いわゆる「デート商法」により、異常に高額な価格で不動産を購入させられた買主が、売主である宅建業者に対して損害賠償請求を行い、ほぼ全面的に認容された事案が、東京地裁にて判断されました。
SNSを通じた出会いから恋愛感情を利用した不動産投資勧誘は、現在でも一部で横行しており、特に若年層を中心に被害が懸念されています。
事案の概要
買主であるX(原告)は、SNSを通じて知り合ったAから食事などの誘いを受け、やがてXがAに交際を申し入れるも、Aは明確な態度を示さず、その後Xに対して不動産投資の勧誘を行うようになります。
AはY社(宅建業者)の従業員であり、Xに対して源泉徴収票の提出を求めるなど、投資の可否を調査。
Xは以下の不動産を次々に購入しました。
- 平成28年3月:中古分譲マンション①(3280万円)
- 同年4月:投資用マンション②(3600万円)
- 同年10月:投資用マンション③(1200万円)
合計購入額は7980万円余、加えてY社に支払ったコンサル報酬200万円と諸経費等も支出。
しかし、物件の収支はすべて赤字(持出し6万〜16万円/月)、市場価格は購入価格の半額程度であることが後に判明します。
裁判所の判断
Aの不法行為の成立
Xの各物件の購入価格の合計は、7981万円余であるのに対し、各契約から約1年半〜2年後の各物件の査定価格は合計3760万円にとどまり、各契約の価格は、市場価格に照らして不相当に高額なものであったと言える。また、各物件の収支も月額合計6万円以上のマイナスで、この状態が相当期間継続、もしくは悪化することも見込まれる。
またAは、Xと知り合って間もなくXに源泉徴収票の開示を求める等不動産投資の勧誘を行い、Xから交際を求められると明確な回答を避け、不動産投資の勧誘を継続し、さらにXが各契約についての融資を受けさせるために改ざんした源泉徴収票を金融機関に提出したことが認められる。
よって、Aの上記勧誘行為は、社会通念上容認し得る限度を超え、不法行為に該当する。
東京地裁令和3年7月20日判決
- 購入価格が市場価格を大きく上回っていたこと
- 収支が恒常的に赤字だったこと
- 恋愛感情を利用した投資勧誘の手法
- 融資審査のためにXの源泉徴収票を改ざんし提出させたこと
これらの点から、Aの行為は「社会通念上容認し得る限度を超えた」ものとされ、不法行為が認められました。
Y社の使用者責任
Y社は、契約①及び契約②について、Xとの間で不動産コンサルティング業務委託契約を締結してこれに基づく報酬を収受し、契約③については、自ら売主として契約を締結しており、AはY社の業務執行としてこれらの勧誘を行ったことは明らかであり、Y社は民法715条1項に基づく使用者責任を負う。
東京地裁令和3年7月20日判決
- 物件①②についてはコンサル契約を締結して報酬を受領
- 物件③はY社自らが売主
- Aの勧誘・契約行為はY社の業務執行の一環であったことが明らか
以上により、Y社には民法715条1項に基づく使用者責任があると判断されました。
損害額の算定
Xは、Aの不法行為によって、各契約を締結し、売買代金として7981万円余、Y社に対するコンサル報酬として200万円、その他購入に要した費用等として83万円余(合計8264万円余)を支払っており、これに弁護士費用826万円余を加えた9091万円余について、Y社はXに対して支払い義務を負う。ただし、この金銭賠償によりXの精神的損害は慰謝されると認められ、慰謝料請求は認められない。
なお、Y社は、各物件の市場価格相当がXの損害額から控除されるべきとも主張するが、Aの不法行為は反倫理的なものであり、これを控除することは相当でない。
東京地裁令和3年7月20日判決
- 不動産購入費:7981万円余
- コンサル報酬:200万円
- 諸経費:83万円余
- 弁護士費用:826万円余
計9091万円余について、Y社の賠償責任が認められました(※慰謝料請求は認められず)。
また、「物件の残存価値(時価)」について、Y社は損害額からの控除を主張しましたが、裁判所は「Aの反倫理的行為」に鑑みてこれを否定しました。
まとめ
本件判決は、SNSを通じた恋愛感情の利用、不動産投資の過剰な勧誘、そして市場価格を著しく上回る価格での売買が争点となった、典型的な「デート商法型不動産被害」の事例です。
使用者責任が問われた宅建業者に対して、損害全額の賠償が命じられたことから、同種の勧誘手法を黙認または放置することは極めてリスクが高いと言えます。
成年年齢の引下げと若年層のリスク
令和4年4月から成年年齢が18歳に引き下げられたことにより、契約行為の対象となる若年層の裾野が広がっています。
これに伴い、国土交通省は令和4年3月14日付で「成年に達した若年者に対する適切な対応について」と題する通知を発出し、不動産関係団体に対して注意喚起を行っています。
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