投資用物件の利回り説明と調査義務を怠った宅建業者に媒介報酬の全額請求が否定された事例

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事案の概要

本件は、投資用物件を取り扱う宅建業者が、物件の収益性(利回り)について誤った説明を行い、最終的に買主が手付解除したにもかかわらず、媒介報酬の全額を請求したところ、その半額のみの支払いが認められたという事案です。

具体的には、投資用不動産サイトを運営する媒介業者が、売主業者の委託を受け、新築未完成の賃貸アパート(6室、価格4780万円)を買主に紹介し、売買契約を成立させました。買主はあらかじめ「利回り10%程度の物件を希望」と伝えていましたが、媒介業者は実際より高い収入見込みを前提とした物件概要書を提示。後に収益性の誤りが判明し、買主は契約を手付解除しました。

その後、媒介業者は買主に対して約定媒介報酬(155万円)の支払いを求め提訴しましたが、裁判所はその請求の一部(約半額)しか認めませんでした。

裁判所の判断

宅建業者の調査説明義務について

裁判所は、宅建業法に基づく宅建業者の調査説明義務を次のように捉えました。

宅地建物取引業者は、媒介契約の本旨に従って善良なる管理者の注意義務をもって、買主が当該売買契約を締結するか否かを適切に判断できるよう、重要事項について事前に調査し、正確な情報を提供すべき義務を負う。

東京地裁令和3年2月25日判決

本件においては、買主が「利回り10%以上」を希望していた点を踏まえ、利回りは契約目的に直結する「重要事項」に該当すると判断。そのため、媒介業者は、他業者やインターネット、あるいは査定会社への直接確認を通じて、周辺相場や設定賃料の妥当性を検証すべきであったとされました。

媒介報酬の減額の根拠

一般に投資用不動産を購入するか否かに当たって買主が主として着目するのは利回りであり、買主は媒介業者に対して利回り10%以上の物件を希望する旨を伝えていたことに照らせば、本件不動産の収益性は売買契約の目的を達成するために重要な事項であったといえる。

したがって、媒介業者は、本件売買契約が締結されるまでの間に、本件不動産に係る年間収入の査定をしていたB社に対して自ら直接問い合わせしたり、本件不動産の周囲にある賃貸物件の状況を地元の不動産業者やインターネットから情報収集をして比較するなどの調査をすべきであったといえ、そうしていれば、本件不動産の利回りが新物件概要書に記載された9.59%を下回ることは容易に判明したものと考えられる。

したがって、媒介業者が買主に対して本件媒介契約に基づく約定の報酬金の全額を請求することは信義に悖るものとして権利の濫用であると解するのが相当であり、媒介業者の買主に対する本件媒介契約に基づく報酬請求権は、約定額である155万円余のうち5割である77万円余の限度に制限されるべきである。

東京地裁令和3年2月25日判決

媒介業者によって売買契約は一旦成立しており、媒介報酬請求権の「発生」自体は否定されませんでした。しかし、提供情報の不正確さと調査義務違反があったことから、報酬全額を請求することは信義則に反し、「権利の濫用」にあたるとして、請求は報酬額の半額(約77万円)に制限されました。

このように、媒介報酬請求権の「成立」と「行使」は別次元の問題であることが明確に示された判例といえます。

買主側の損害賠償請求について

媒介業者は本件不動産の収益性について調査をして正確な情報を提供して適切に説明すべき注意義務に違反しており、本件媒介契約の債務不履行に当たるというべきである。

もっとも、買主は、他の不動産業者から媒介業者の提示に係る本件不動産の賃料収入の設定について疑問がある旨の意見を述べられながら、媒介業者に本件不動産の収益性に関する更なる調査を求めることなく本件売買契約を締結するに至っており、媒介業者が上記注意義務に違反しなければ買主が本件売買契約を締結しなかったとまで認めるには足りない。

そうすると、媒介業者による債務不履行と、本件売買契約に係る手付金及び本件媒介契約に基づく報酬金に相当する損害との間に相当因果関係があるとはいえず、買主は媒介業者に対して上記債務不履行に基づいて上記損害の賠償を求めることはできない。

東京地裁令和3年2月25日判決

一方、買主の「損害賠償請求」は退けられました。理由として、買主自身が契約前に他業者から賃料設定への疑問を聞かされていたにもかかわらず、媒介業者に追加調査を求めなかったという行動から、媒介業者の説明義務違反と買主の損害との間に「相当因果関係が認められない」と判断されました。

実務への示唆と留意点

媒介報酬の「全額請求」は常に正当化されるとは限らない

本件判決は、宅建業者が媒介業務において形式的に契約を成立させたとしても、媒介過程における調査説明義務を怠れば、報酬全額の請求が認められない場合があることを示しています。

特に、投資用物件を取り扱う場合には「収益性(利回り)」が最重要の判断材料となるため、利回りの根拠については慎重な調査と裏付けを行う必要があります。

利回りの提示には確認を

物件概要書に記載する利回りについては、以下の点を必ず確認しておくべきです。

  • 想定賃料が現在の市場相場と照らして妥当か
  • 査定会社の前提条件(過去の資料や類似物件データ)が正確か

売主提供の資料上の「数字」をそのまま買主に伝えるのではなく、媒介業者でもチェックを行う体制が求められます。

まとめ

宅建業者は、契約を成立させることにより報酬請求権を得るという基本構造に立脚していますが、その前提として、買主が納得のうえで判断できるだけの正確な情報を提供する義務があります。

本件のように、収益性という「物件価値の中核」に関わる情報にミスがあれば、たとえ契約が成立していたとしても、「全額の媒介報酬」を当然に請求できるとは限らないことを示しています。

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