民泊利用を所有者が承諾している物件でも民泊利用の可否は借主の責任で行う必要がある。

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民泊はハードルが低いのか

旅館業許可では住居専用地域や工業専用地域で営むことが出来ませんが、民泊ではその制限が外れ、工業専用地域以外で営むことが出来ます。そのため事業化のハードルが低いと考えられている節があります。

元々は住んでいる家で空いている部屋に人を泊めることを民泊としていましたが、現在はワンルームや一軒家の空き家を民泊として貸し出すことが殆どであるため、実態は旅館業とほとんど変わりません。そのため規制が徐々に厳しくなってきました。

特に昨今のワンルームマンションは供給過剰であり、空室期間が長くなりがちです。そのため高い収益が見込める宿泊事業への参入と、インバウンドでの需要増加で民泊件数は急上昇しています。

民泊可能な物件

民泊を行うには、その建物の所有者が許可をしなければなりません。これが結構ハードルが高いのです。不特定多数の宿泊客が泊まるので近隣とのトラブルは少なくありません。そのため多くの建物の所有者は民泊を許可したくないのです。

民泊を行いたい業者が、しらみ潰しに建物所有者を当たるのは難しいでしょう。そこで、民泊を許可してくれる所有者から建物を借りて、民泊を行いたい事業者に転貸するサブリース業者がいるのです。こちらの業者も大変な仕事で、断られるのが当たり前の問い合わせを繰り返して「民泊利用を貸主が承諾している物件」を探すのです。

民泊利用を貸主が承諾している物件で民泊の要件を満たさなかった事案

事案の説明

サブリース業者Yが、4階建て9戸の共同住宅の内、5戸を借りて、自社サイトに「民泊利用を所有者が承諾している物件」として登録しました。

民泊事業者Xは民泊を行うために宅建業者Aの媒介により、この5戸を借り受けました。その後、その用途から建物全体に消防設備の設置が必要であるとの指摘を管轄消防署から受けました。

これに対してサブリース業者Yは、あくまで民泊利用を所有者から許可されている物件を紹介しているだけなので、消防設備の設置は民泊事業者X側で行ってほしい旨回答しました。

民泊事業者Xはサブリース業者Yに対して訴訟を起こしました。

  • 賃貸借契約の際に本件建物には民泊事業を行うに必要な消防設備が未設置であること。
  • 民泊事業を行うための消防設備の設置費用を借主が負担しなくてはならないことの説明を怠った。

以上の損害として475万円の賠償を求めました。

判決の要旨

サブリース業者Yが本件各貸室を本件サイト上に掲載していたこと、民泊事業者Xが本件各貸室で民泊事業を営むことを計画して本件各貸室の賃貸借契約を締結したこと、消防法令上、本件各貸室で民泊事業を営むためには、本件建物全体に自動火災報知設備を設置し、1階コミュニティスペースに誘導灯を設置する必要があったが、本件建物にはこれらが設置されていなかったことが認められる。

しかし、本件サイトや本件各賃貸借契約書、重要事項説明書に、本件各貸室ないし本件建物が、民泊事業を行うにあたり必要とされる設備を完備している旨の記載や、民泊事業を行うにあたり法令上の問題がない旨の記載はない。また、本件各賃貸借契約締結に際し、民泊事業者Xが、サブリース業者Yないし媒介業者Aに対し、上記のことを要望したり確認を求めたりした形跡もない。そうすると、本件各賃貸借契約の内容として、本件各貸室ないし本件建物に民泊事業に必要とされる設備が備わっていることまでが含まれていたものと認めることはできないし、貸室の民泊利用につき貸主が承諾している物件情報を提供する本件サイトに物件を掲載したことが、民泊事業に必要とされる設備が備わった建物であることをサブリース業者Yが保証したことになると評価することもできない。

これに対し、民泊事業者Xは、本件建物全体に自動火災報知設備を設置するためには数百万円の費用がかかるところ、社会通念上、建物を部屋単位で賃借する賃借人が、そのような費用を自己負担しなければならないと説明されていれば、賃貸借契約を締結するはずがなく、これは重大な告知事項というべきであり、賃貸借契約締結にあたり、サブリース業者Yはそのことを説明する義務があったと主張する。

しかしながら、消防法令上の取扱いについては、平成29年10月27日付の本件通知によって定められたものであるところ、本件各賃貸借契約はそれから1か月足らずで締結されたものであり、本件各賃貸借契約締結時点で、本件通知の内容が不動産賃貸業者等に周知されていたことを認めるに足りる証拠はないし、サブリース業者Yが本件通知の内容を知っていたとも認められない。

なお、民泊事業者Xが、本件各賃貸借契約当時、本件通知について話題に出したり、消防法令上の取扱いについてサブリース業者Yや媒介業者Aに確認したりした形跡がないことからすると、ホテル及び旅館等その他宿泊施設の企画、運営、管理及び経営等を目的とする株式会社である民泊事業者Xにおいても、本件各賃貸借契約当時、本件通知の内容について把握していなかったことが推認される。

そして、サブリース業者Yは、民泊事業者Xから本件各貸室ないし本件建物において民泊事業を営む場合の法令適合性について調査を依頼されたコンサルタント業者でも、民泊事業を営むための設備を完備した建物を紹介するよう依頼された仲介業者でもなく、本件各貸室の賃貸人にすぎないのであるから、本件各賃貸借契約締結に際し、積極的に法令等を調査して、本件各貸室で民泊事業を営むために必要な消防設備等を備えているかどうかを確認しなくてはいけない義務があったとまで認めることはできない。

裁判所は、以上のように判示し、民泊事業者Xの控訴を棄却しました。


このように民泊事業で部屋を借り受けても、事業を行うための設備投資は民泊事業者側の負担となります。これは他の営業許可でも同様で、例えば「所有者から風俗営業の許可もらっています」と言われても許可の要件を調査して店舗の設備投資を行うのは借主負担になりますから当然の成り行きのように思えます。

店舗と異なり、民泊の場合は本来は住宅用途である物件を、言わば無理して宿泊施設として使うことになりますので、事前調査はしっかりと行う必要があります。

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