道路擁壁のセットバック工事についての説明義務違反

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東京地裁判決平成30年9月27日の紛争の内容

本件は、土地売買契約において、建物の再築にあたって既存擁壁を取り壊す必要がない旨の誤った説明を仲介業者が行ったため、宅建業者の買主が仲介業者に対して損害賠償請求を認められた事例です。以下に、紛争の経緯を詳細に述べます。

土地購入と既存擁壁の説明義務違反

  1. 土地購入の経緯
    宅建業者の買主Yは、平成28年7月、仲介業者Xの仲介により、売買代金7,300万円で宅地を購入する売買契約を締結しました。
  2. セットバックと擁壁問題
    本件土地は、建築基準法42条2項道路に接しているため、道路中心線から2メートルの位置まで敷地をセットバックする必要があり、セットバックをするには崖地となっている箇所の擁壁(以下、「本件擁壁」)を取り壊し、新たに擁壁を築造する必要がありました。
  3. 契約書・重要事項説明書の案
    仲介業者Xが宅建業者Yに契約締結前に送付した売買契約書・重要事項説明書の案には、「セットバックに合わせて、新たに擁壁を造り替える必要があり、その費用は買主の負担とします。」との条項が設けられていました。しかし、宅建業者Yはそのような条件では購入できない旨を伝えたところ、仲介業者Xは売主の了解を得て、この条項を削除し、実際に取り交わした売買契約書・重要事項説明書にはこの条項は記載されていませんでした。
  4. 誤った説明と発覚
    契約後、宅建業者Yが依頼した一級建築士の調査により、本件擁壁を取り壊した上で新たに擁壁を築造しなければ建物を建築できないことが判明しました。
  5. 契約の解約と支払い
    宅建業者Yは売主に対し、本件売買契約を白紙解約する旨の通知をしましたが、弁護士の助言を受けて翻意し、やむを得ず売買代金を支払い、決済を完了しました。
  6. 訴訟の提起
    宅建業者Yは仲介業者Xに対して媒介契約に基づく報酬を支払わなかったため、仲介業者Xは宅建業者Yに対し媒介報酬268万円の支払いを求めて訴訟を提起しました。これに対し、宅建業者Yは仲介業者Xに対して媒介契約上の債務不履行または不法行為により約1,555万円の損害を被ったとして反訴を提起しました。

当事者の言い分

宅建業者買主Yの言い分

  1. 費用負担の回避
    セットバックに伴い本件擁壁を取り壊して新たに擁壁を築造しなければならない場合、多大な費用を要するため、本件土地は購入しなかった。
  2. 説明義務の履行
    Xは媒介契約に基づく善管注意義務として、本件土地が建築基準法42条2項道路に接していることにより新たに建物を建築するには、本件擁壁を取り壊して新たに擁壁を築造する必要があることについて調査し、説明すべき義務があった。
  3. 誤った説明
    Xはセットバックに伴い本件擁壁を取り壊す必要はない旨の事実と異なる説明を行い、契約書案および重要事項説明書案に記載されていた本件擁壁を再築する必要がある旨の条項を削除するなどして、Yに本件土地を買い受けさせた。
  4. 報酬請求の否認
    Xは適切な業務を行わなかったため、報酬請求権は発生しない。

仲介業者Xの言い分

  1. 公知の事実
    本件土地において建物を建築する場合、セットバックに伴い本件擁壁を取り壊して新たに擁壁を築造する必要があることは近隣の不動産業者では公知の事実であり、Yもこの事情を知っていた。XがYに対して、本件擁壁を取り壊す必要がないと虚偽の説明をしたことはない。
  2. 契約条項の明記
    契約書案および重要事項説明書案に記載されていた本件擁壁を再築する必要がある旨の条項は削除されましたが、セットバックが必要であることは契約条項から削除されずに明記されていました。したがって、Yも擁壁の再築が必要であることを理解していた。

本事例の裁判所の判断

裁判所は、以下のとおり判断し、仲介業者Xの債務不履行責任を認め、宅建業者の買主Yの損害賠償請求を一部認容するとともに、Xの媒介業務の瑕疵により売買契約の目的を達成できなかったとして、Xの報酬請求を棄却しました。

  1. 債務不履行責任
    仲介業者Xは宅建業者Yに対して、宅建業者として媒介契約に基づき、本件土地上に新たに建物を建築する場合、建築基準法上の規制により本件擁壁を取り壊して新たに擁壁を築造する必要があることについて説明義務を負っていました。しかし、仲介業者Xは宅建業者の買主Yに対して、本件擁壁を取り壊す必要がないと区役所に確認した旨の、事実と異なる説明を行い、その旨誤認させて、Yに本件土地を買い受けさせたことから、債務不履行責任を負うと認められました。
  2. 損害額
    Yは、本件土地で戸建住宅の建売事業を行うため、本件擁壁工事を行い、工事費用として1,414万8,000円を支出しましたが、Xの債務不履行がなければ、本件土地を購入することはなかったため、購入による損害が債務不履行と相当因果関係のある損害と認められました。本件土地の更地価格は約8,635万円であり、旧建物の撤去費用195万円および擁壁工事費用1,414万8,000円を控除した適正価格は7,025万円余りとなります。Yは擁壁の取り壊しを要しないと誤認して本件土地を7,300万円で購入したため、その差額に弁護士費用27万円を加えた301万8,000円が損害と認められました。
  3. 報酬請求の否認
    XはYとの間で媒介契約を締結し、その媒介により本件売買が成立しましたが、Xの業務の瑕疵により契約の目的を達成できなかったため、XはYに媒介契約に基づく報酬を請求することはできないと判断されました。

まとめ

本事例は、宅建業者が買主に対して行う説明義務の重要性を強調しています。以下の点に学ぶことができます。

  1. 説明義務の重要性
    宅建業者は、重要事項説明義務に基づき、建築基準法に基づく制限についても説明義務を負っています。また、宅建業法第47条第1号は、宅建業者が故意に重要な事実を告知せず、不実を告知することを禁止しています。本件では、仲介業者Xがセットバックに伴う擁壁の取り壊しについて不実告知したため、説明義務違反として責任を負いました。
  2. 調査義務の徹底
    宅建業者は、重要事項説明の前提として、調査義務も負っています。本件のように、セットバックや擁壁の取り壊しが必要な場合、その詳細を調査し、正確に説明することが求められます。
  3. 媒介業者の責任
    媒介契約において、媒介業者に業務上の注意義務違反があり、委託者が損害を被った場合、媒介業者の責に帰すべき事由によって媒介行為の債務不履行があったこととなり、媒介業者は報酬請求ができません。本事例では、媒介業者の報酬請求が棄却され、妥当な判断といえます。
  4. 宅建業者買主の注意義務
    宅建業者買主は、仲介業者の説明を鵜呑みにせず、自ら法令上の制限を調査し、必要に応じて契約条件を交渉することが重要です。

本事例は、土地売買における仲介業者の説明義務と調査義務の重要性を示し、宅建業者買主も自己防衛のために適切な調査を行う必要があることを示しています。

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