【業者間売買】「違法建築物の説明義務」――“可能性”の告知で足りるとされた裁判例

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取引対象物件に遵法性リスクがある場合、宅建業者間の取引では売主側はどこまで説明すべきか――。
本件判決は、「違法建築物である“可能性”」まで説明していれば、宅建業者としての責務を尽くしたと評価し得ることを示した実務上重要な事例です。

事案の概要

売主(宅建業者)と買主(宅建業者)は、土地建物について以下の不動産売買契約を締結した

  • 売買代金:4億7,000万円
  • 手付金:1,000万円
  • 手付解除期日:某年12月7日
  • 違約金:売買代金の20%相当額
  • 容認事項:売主は本物件建物地下1階部分を事務所として賃貸しており、地下1階を利用したままだと容積率超過になる可能性がある。

買主が融資を申し込んだところ建物の遵法性を問題として融資を断られたことから、手付解除期日の延長を売主に依頼した。

売主が手付解除期日の延長に応じなかったことから、買主は12月7日付けで説明義務違反を理由として売買契約を解除する旨の通知を行った。

買主は以下の理由で手付金の返還及び違約金の支払いを求めて提訴した。

  • 売主は建築当初から建物の容積率が超過していることを知っていて、違法建物として是正命令が下されるおそれがあることを買主に説明していない。
  • 売主は宅建業者として、容積率超過は違法なものであると知りながら買主に告げなかったことは重要事実の不告知・不実告知にあたる。
  • 買主は、建物の容積率超過について既存不適格建物だと考えて売買契約を締結したが、建物は建築当初から容積率を超過した違法建築物であったことから、買主には錯誤があり本件売買契約は無効である。

    裁判所の判断

    重要事項説明義務違反、重要事実の不告知・不実告知の有無について

    売主は、媒介業者を通じ、買主に対して検査済証や登記事項証明書を含む関連書類・本件建物の賃貸借契約書も交付していること、検査済証と登記事項証明書との間には地下室の存在に対して齟齬があり、買主もこれを認識していたこと、本件売買契約締結前において、売主は買主に対して、容積率超過の事実とともに融資がおりない可能性についても言及した上で融資がおりるか買主に確認していることからすれば、本件建物の違法性の問題について買主が認識できる情報を提供していたことが認められ、宅建業者である買主において、本件建物の購入を判断するのに必要な事項を説明、告知しているといえる。

    買主は、何らの説明を受けていないと主張をするが、売主は媒介業者を介して、特に融資の可能性について買主に確認を求めており、既存不適格建物であれば想定される程度を超えてさらに確認していることから、本件建物の遵法性に問題があることについては説明をしており、買主が既存不適格建物であると誤信するような説明にとどまったというものではないと認められる。したがって、売主は重要事項説明義務を果たし、重要事項を告知しているというべきである。

    東京地裁 令和2年2月13日判決

    • 重要事項説明義務/告知義務は充足
      • 書類一式を交付し、容積率超過の可能性と融資リスクを具体的に示している。
      • 買主は宅建業者であり、提供資料から遵法性を判断し得た。
      • 「違法建築物である」とまでは告知しなくても「容積率超過になる可能性がある。」までの説明で義務違反に当たらない。

    錯誤無効について

    買主は、本件建物が容積率を超過していないか、超過していたとしても既存不適格建物だと考えて本件売買契約を締結したが、本件建物は建築当初から容積率を超過した違法建築物であったことから、買主には錯誤があり、本件売買契約は無効である旨主張する。

    しかし、前述のとおり、買主が既存不適格建物と考えて本件売買契約を締結したとは認められず、また、仮に売主からの説明にもかかわらず、買主が誤認したというのであれば、買主の重過失が認められる。したがって、買主の錯誤無効の主張は、採用できない。

    東京地裁 令和2年2月13日判決

    • 錯誤無効は成立せず
      • 買主が「既存不適格」と誤信して契約した事実は認め難い。
      • 仮に誤認があったとしても、宅建業者である買主の重過失を否定できない。

    業者間取引実務への示唆

    遵法性リスクの告知範囲「容積率超過の可能性」を明示し、関連資料を開示すれば足りる場合がある検査済証・図面・登記簿・台帳等を網羅的に交付し、齟齬があればその旨を説明
    業者間売買ならではの責任分担買主も専門家として自己調査義務を負う重要事項説明書の「容認事項」欄に遵法性リスクを明示し、議事録・メールで痕跡を残す
    • 説明義務の”深度”は当事者の属性と提供資料の内容で決まる。
    • 業者間売買では、買主側にも高度な注意義務が課されるため、売主が「リスクの存在を認識し得る情報」を適切に開示していれば、違法建築物かどうかを断定的に説明しなかったとしても責任を問われにくい。

    契約実務では「説明したつもり」ではなく、「説明したことが客観的に立証できるか」が成否を分けます。業者間取引ではお互いがプロのため、そのまま鵜呑みで「大丈夫だろう」と取引を進めると事故になることもありますので営業記録・メール保存・メモの保存――基本を徹底することこそ最大のリスクヘッジです。

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