看板の設置制限について説明がなかったとしても、媒介業者の損害賠償責任は認められなかった事例

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事業用賃貸物件に関するトラブルとしてしばしば見られる「看板設置」に関して、媒介業者への説明義務違反が争点となった裁判例をご紹介します。

この事案では、共用部分に看板を設置できないことを事前に説明しなかったことが、宅建業者の損害賠償責任につながるのかが争点となりましたが、裁判所はこれを否定しました。

事案の概要

水産加工品の販売店を開業しようとしていた借主は、媒介業者を通じて、マンション1階部分の区分所有建物を賃借しました。この物件は、複数の店舗が並ぶ形で入口上に共用のビニール製テントが設置されていました。

契約前の段階で、借主は「店舗として使用したい」「看板を出したい」と伝えてはいましたが、どのような形でどこに設置したいかといった具体的な希望は示されていませんでした。

媒介業者から送付された契約関係書類には共用部分等の使用は管理規約及び使用細則に準ずることが記載されていましたが、管理規約・使用細則そのものは添付されていませんでした。

借主は、テント部分に着脱可能な看板(店名入りカバー)を設置するため管理組合に申請しましたが、管理規約上、外観の変更は禁止されているとして却下されました。規約には、外観の変更を禁じ、共用部分への看板等の掲出を禁ずる条項があったためです。

その後、店舗は開業したものの、思うような集客が見込めず、営業開始からわずか1か月後に閉店を決断。借主は、重要な制限事項についての説明義務を怠ったとして、媒介業者および貸主に対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。

裁判所の判断

裁判所は、以下のように判示し、借主の請求を棄却しました。

借主は、建物の見分の際に、店舗に看板を設置したい旨を伝えたが、テントに広告を掲示することまで伝えてはいなかった。

借主は、テントが建物の共用部分に該当し、共用部分の使用方法に制約があることを認識していた。

賃貸借契約書の特約事項には共用部分の使用は管理規約及び使用細則に準じると記載され、規約及び細則には共用部分への広告看板等の取付けは禁止する旨定められていた。

借主は、テントへの広告設置が管理組合に許可されなかったことを知りながら広告を掲示した。

そして、媒介業者が書面を郵送したのみで対面で説明しなかったことについては、

「宅建業法に定める宅建業者としての業法上の業務を履践していないことを指摘することができる」

としつつも、

「説明義務違反は、個別の契約当事者の理解の程度と契約に至る過程において示された要望の内容等に応じて発生する具体的な義務違反であるべきところ、…借主に対しテントに広告を掲示することができない旨を予め具体的に伝えるべき義務が生じていたとまでいうことはできない」
「この点から直ちに民法上の債務不履行責任又は不法行為責任が発生するということもできない」

と判断されました。

また、貸主に対しても、

「上述の及びの事情を考慮すると、債務不履行責任又は不法行為責任が発生するための貸主固有の義務違反も認められない」

としています。


この判例では、いわゆる郵送契約について、媒介業者の宅建業者としての義務を履践していないとしています。その上で直ちに民法上の債務不履行や不法行為責任が発生することはないとされていますが、特にマンションの賃貸借契約の媒介では繁忙期には郵送契約をしてしまうケースは多くみられます。IT重説が出来るようになっても、説明すべき事項は多く時間もかかりますので、宅建取引士が限られる現場では説明内容を追求することにも限界があるのではないでしょうか。

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