築できない」として契約を白紙解除することは許されません。特にプロジェクト型の土地売買契約においては、建築費の上昇や予想外の工事が必要になるリスクは、ある程度織り込み済みであるべきです。

また、契約書における「建築できない場合」の定義は、客観的かつ明確に記載しておくことが望まれます。採算性の悪化を解除理由にしたい場合は、その点を条項に明記すべきでしょう。

本件判例は、プロジェクト型土地売買契約において、事業リスクが売主に内包されること、そして解除条項の解釈には慎重さが求められることを端的に示した事例といえます。

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