事案の概要
- 計画建物:RC造4階建・高さ9.963m(賃貸住宅12室)
- 敷地条件:第二種中高層住居専用地域・日影規制は「高さ10m超(4h/2.5h-4m)」適用
- 紛争経緯
- 施主Y1・施工会社Y2が平成29年9月に着工
- 隣接地所有者X1・X2が「冬期の日照が著しく阻害され人格権を侵害する」として高さ7.2m超部分の工事差止めを請求
- 日影図・パース提示など一定の事前説明は実施済み
- 仮処分的和解により高さ7.2mを超える建物部分の工事停止→本訴判決でX側の請求を棄却
裁判所の判断
日照阻害について
本件建物によりX1らの住宅に生じる日影はX1住宅では、冬至期において、午前8時から正午まで南面全面が、正午から午後4時まで南面の一部が日影に入り、X2住宅では、午前9時30分から午後1時前まで南面一部が、午後1時前から午後4時まで南面全面が日影に入る。また、X1住宅においては、毎年12月1日頃から翌年の4月1日頃までの間、南面の一部ないし全部が午前8時から午後4時の間の一部ないし全部について日影に入り、X2住宅においては、毎年12月1日頃から翌年の3月1日頃までの間、南面の一部ないし全部が午前9時30分頃から午後4時の間の一部ないし全部について日影に入るものである。
しかし、その他については本件建物による日影に入ることはなく、年間を通じてみると多くの時間について日照阻害が生じるものではない。X1住宅の2階部分は、北側にあるから、本件建物による日影に入ることはないと認められ、X2住宅については2階部分も含めて本件建物の日影に入るが、冬至期においても、全面的に日影に入るのは午後1時前から午後4時の間でしかない。 すると、Xらの住宅の本件建物による日照阻害は存在するものの、それ自体重大であるとまでは評価できない。
本件建物は、4階建ての建物であるものの、日影規制の対象とはならない建物であって、また、その他建築関係の法令に違反する建物ではない。
東京地裁令和元年5月17日判決
- 日照阻害の程度
- 冬至期でも南面が終日日影となるわけではなく、年間を通じれば日照喪失時間は限定的。
- X1住宅2階には日影が及ばず、X2住宅も全面的日影は午後1時前~4時のみ。
- 法令適合性
- 建築物は日影規制を含む関係法令に適合。違法建築ではないことを前提に判断。
経済的損失について
本件建物は地上4階12部屋からなる賃貸住宅で建築費は約2億円であるところ、居室12部屋について予想される家賃は月額9万7500円から11万4000円で合計128万9500円であり、Y1の本件土地の購入資金及び本件建物の建築資金のための借入金の返済、維持費等を考慮すると、Y1の手取りは居室12室が満室になるとの前提でも年間100万円にも満たないものである。
本件建物の建築計画を低層建物へと変更した場合には、上記のような収支の計画に照らすと全く採算がとれず、Y1において相応の経済的損失が生じ、現実的にはその建築計画の変更は相当に困難であるといえる。
本件地域は、第二種中高層住居専用地域であり、都市計画法上、主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域とされており、実際、本件建物から半径100mの範囲内に相当数の3階建以上の建物が存在する。そうすると、本件地域は、3階建以上の住居等が存在し、それによる日照阻害がある程度存在することが前提とされており、一定範囲ではこれを受忍すべき地域であると認められる。
東京地裁令和元年5月17日判決
- 建築計画変更の困難性(経済的衡量)
- 総事業費約2億円、低層化すれば採算割れ。施主側に極めて大きな損失が生じる。
- 地域性・受忍限度
- 当該用途地域は中高層住宅を前提とする。周辺にも3階建以上が多数。一定の日照阻害は「地域的共存の範囲」と認定。
以上のようにXらの日照阻害の程度、本件地域の地域性、本件建物に法令違反が認められないこと、本件建物の建築計画の変更の困難性等を総合的にみれば、本件建物によるXらの日照阻害が、その程度が社会通念上一般に受忍すべき限度を超え、それが損害賠償等の金銭補償をもってしても救済されない段階に達している場合とまでは認められないとしてXらの請求を棄却しました。
まとめ
本判例では「日照阻害が、その程度が社会通念上一般に受忍すべき限度を超え、それが損害賠償等の金銭補償をもってしても救済されない段階に達している場合には、建物の建築の差し止めを求めることができると解される。」とされています。
法令に従えば、日照阻害が社会通念上一般に受忍すべき限度を超えるということは考えにくいですが、法令を盾に強引に事を進めれば建築工事の仮差止めを起こされかねません。工期が伸びれば経済的な損失が大きくなりますので、近隣への説明は丁寧に行うべきでしょう。
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