収益物件の用途制限に関する説明義務―買主の損害賠償請求が棄却された事例

不動産関連
  1. ホーム
  2. 不動産関連
  3. 収益物件の用途制限に関する説明義務―買主の損害賠償請求が棄却された事例

収益物件の売買においては、建築基準法上の用途制限や容積率計算に基づく制限を十分に理解し、かつそれを買主に対して適切に説明することが、宅建業者にとって極めて重要です。今回は、建物の1階部分の用途制限に関して損害賠償請求がなされたものの、媒介業者による説明が尽くされていたとして、買主の請求が棄却された裁判例をご紹介し、宅建業者が留意すべき点を考察します。

事案の概要

本件は、個人Xが投資用として12億3,000万円で一棟マンションを購入したことに端を発します。物件は地下1階付地上11階建てで、1階部分(約821㎡)は一見すると倉庫等としての活用が可能と思われる構造でしたが、建築確認申請上は「駐車場」用途として容積率不算入の特例を受けており、その変更には制限が伴うものでした。

Xの代理人を務めたのは、Xの兄であり宅建業者の代表でもあるA。売買契約の際、売主側の媒介業者Y2からは、建物の設計図書や竣工図、面積表等が提供されており、また契約書には「1階の用途は事務所・駐車場」と明記されていました。

売買契約後、Xは当該1階部分を倉庫業者へ賃貸する契約を締結したものの、当該用途での使用に必要な建築確認を得られず、結局は契約解除となり、Y1(売主)およびY2に対して1億円超の損害賠償を請求する訴訟を提起しました。

裁判所の判断

裁判所は以下の点を重視し、Xの請求を棄却しました。

Xの代理人であるAは、本件物件以外にも5、6棟の物件を収益物件として購入し、管理していた経験があり、用途といった法律用語の一般的な意味合いについて理解していたといえる。また、X側には、買主側の媒介業者であるB社や、宅地建物取引士であるCがついており、適時に専門的な助言等を得ることができる状況にあった。

本件売買契約書及び重要事項説明書の特約条項には「マンション竣工図によると1階の用途は事務所 駐車場となっております。」との記載があり、また、Y2から提供された本物件の面積表や設計概要書等を含む竣工図には、容積率の計算過程等が明確に示されていることから、Aにとって本件建物の1階部分が駐車場として容積率対象面積から控除されていることは容易に認識できた。

したがって、Aは、本件契約時点において、少なくとも、本件建物の1階部分の用途が事務所、駐車場とされていることを認識し、その法的意味合い(倉庫として法的に問題なく利用するためには用途変更を要すること。)も理解していたものと認められる。

東京地裁令和2年10月23日判決

  • 代理人Aは収益物件の取引経験が豊富であり、建築法令や用途制限に関する一般的知識を有していたと推認されること。
  • 売買契約書及び重要事項説明書には、1階の用途が「事務所・駐車場」である旨明記されていたこと。
  • 売主側媒介業者Y2からは、設計概要書や竣工図等の資料が提供されており、容積率不算入の扱いが明示されていたこと。
  • これらの情報をもとにすれば、1階部分が容積率の特例対象であり、用途変更には制限があることは容易に理解できたと判断されること。

Y2は、本件契約時点において必要とされる本件物件についての説明や資料の提供を尽くしていたということができ、本件用途制限の存在に関して故意による欺罔行為をしたとはいえず、過失による説明義務違反をしたということもできない。

また、売主Y1の固有の不法行為責任についても、Y2が本件物件について必要とされる説明を尽くしていたことから、Y1が負う説明義務も果たされているものといえ、本件用途制限に関する説明についてY1は何ら法的責任を負わない。

東京地裁令和2年10月23日判決

以上から、売主側の媒介業者が故意に情報を隠蔽したり、説明を怠ったりしたとは認められず、また宅建業者の売主にも独自の不法行為責任は及ばないとされました。

宅建業者が留意すべきポイント

この判例は、媒介業者が適切な資料提供と説明を尽くしていたことが評価され、損害賠償責任を免れた好例です。一方で、もしも設計図書や容積率計算の情報が買主に提供されていなかった場合、結論は異なっていた可能性があります。

建築確認申請時と異なる用途での利用を買主が想定しているケースでは、以下の点に注意が必要です。

建築確認申請時の用途と現況利用の差異を確認

実際の利用形態が建築確認上の用途と異なる場合、それは違法状態である可能性があります。今回の事例のように駐車場用途で容積率不算入の特例を受けている場合、事務所や倉庫への改装によって法令違反となることがあります。

設計図書・竣工図・容積率計算書の交付と説明

買主が専門知識を有していないことも多いため、設計図書等を単に渡すだけではなく、その内容について明確に説明を行うことが肝要です。特に容積率の特例に関しては、視覚的に理解できる形で示す努力が求められます。

買主の「想定用途」との整合性確認

買主が将来的にどのような用途を想定しているかをヒアリングし、その用途が法的に実現可能かを検証することも、媒介業者としての責任の一部です。「倉庫として貸したい」というニーズに対し、「駐車場用途で建築確認されているため用途変更が必要」といった助言を行うことで、後のトラブルを防止できます。

その他にも、住居に対する自治体の地区計画による容積率緩和で建てた物件を、ホテルなどに用途変更すると建築基準法違反となるケースは多いです。

不動産に関するご相談、業務のご依頼のご相談はお問合わせください。

    必須お名前

    必須メールアドレス

    任意件名

    必須お問い合わせ内容

    任意このホームページを知ったきっかけを教えてください。【複数を選択】

    スパムメール防止のため、こちらのボックスにチェックを入れてから送信してください。