認知症による意思能力の欠如が売買契約を無効にした事例

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東京地裁判決平成21年10月29日:紛争の内容

このケースは、認知症の高齢者が行った不動産売買契約が無効とされた事例です。東京地方裁判所で平成21年10月29日に判決が下されました。最終的には、売主Xが認知症により意思能力を欠いていたために、売買契約が無効とされ、その後の転売契約も無効となりました。

契約の経緯

  1. 第1売買契約(平成20年3月24日)
    売主Xと買主Y1の間で土地付き建物の売買契約が締結され、所有権移転登記が行われました。Xは契約時、本件不動産を同年6月末までに明け渡すことを約束しました。しかし、Xはこの時点で本件建物に居住しており、他の施設への入居予定はありませんでした。
  2. 第2売買契約(平成20年6月26日)
    Y1とY2の間で再び売買契約が締結され、所有権移転登記が行われました。しかし、Xは第1売買による売買代金を受け取っていないと主張し、所有権の移転を否定しました。

売主Xの認知症の状況

  • 医師の診断書
    Xは平成19年8月2日付の主治医意見書及び平成20年8月26日付の診断書により、特定不能の認知症および器質性精神病と診断されました。短期記憶に問題があり、日常の意思決定を行うための認知能力や意思の伝達能力が欠如しているとされました。
  • 成年後見開始
    平成20年8月8日、Xの成年後見開始の審判が東京家庭裁判所に申し立てられ、同月20日に成年後見開始が認められました。

各当事者の主張

第2売買の買主Y2の主張

  • 司法書士とXとのやりとりから、Xには判断能力の低下は見られないと主張。
  • 善意の第三者であるため、不動産の取得は有効であると主張。

Xの法定代理人Zの主張

  • 第1売買当時、Xには意思能力がなかったため、売買契約は無効であると主張。

裁判所の判断

裁判所は、次のように判示しました。

Xはアルツハイマー型認知症を患っており、本件不動産の売却に伴い自分の住居が失われるという重大な問題点に思い至らないほど症状が進行していたため、自己の財産の処分や管理を適切に行う判断能力を欠いていた。そのため第1売買契約は無効である。したがって、Y2は善意の第三者として保護されない。

Y1は不動産の所有権を取得できず、Y2も無権利者となるY1から所有権を承継取得することはできない。

まとめ

この事例は、不動産取引における意思能力の確認がいかに重要かを示しています。宅建業者は、取引当事者の意思能力や真の権利者であるかどうかを確認する基本的義務を負っています。高齢化社会の進展により、高齢者との取引における問題や紛争が増加しており、意思能力の確認が特に重要です。認知症は日によって症状に差があり、短時間の面談では判断が難しい場合があります。

当事者の意思能力に疑いがある場合は、成年後見制度の利用を検討することが重要です。ただし、手続に時間がかかるため、余裕を持った事前準備が必要です。短期売買の場合、前所有者からの物件取得が適正かどうかの調査を入念に行う必要があります。

この事例は、認知症による意思能力の欠如が不動産売買契約を無効にする要因となり得ることを示しています。高齢者との取引においては、意思能力の確認や成年後見制度の利用を検討するなど、慎重な対応が求められます。