この事例では、融資特約による契約の白紙解除を求める個人買主に対し、手付解除期限が過ぎていることを理由に手付解除ではなく違約金の支払いを求める売主宅建業者の主張がぶつかりました。
事案の概要
裁判所の判断
融資特約期限延長について
買主は、融資特約の期限延長について売主との合意があったと主張しましたが、売主からは、銀行の融資内定を記す書面か、中間金の支払いをしないと期限延長の合意に応じられないとした事実があり、合意書に署名押印もしておらず、裁判所はこの合意の存在を認めませんでした。
手付放棄による解除の成否
宅建業者が売主となる今回の取引は、手付放棄ができる期間を設けており、解約のときはすでにこの期限を超えていました。高額な違約金を支払うよりは、手付金を放棄して解約するほうが買主に有利になりますがこの場合はどうなるでしょう。
宅建業法では次のように規定しています。
- 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領することができない。
- 宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであつても、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
- 前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。
このように買主は手付金を放棄すれば契約を解除することができます。手付放棄による解除は、相手方が履行に着手するまではいつでもできます。この規定に反する特約は無効となりますが、今回の契約内容はどうでしょうか。
宅建業者が売主の場合は、本来なら相手方が履行に着手するまでなら、いつでも手付解除ができるはずなのに、この契約では期限を設けています。この点、買主が不利になります。
裁判所は、この手付解除期限の特約が宅建業法第39条に違反して無効としています。
このため、まだ履行に着手していない状況では、買主は手付解除ができる状況にあるので、債務不履行にならないと判断されています。
このように宅建業者が売主の場合は、以下の点に注意が必要です。
- 手附解除期限を設ける特約は、宅建業法に違反して無効になる
- 残代金支払期限を過ぎても買主は履行に着手する前なら、手附放棄で解除できるため、即違約にならない
- 手附解除期限を設ける特約は、業法違反として行政処分の可能性もある
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