宅建業者は「形式的な理由」で買主のローン特約解除を否定しないよう慎重な判断を
2021年1月6日の東京地方裁判所の判決では、不動産売買契約におけるローン特約に基づく買主の解除が有効と判断され、売主側(宅建業者)に対し手付金の返還が命じられました。
本件は、宅建業者として契約実務に携わる者にとって、ローン特約の運用や買主対応のあり方について再確認すべき重要な判示がなされています。
事案の概要
ローン特約付きの売買契約と買主の解除申出
本件では、買主が売主(宅建業者)との間で土地の売買契約(売買代金4,800万円)を締結し、手付金100万円を支払いました。
契約には住宅ローン利用の特約が付され、主たる融資先はフラット35を扱うローン会社、申込額は建物請負費用を含めた6,600万円とされていました。
買主は契約後、当該金融機関および別の銀行に対してローン申込みを行いましたが、いずれも否認され、契約書に基づき契約の解除を通知。売主に対し手付金の返還を請求しました。
ローン特約による解除の無効と違約金の請求
これに対し、売主は以下の理由により、ローン特約による解除は無効であると主張し、違約解除として約860万円の違約金を求めてきました:
- ローン特約の解除期限を過ぎてからの通知である
- 告知書に記載された年収・勤務先情報に虚偽があり、ローン審査否認の原因になった
- 自ら不利な条件を理由にローン契約を拒否した(買主の自己都合)
つまり「買主の責任による契約解除」であるとし、手付金は放棄させ、さらに売買代金の20%に相当する違約金まで請求しました。
裁判所の判断
ローン特約に基づく解除は有効
東京地裁は、売主側の主張を全面的に退け、買主によるローン特約解除を有効と認定。以下の点が判断のポイントとなりました。
ローン特約の期限延長が事実上認められていた
売主側は「11月17日の期限後の解除通知は無効」と主張しましたが、同日以降のやりとりや、売主が解除に一定の合意を示していた事実(11月24日に解除確認書を交わしたこと等)を踏まえ、裁判所は期限の実質的な延長を売主が黙示的に認めていたと判断しました。
融資否認に対する買主の責任は否定された
確かに、買主が提出した告知書の年収・勤務先には事実と異なる記載が一部あったものの、それが決定的にローン否認の理由であったとはいえず、また、金融機関側から求められた保証人の提供や厳格な条件に対し、買主が交渉の末に断念したことも、「自己都合」とは評価できないとされました。
【結論】手付金返還請求が認められ、売主の請求は全部棄却
裁判所は、買主の主張を全面的に認め、売主に対して手付金100万円の返還を命じ、違約金860万円の請求は棄却しました。
これは、ローン特約は買主の保護を目的とする条項であり、形式的な要件不備や疑義をもってその効力を否定すべきではないという実務上の重要な教訓を示しています。
形式面だけで解除を拒否することのリスク
本判決は、以下の観点で宅建業者にとって特に重要な示唆を含みます。
- ローン特約の運用にあたっては、解除期限や書面手続を形式的に捉えすぎず、実質的な協議状況をふまえた判断が必要であること
- 告知内容やローン否認理由の精査は慎重を要し、安易に「買主の責任による解除」と断定すべきではないこと
- 契約書に基づく解除対応においても、事後的なやりとりや解除確認書の取り交わしが、特約の効力に影響を及ぼしうること
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