仮差押登記の抹消方法:重要な手順と留意点
不動産取引において、仮差押登記が付されている物件の売却は、一筋縄ではいかないことがあります。今回は、仮差押登記を例に、抹消登記をする方法とその手順について解説します。
仮差押登記とは?
不動産取引において、仮差押登記が付されている物件は、購入や売却に際して注意が必要です。仮差押登記とは、金銭債権などを保全するために裁判所の命令により登記されるものです。この登記により、債務者が財産を処分して債権者が回収不能になることを防ぐ目的があります。
しかしなかには債権回収が完了していても仮差押登記が残っているという場合もあります。このような場合は、登記が設定された時期がかなり昔で、債権者自体に相続が発生していたり、所在不明なことがあり得ます。
このような場合の仮差押登記の抹消について解説していきます。
債権不在の仮差押登記の抹消方法
仮差押登記を抹消するためには、以下の方法があります。
債権者による取下げ:
債権者が仮差押登記の抹消に同意し、裁判所に対して保全命令の申し立てを取り下げる方法です。債権者との交渉が必要ですが、同意が得られれば比較的短期間で抹消できます。
事情変更による保全取消し:
仮差押命令後に事情が変わり、保全の必要性がなくなった場合、裁判所に申し立てを行い保全命令の取消しを受ける方法です。弁済等による債権の消滅、建物の取り壊し命令後に債権者が十分な物的担保を得た場合等が該当します。また、債務者による仮差押解放金の供託によって仮差押が取り消されるなどが該当します。
起訴命令による保全取消し:
債務者が裁判所に対し、債権者に訴訟の提起を命じるよう求め、裁判所は期間を定めて訴訟提起を命じ、債権者がこれに応じないときは、裁判所は、仮差押を取り消し、嘱託により登記は抹消されます。
いずれにしても債権者の協力が必要になってきます。債権者側が協力してくれないという前提であれば、この中でもっとの利用されているのが起訴命令による保全取消です。
起訴命令による保全取消しにより仮差押登記を抹消するまでの期間
債権者の同意が得られれば短期間で抹消できる可能性がありますが、債権者に相続が発生している場合や所在が不明な場合は、抹消までに6か月から1年程度の期間を要することが少なくありません。
起訴命令による保全取消しでは以下のステップが考えられます。
債権者の所在確認:
債権者やその相続人の所在を確認する必要があります。相続人の探索や戸籍謄本の取得が必要で、士業等の専門家への依頼が望ましいです。
債権者との交渉:
債権者やその相続人と交渉し、抹消に同意してもらう手続きを行います。交渉が難航する場合は、弁護士に依頼することが効果的です。
裁判所への申し立て:
債権者が協力しない場合、起訴命令を通じて保全取消しを求めます。債権者が訴訟の提起に応じなかった場合に、裁判所の命令により仮差押えが取り消され、登記が抹消されます。
まとめ
仮差押登記を抹消するためには、いくつかの方法があります。債権者の同意を得ることができれば良いのですが、そもそも債権者の所在確認から始める場合や、交渉には時間がかかることが多くあります。専門家への相談がスムーズに進めるための鍵となります。
参照条文
民事保全法第1条
民事訴訟の本案の権利の実現を保全するための仮差押え及び係争物に関する仮処分並びに民事訴訟の本案の権利関係につき仮の地位を定めるための仮処分(以下「民事保全」と総称する。)については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。
仮差押えや仮処分は、権利の実現を保全するために行われます。仮差押えは、金銭債権の回収を確実にするための手段であり、裁判所の命令によって行われます。
民事保全法第20条
仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
第2項省略
仮差押命令は、強制執行を行うのが困難になる恐れがある場合に発せられます。これは、債権者が債権を回収するための重要な手段です。
民事保全法第37条
- 保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければならない。
- 前項の期間は、二週間以上でなければならない。
- 債権者が第一項の規定により定められた期間内に同項の書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない。
※4項以降省略
起訴命令による保全取消しは、債務者が裁判所に対して債権者に訴訟を提起させる手段です。債権者が訴訟を提起しない場合、仮差押が取り消されます。
民事保全法第51条
債務者が第二十二条第一項の規定により定められた金銭の額に相当する金銭を供託したことを証明したときは、保全執行裁判所は、仮差押えの執行を取り消さなければならない。
第2項省略
仮差押解放金を供託することで、仮差押を解除することができます。この方法では、供託金を供託所に供託する必要があります。