事案の概要
本件は、建築基準法上の採光基準を満たさず「納戸」と扱うべき部屋を「居室」として表示し、「4LDK」と広告された新築戸建て住宅について、実際に購入した買主から慰謝料等の損害賠償請求を受けた売主業者に対し、不法行為責任を認定し、慰謝料等の支払を命じたものです。
本件建物は、2階に約6畳の部屋を含む延床面積102.38㎡の新築住宅で、X夫妻が購入。
数年後、転売の際に他の宅建業者に相談したところ、この2階の6畳部屋が建築基準法上の採光基準を満たしておらず、「居室」とは認められない、すなわち「納戸」であるとの指摘を受けたことで、Xらは不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。
裁判所の判断
不法行為責任の有無
不動産の表示に関する公正競争規約23条1項⑽において、「建築基準法(昭和25年法律第201号)上の居室に該当しない部屋について、居室であると誤認されるおそれがある表示」の広告が禁止されている趣旨に鑑みれば、建物の購入者にとって、建築基準法上の居室か否かは購入の際の重要な考慮要素の一つというべきである。
本件において、本件部屋が居室であることを前提に「4LDK」と表示したパンフレットを交付し、本件建物を説明した事実を踏まえると、Xらは本件建物が「4LDK」であり、本件部屋が建築基準法上の居室の要件を満たした部屋であると誤認して本件建物を購入したものと認められる。
仮に、寝室等として利用可能な部屋であったとしても、建物の販売広告において、建築基準法上の居室の要件を満たしていない部屋について、居室であるかのような表示をすることは許されず、そのような表示は、これを信頼して購入した者の建物の形質に対する信頼という利益を侵害するものである。
また、本件売買契約の重要事項説明書添付の本件建物の図面には、本件部屋が「納戸」と表記されていた事実を踏まえると、Yは、本件部屋が建築基準法上の居室の要件を満たしていないことについて認識していた、又は少なくとも認識し得たというべきである。
したがって、本件パンフレットにおいて「4LDK」と表示したことについて、Yは不法行為責任を負う。
東京地裁令和3年3月9日判決
裁判所は、公正競争規約第23条第1項⑽に明示されている「居室でない部屋について、居室と誤認される表示をしてはならない」という趣旨を重視し、建築基準法上の「居室」に該当しない部屋を「4LDK」の一部として広告した売主業者Yの行為は、買主の信頼を損ねるものであると判断しました。
X夫妻は、実際に現地確認を行った上で本物件を購入していましたが、本件部屋は約6畳、窓も2面に設けられ、クローゼットも備えていたため、「納戸」であるとは認識できなかったとされています。しかも、Yから交付されたパンフレットには、当該部屋は「Master Bedroom」と明示されており、建物全体も「4LDK」と記載されていたことが、誤認の決定的要因とされました。
一方、重要事項説明書に添付された図面には当該部屋を「納戸」と明記していたものの、それだけでは誤認を防ぐに足りず、Yは説明義務を果たしていたとはいえないとされました。
損害の認定
Yには、信頼を害されたXらの精神的苦痛を慰謝すべき義務があるが、本件部屋は寝室として利用することが可能であること、実際にXらは、本物件を購入後、9年間にわたり本件部屋を子供部屋として使用してきたことなども勘案して、Yが負担すべき慰謝料額はXら夫婦合計で6万円と認める。
なお、Xらは、弁護士に委任して本件訴訟を提起しており、Yの不法行為と相当因果関係を有する損害を前記慰謝料の1割に相当する6千円と認める。
東京地裁令和3年3月9日判決
損害額については、X夫妻が当該部屋を子供部屋として9年間実際に使用していた事実を考慮しつつも、誤認による精神的苦痛は否定できないとして、慰謝料は合計6万円、不法行為と相当因果関係を有する損害としては、弁護士費用を勘案して6千円の支払が認定されました。
宅建業者への示唆
本判決は、広告表示の正確性が宅建業者にとって重要な責務であることを再確認させるものです。建築基準法上の「居室」に該当しない部屋について、居室であるかのように誤認させる広告表示は、たとえ現地を内見していたとしても、買主の判断を誤らせる要因となり、不法行為としての損害賠償責任を問われる可能性があります。
実務上の留意点
- 広告表示に用いる間取り表記や部屋名称(例:「4LDK」「主寝室」等)は、建築基準法上の要件との整合性を必ず確認すること。
- 表示内容について、販売図面・パンフレット・WEB広告などすべての媒体で一貫性が取れているかを社内で精査する体制を整えること。
- 万一、表示内容に誤りが判明した場合は、速やかに訂正を行い、購入予定者への説明記録を残すこと(営業日誌や交付書面に記録)。
本件は、結果的には賠償額が6万円余りと比較的小規模であったものの、広告表示の不備が不法行為責任につながることを裁判所が明確に認定した事例であり、「広告に関する過失」は企業責任として厳しく問われ得ることを再認識するべき事案といえます。
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