不動産は大きな取引です。すこしの要因でも心が大きく揺らぐことがあるでしょう。「やっぱりやめたい。契約直前で不動産売買を中止できるのか」について解説していきます。
不動産売買は価格が大きいだけに、準備にも多くの時間や費用を費やすことが少なくありません。まだ契約に至っていない場合にそのような手間や費用を無視して一方的に中止しても良いのでしょうか。
信義則上の注意義務違反によって損害賠償責任を負う
土地の売買契約締結に向けて当事者双方が準備を進めてきたところ、契約前日になって一方が白紙に戻したいと言ってきた事例について解説していきます。
本事例は地方裁判所の判例を元に構成しています。
紛争までの経緯
各当事者の言い分
買主Xの主張
- 売買契約は重要な部分について事実上の合意が成立しており、保証書による登記申請行為も行われたため、Yの契約締結拒否は信義則上の注意義務違反である。
- 契約成立を前提に金融機関から資金を借り入れていたが、契約不成立により手数料や利息の支払い等の損害を被った。
売主Yの主張
- 売買契約の締結に至らなかったことについて信義則上の注意義務違反はない。
- Xの主張する損害はYの行為と相当因果関係がない。
本事例の問題点
売買契約の締結に向けて交渉を進めた場合、契約が成立していないからといって一方が自由に契約締結を取りやめることはできないという「契約締結上の過失」の理論が重要となります。信義則違反にYの行為が該当するかが問われました。
判決の概要
信義則違反の認定
福岡高裁は、Yの信義則違反を認め、不法行為の成立を肯定しました。Xが売買代金支払いのために金融機関から借入れしていた資金の手数料・利息等の損害(約9,000万円)をYが負担すべきとしました。
判決の論旨
交渉の事実経過から、Xは契約成立を期待し、そのための準備を進めることは当然であり、契約締結の準備がこの段階に至った場合、YはXの期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に努めるべき信義則上の注意義務があるとしました。Yが「正当な理由」なく契約締結を拒否したことは違法であり、不法行為による損害賠償責任が認められました。
まとめ
契約締結前の信義則
契約締結の前だからといって自由に契約を取りやめることができるわけではありません。契約の締結交渉に入った以上、正当な理由もなく契約締結を拒否した場合は信義則違反として不法行為による損害賠償責任が生じる可能性があります。本事例は、不動産売買契約における信義則の重要性を再認識させるものであり、契約交渉においては慎重な対応が求められます。
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