転売物件における説明義務違反が認定された事例

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共用部電力使用料金に関する情報提供の不備が争点に

投資用不動産を取り扱う宅建業者にとって、買主に対する正確な情報提供と説明は、信頼構築の基礎であり、また法的責任を伴う重要な業務です。
本記事では、レントロール記載の経費情報が現実と乖離していたことについて、宅建業者の調査・説明義務違反が一部認められた裁判例を紹介し、宅建業者として注意すべき点を解説します。

事案の概要

本件は、宅建業者(以下「Y」)が、投資用として賃貸用共同住宅の転売物件を紹介した際の対応をめぐる紛争です。

Yはこの物件の事実上の売主として、契約債務を重畳的に引き受ける旨を合意しており、Xからの一切の問い合わせ窓口として機能していました。

買主(以下「X」)は、Yから提示されたレントロールに「共用部電力使用料金:月額4,000円」との記載があることを前提に購入判断を行いました。

しかし実際には、共用部の電気代は月額約18,000円であり、Xは予想外の経費負担を強いられることとなります。
これを受けてXは、Yの説明義務違反に基づき損害賠償を請求し、訴訟に至りました。

裁判所の判断

裁判所は、次のように判示し、Xの請求の一部を認容しました。

売主としての説明義務の存在

認定事実によれば、Yは、Xに対し、自ら売主になると告げ、売主の契約上の債務を重畳的に引き受けたこと等が認められる。宅建業者であるYは、売買契約締結直前まで、事実上売主として振る舞い、XもYが売主であると信じ売買取引に臨んでおり、Yは、売主であった場合と同様の説明義務を負う。

本件不動産で発生する経費は、購入前のXが調査・予測することは容易ではないが、Yは、宅建業者かつ投資用不動産の取扱業者として、専門的な知識を有し、管理業者に問い合わせをする等、容易に調査を行える立場にあった。Xは、賃料額の齟齬を指摘する等、収支や投資リスクに高い関心があり、経費の額に齟齬があれば、関心を寄せていたと推認され、それをYも当然認識しており、宅建業者であるYは、経費の一部である共用部電力使用料金についても、適切な調査を行い、Xに正確な情報を説明する義務を負う。

東京地裁令和元年10月23日判決

Yは、形式上の売主ではないものの、契約上の債務を重畳的に引き受けており、実質的に売主と同等の立場にあると認定されました。
このような場合、Yは形式的な立場にかかわらず、売主と同様の調査・説明義務を負うと判断されました。

また、Xが収支や投資リスクに強い関心を持っていたことをYが認識していた点、Yが宅建業者として専門的知見と調査手段を有していた点が重視されました。

説明義務違反の内容

Yは、転売案件では、Cへ問い合わせをすることで調査は十分であり、これに基づく説明により説明義務違反はない、レントロールには想定を含み、実際と異なる可能性があることを予め断っており、説明不足はない旨主張するが、宅建業者である売主は、所有者であれば当然知っているべき情報について正確な情報を提供すべき義務を負い、その義務の程度は、転売事案か否かによって左右されず、Yは、投資判断の参考としてXに提供するレントロール作成の際には、改めて所有者ないし管理業者に直接問い合わせる等正確な情報を調査すべきである。

また、レントロールには正確性について断り書きがあるが、当初から十分な調査をせず、その結果、通常生ずる変動幅とは評価できない程度の乖離を生じ、かつ、そもそも調査結果とも異なる記載をしていた場合にまで、買主がその乖離を受け入れなければならないものではなく、本件不動産の売買で、共用部電力使用料金の誤った情報を提供したことについて、Yには説明義務違反があったと認められる。

東京地裁令和元年10月23日判決

Yは、転売案件であったことを理由に、前所有者(C)から得た情報をそのまま信頼し、自らの調査を尽くさずにレントロールを作成していたとされました。
しかし、裁判所は「転売案件であることは、調査・説明義務の軽減理由とはならない」と明確に述べています。

また、レントロールには「想定」である旨の記載があったものの、著しく現実と乖離していた点や、そもそも調査結果とも異なる記載をしていた点から、その免責性は否定されました。

損害の認定

将来の共用部電力使用料金は、入居者の設備使用状況等で変動し得るものであり、将来給付の訴えが認められるための要件である賠償内容の確定性の要件を充足するものではなく、本件口頭弁論終結日以降に生ずる損害部分は、訴えを却下すべきものである。

Xは、本件不動産の共用部電力使用料金の差額が損害であると主張するが、Yの説明義務違反の有無にかかわらず、その設備状況から、現時点の同料金が月平均で1万8000円程度であり、X主張の損害は、説明義務違反との因果関係を欠く。また、差額分である月額1万4000円は、売買価格と比較すると軽微であり、著しく不動産経営に影響を及ぼすとまではいえず、仮にYが正しい情報をXに提供していたとしても、購入自体の取りやめや売買価格減額が確実であるとまで認めることもできないが、本件不動産の経費は、少なくとも適正な投資額としての売買価格決定に影響を与え得る事実ではあり、Xは、正確な情報に基づく意思決定機会を失い、予想していなかった経費負担増が生じたこと、ただしその増額の程度が本件不動産の収支に及ぼす影響は必ずしも大きいとはいえないことを総合考慮すると、慰謝料は10万円と認められる。

東京地裁令和元年10月23日判決

Xが請求した損害のうち、将来発生する電気料金については、その確定性がないとして却下されました。
一方、現実に発生した電気料金と想定との差額に関しては、「説明義務違反と因果関係がある」とまでは断定されなかったものの、正確な情報に基づいた意思決定の機会を失った精神的損害に対し、慰謝料10万円の支払いが命じられました。

宅建業者としての留意点

本判決は、次の重要な示唆を与えています。

  • 形式的な売主である場合でも、事実上の売主として説明義務を負う可能性がある
    特に、契約義務の引受けや窓口業務を担うなど、実質的に売主の立場にあると評価される場面では、説明責任を免れません。
  • 「転売案件」であることは、説明義務を軽減する理由にならない
    所有者からの情報提供だけに依拠するのではなく、自らが管理会社等に問い合わせるなどして、情報の正確性を確認する必要があります。
  • レントロール等に「想定」や「断り書き」があっても、現実と著しく乖離した記載は責任を免れない
    特に投資判断に直結する情報(共用部の経費、賃料水準など)については、根拠をもって説明できる水準の調査を行うべきです。

不動産の売買において、特に投資用物件の場合、収支や経費の見通しは買主にとって重要な判断材料です。
宅建業者が売主として関与する際には、形式にとらわれず、調査義務と説明義務を果たす姿勢が求められます。

情報提供を怠った結果、仮に損害額が小さくとも、精神的損害など別の形で損害が認定される可能性もあります。
物件調査やレントロール作成の段階から、正確性と誠実さをもって対応することが、法的トラブルの未然防止に直結します。

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