不動産を購入した後に「こんなものが埋まってるなんて聞いてない」というトラブルは意外と多いです。特に建物の基礎や解体ガラなどの地中埋設物は見えないからこそ大きな問題になります。
今回は、宅建業者売主が「物件状況報告書」で事前に説明していたことで、宅建業者買主の損害賠償請求が棄却されたという判例をご紹介します。不動産実務に携わる方にとっても、非常に参考になる内容です。
事案の概要
この事案は、宅建業者間の土地売買契約です。
- 某年11月、売主(宅建業者)と買主(宅建業者)は、土地・建物を4億5千万円で売買。
- 特約により、売主の瑕疵担保責任の上限は100万円とされた。
- 売主は、物件状況報告書にて「旧建物の基礎」「地下室に埋めた解体ガラ」の存在を明記した。
- 一方で、買主からは「ガラの量や性質」についての質問はなし。
その後、買主はこの土地を第三者に5億7千万円で転売しますが、当該第三者から「地中埋設物の撤去に1000万円かかる」として減額請求を受け、売買価格を1000万円減額することに合意。
買主はこの損失を「隠れた瑕疵」によるものとして、売主に対して損害賠償を請求する訴訟を起こしました。
裁判所の判断
裁判所は、買主の主張を次の理由で退けました。
地中埋設物は「隠れた瑕疵」について
地中埋設物の撤去作業時写真からは、売主が地中埋設物があると説明した部分以外の土地にコンクリート破片等が埋設されていたと認めることまではできない。また、買主は、本件土地上に、建物基礎及び建物解体時に生じたガラが埋められていることを認識していたことが認められ、基本的には、建物の梁及び基礎並びに、コンクリート破片等は隠れた瑕疵とはいえない。
買主は、コンクリート片が若干埋まっている程度の認識であったと主張するが、買主は売主に対し、どの程度のガラを埋めたか質問しなかったし、売主が埋設物を過少に説明した事実もうかがわれない。また、買主は、ガラについて、鉄の付いてるガラとは思わなかったと主張するが、買主が売主に対し、その旨確認したとか、売主が鉄の付いているガラが含まれていない旨説明したといった事情もうかがわれない。さらに、買主は、アスベストを含むガラも埋設されていたかのような証言もするが、これをうかがわせる客観的証拠はない。
したがって、買主の瑕疵担保責任に基づく請求には理由がない。
東京地裁令和2年5月27日判決
- 売主は、契約時の報告書で地中に旧建物の基礎や解体ガラがあると明記しており、買主もその存在を認識していた。
- 「思っていたより多かった」「鉄が混ざっていた」などと後から主張しても、契約時に確認しなかった買主側の落ち度がある。
- アスベスト混入の主張もあったが、客観的な証拠はなし。
- 瑕疵担保責任に基づく買主の請求には理由がない。
説明義務違反について
買主と売主は、本件売買の際、協議の上、物件状況報告書等を作成したこと、売主が本件土地に、建物基礎及び建物解体時に生じたガラが埋められていることを認識していたことからすれば、売主は買主に対し、建物の梁及び基礎並びにコクリート破片等が埋められていることについて説明していると評価でき、他方で、売主が買主に対しガラの量や種類について事実と異なる説明をした事情はうかがわれない。
よって、説明義務違反に基づく請求にも理由がない。
東京地裁令和2年5月27日判決
- 売主は、閉鎖登記簿謄本の添付なども含め、具体的な説明を行っていた。
- ガラの量や種類について誤った説明をした証拠はない。
まとめ
地中埋設物の問題は、売買後に工事などで初めて発覚することも多く、撤去費用が数百万円単位になることも珍しくありません。
今回の判例では、「物件状況報告書にしっかりと埋設物の存在を記載していたこと」が売主を守る決定打となりました。
✅ 売主側は、「どこまで・どう書くか」で責任の有無が変わる
✅ 買主側は、「曖昧な記載に対してどこまで質問したか」が問われる
物件状況報告書は重要事項説明書の補完資料として、契約条件が固まった後に作成されることがありますが、実は最初に売主に聞いておかなくてはならない内容です。このようなトラブルを防ぐためにも、売買契約前の「物件状況報告書」の記載内容や、説明の有無・具体性について、今一度見直してみてはいかがでしょうか。
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