私道通行妨害と不法行為責任~建築工事遅延を巡る損害賠償請求が一部認容された裁判例

不動産関連
  1. ホーム
  2. 不動産関連
  3. 私道通行妨害と不法行為責任~建築工事遅延を巡る損害賠償請求が一部認容された裁判例

建築工事の大幅遅延の結果、数千万円規模の損害賠償命令

私道を通じて建築敷地にアクセスする建築計画において、隣地所有者等による通行妨害が続いた結果、建物完成が約2年遅延。建築主が妨害者らに損害賠償を請求したところ、その一部が認容された判決が示されました。

本件は、建築計画の初期段階における近隣調整の重要性、そして工事妨害が不法行為として損害賠償責任を問われ得るという重大な結果を与えるものです。今回はその判決内容と実務上の注意点を解説します。

事案の概要 ― 唯一の接道が「通行妨害」された建築工事

本件では、建築主(原告X1)が既存建物を解体し、RC造7階建の共同住宅を新築するにあたり、敷地が直接公道に接しておらず、いわゆる「建築基準法42条2項道路」に該当する私道を唯一の通行手段としていました。

この私道は、建築主の所有地のほか、隣接する被告Y1の所有地および被告Y2の賃借地を含んでおり、Y1・Y2らが車両通行に反発。舗装破損、ガス漏れ、窓ガラスの破損などを理由に、パイロンや土のうの設置、身体を使っての妨害といった手段で工事を繰り返し妨害しました。

結果、建築工事は累計740日中断し、建物の完成は大幅に遅延。建築主および建設業者は、追加工事費・遅延損害等として合計約2億6000万円の損害賠償を請求しました。

裁判所の判断 ― 「やむを得ない事情はない」として不法行為を認定

裁判所は、本件妨害行為が不法行為に該当するとし、以下の理由から建築主および施工業者の請求の一部を認容しました。

妨害行為に「やむを得ない事情」は認められない

被告側は、舗装破損・ガス漏れ・側溝陥没などを根拠に通行妨害の正当性を主張しましたが、裁判所は以下のように退けました。

平成25年4月頃、工事車両が本件通路を通行した際、Y2賃借土地の舗装の一部を破損し、また、平成26年5月頃、Y2賃借土地部分等に陥没が生じ、工事車両がこれに接触し、Y2建物の窓ガラスを破損したが、当該破損等を除き、本件工事の関係車両の通行により建物に何らかの破損等が生じたわけではないのであるから、Y1らが妨害行為に出たことがやむを得ないとまでいうことはできない。

また、三角パイロンを置いたのは、工事車両によるY2建物の損壊防止をする必要があっためであるとのY2の主張も、土のうを置いたのは、雨水がビルの地下一階に流入しないように防止する必要があったからであるとのY1の主張も、採用することはできない。

平成26年4月に本件通路に立ちふさがったのは、工事車両の通行により更なるガス漏れ事故を防止するためであるとのY1らの主張も、ガス漏れ事故はガス管の老朽化によるものであり、工事車両の本件通路通行により更なるガス漏れ事故が生じるおそれがあったとはいえず、採用することはできない。

また、平成26年5月に本件通路に立ちふさがったのは、ビル東角のL型側溝が陥没したことから、工事車両に脱輪による事故等の危険防止のためであるとのY1らの主張も、X1らが自己負担で陥没補修工事を行う旨を提案しており、採用することはできない。

雨漏り関連工事のために足場を設置したとのY1の主張も、ビルの雨漏り発生から足場設置までに1年以上経過しており、同工事をしなければ直ちに支障が生じる状況であったとはいえず、採用することはできない。

東京地裁平成31年3月15日判決

  • 舗装破損や窓ガラス破損はあったが、それ以外に具体的な損壊は発生しておらず、全面通行妨害を正当化するものではない。
  • ガス漏れ事故は老朽化したガス管に原因があり、工事車両による追加被害の危険性があるとは認められない。
  • 側溝の陥没に対しても、原告側が自己負担で補修を申し出ていたため、妨害の必要性はない。
  • ビルの雨漏り工事のための足場設置も、雨漏り発生から1年以上経過後の工事であり、緊急性に欠ける。

建築主の権利侵害と損害の発生が認定された

本件通路は、公道から本件敷地へ至る唯一の通路であり、Y1らが妨害行為をし、工事車両が本件通路を通行できなくなる事態が生じたことにより、本件建物の完成が遅れ、X1の本件建物を建築し完成させる利益が侵害されたといわなければならない。

本件工事を中断させたY1らの妨害行為は、X1らに対する不法行為を構成するといえ、X1らの請求は、X1については1億2527万円余、X2については3061万円余の限度で理由がある。

東京地裁平成30年11月29日判決

裁判所は、建築主X1には「自己の敷地に建物を建築し完成させる利益」があり、それを妨害した被告の行為は不法行為に該当すると判断しました。結果として以下の賠償が認められました。

  • 建築主X1に対して :約1億2500万円
  • 施工業者X2に対して:約3000万円

宅建業者として留意すべき実務ポイント

接道状況の確認と法的位置付けの明確化

  • 建築基準法42条2項に該当する道路であっても、所有権・賃借権の所在や使用権限は必ず精査すべきです。
  • 「通行地役権」の設定の有無、「私道持分」の帰属などを事前に調査し、トラブルの芽を摘むことが求められます。

近隣関係者との合意形成の重要性

  • 建築計画段階で、近隣住民との調整・説明会の開催を促すなど、合意形成の支援は極めて重要です。
  • 紛争が生じた場合に備え、記録の保存(説明内容・発言記録など)を徹底しましょう。

売買契約書・重要事項説明書における記載の工夫

  • 私道の通行利用にリスクがある場合は、契約条項や重要事項説明に明記しておくことで、トラブル時の免責や調整の余地を確保できます。

まとめ

私道を通じた敷地へのアクセスが唯一であるような建築計画では、その私道の利用可否が事業の成否に直結します。本件のように、近隣住民とのトラブルが長期化し、数千万円規模の損害賠償に発展するリスクも現実に起きています。

この裁判では、私道の妨害者に賠償命令が出ましたが、宅建業者としては、私道に関する調査と説明、調整への関与、そしてリスクへの備えを怠ることなく、事前の対策を講じることが不可欠です。

不動産に関するご相談、業務のご依頼のご相談はお問合わせください。

    必須お名前

    必須メールアドレス

    任意件名

    必須お問い合わせ内容

    任意このホームページを知ったきっかけを教えてください。【複数を選択】

    スパムメール防止のため、こちらのボックスにチェックを入れてから送信してください。