都市計画道路予定地に関する建築規制の説明不足が契約解除理由とならなかった事例

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不動産取引における「重要事項説明」は、宅建業者の責務の中でも最も慎重を要する業務の一つです。特に都市計画道路予定地に関する規制は、買主の建築計画や利用計画に直結するため、説明の不備が契約トラブルに発展するリスクを孕んでいます。

本記事では、都市計画法53条1項に関わる制限の一部を説明しなかった仲介業者に対し、買主から契約解除や損害賠償が請求されたものの、裁判所がすべての請求を棄却した判例を紹介しつつ、宅建業者として注意すべきポイントを整理します。

事案の概要

本件は、元宅建業者である買主Xが、都市計画道路予定地を含む土地建物を購入した取引に関するものです。

本件建物が所在する区域においては、都市計画法の許可取扱基準として、建築物が下記A~Eに掲げる全ての要件に該当し、かつ容易に移転し、または除去することができるものであることが定められている。

  1. 市街地開発事業(区画整理、再開発など)等の支障にならないこと
  2. 階数が3以下で、かつ地階を有しないこと
  3. 高さが10m以下であること
  4. 建築基準法2条5号に規定する主要構造部が、木造、鉄骨造、コンクリートブロック造その他これらに類する構造であること
  5. 都市計画道路区域の内外にわたり存することになる場合は、将来において、都市計画道路区域内に存する部分を分離することができるよう、設計上の配慮をすること

売買契約時に仲介業者Y2は、都市計画法に基づく建築制限のうち、主要な要件(A〜E)は説明していたものの、「都市計画道路区域内の建築物について、将来的に区域内外で分離できる設計上の配慮(要件E)」については説明をしていませんでした。

Xはこの説明の不備を理由に契約解除や損害賠償を求めましたが、裁判所は以下のような理由からXの請求をすべて退けました。

裁判所の判断ポイント

説明義務違反の有無について

本件契約の重要事項説明書には本件土地の一部が都市計画道路予定区域内に位置していることが明示され、Xも本件契約締結前や重要事項説明時にこの点について説明を受け、事業決定がされれば予定区域内に存在する建物の収去の必要が生じることは認識していたのであるから、本件土地と同予定区域の位置関係や制約等の有無及び内容について関心を抱いて然るべきである。Xの業務が不動産の取得、所有、処分等であることや本件契約の3か月ほど前までは宅地建物取引業者の免許を有していたことからすればⅩにおいても同予定区域の存在やその内容は極めて容易に把握できるところであり、リスク調査や質問等を行うことが十分可能であった。

また、Xは本件契約締結前に現地確認等を行わず、契約締結時までに本件建物の解体や再築について言及していないことからすれば、Y1、Y2らとしては、Xが当面は本件建物を解体せず利用する前提での契約と想定していたと言わざるを得ない。

その上で、本件土地のうち都市計画道路予定区域外の部分は、約16.66㎡(約5坪)で、地形も三角状であるから、この土地に建物を建築することは事実上困難であり、現実に同予定区域外の部分に建物を残存させることが客観的に困難である場合は、分離設計配慮の規制について説明する実質的な意味が乏しいといわざるをえない。

以上より、本契約締結に当たって、本件規制の説明を受けることがXにおいて重要事項であったとまでは認めがたく、Yらが本件規制の説明を行わなかったことが重要事項説明義務に違反したと認めることはできない。 したがって、重要事項説明義務違反があることを前提とする本件契約の解除に係るXの主張は理由がない。また、同義務違反を理由とする債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求も理由がない。

東京地裁令和2年11月19日判決

  • 重要事項説明書には、土地の一部が都市計画道路予定区域に指定されている旨が明記されており、買主Xもそれを把握していた。
  • 買主Xは元宅建業者であり、土地と道路予定区域との関係性を調査・認識する能力が十分にあった。
  • 契約前に現地確認や建替えの意向表明がなかったことから、既存建物を当面使用する前提での契約と見なされる。
  • 分離設計配慮の規制についても、予定区域外の部分が5坪程度の三角形の狭小地であり、実際にそこへ建物を建てることは困難であるため、説明の実益が乏しかった。

結果として、「要件E」の説明の欠如は、買主の判断に重大な影響を及ぼす“重要事項”には当たらないと判断されました。

錯誤の主張について

錯誤に関しても、以下のような理由により棄却されています。

Xが本件契約締結前に本件土地の一部が都市計画道路予定区域内に位置することは認識していたところであり、仮にⅩに何らかの錯誤があるとしても動機に錯誤があるというほかなく、重要事項説明書の記載から本件規制の存在や内容は容易に知ることができ、Y2に何ら建物の再築の可否等について尋ねていない点も勘案すれば、Xの動機が契約内容としてY1に表示されていたと認めることができず、他にこれを認める客観的証拠もない。

よって、Xの請求はいずれも理由が無いから、これを棄却する。

東京地裁令和2年11月19日判決

  • Xは都市計画道路予定区域の存在自体は契約前から認識していた。
  • 動機の錯誤があったとしても、それが売主に表示されていない限り、法律上の「要素の錯誤」とはならない。
  • 実際にXは建替え計画について仲介業者に一切言及していないため、売主や仲介業者がXの真意を把握することは困難であった。

宅建業者への実務的な示唆

本判例が宅建業者に与える実務上の示唆は次のとおりです。

「利用意図のヒアリング」が説明義務の前提となる

本件で仲介業者が「分離設計の配慮規定」について説明しなかったことが違法とされなかった理由の一つは、買主から建替え等の具体的意図が示されていなかった点にあります。すなわち、買主の利用目的が明確に伝えられないままでは、仲介業者にすべての規制を網羅的に説明する義務が課されるとは限らないのです。

したがって、仲介業者としては、契約前の段階で買主の土地利用の意図(再建築・建替え予定の有無等)を丁寧にヒアリングすることが、結果的に説明義務の範囲を明確にするうえで極めて重要です。

都市計画道路予定地の説明には、客観的な建築可否の検討を

都市計画道路予定地を含む土地については、都市計画法第53条の許可基準の説明を行うだけでなく、実際に建築可能かどうかの客観的な判断(敷地形状、面積等)を買主が適切に把握できるよう配慮する必要があります。

今回の判例では、予定区域外の土地が極めて狭小で三角形状であったことから、分離設計配慮を説明する意味が薄かったとされましたが、これは「説明不要」と断定できる要素ではありません。実務では、「説明したが理解されなかった」としても説明履歴が残っていなければ、トラブルに発展しかねません。

元宅建業者・不動産事業者に対する説明の取扱い

今回の買主は元宅建業者であり、専門的知識があると認定されました。このような背景がある場合、裁判所は買主の情報収集義務やリスク判断能力を高く評価する傾向があります。

そのため、取引相手の属性によって「どこまで説明すべきか」という線引きを多少柔軟に考える余地はありますが、それでもやはりトラブル防止の観点からは、「説明しない理由を記録しておく」あるいは「書面で確認を取る」といった慎重な対応が望まれます。

まとめ

都市計画道路予定地に関する建築制限の説明は、仲介実務において非常に重要なポイントです。本件判決は、必ずしも全ての制限を網羅的に説明しなかったことが直ちに義務違反とならないことを示すものですが、それはあくまでも「買主の属性や土地の状況、利用意図の有無」等の事情を総合的に勘案した結果です。

説明義務の履行とは、単に説明を読み上げることではなく、相手の理解と判断に資する情報提供を行うことにほかなりません。仲介実務に携わる宅建業者の皆様におかれては、本判例を一つの教訓とし、より実効性の高い説明と記録のあり方を再確認していただければと思います。

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